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異世界に導かれし者  作者: NS
第8章 逢魔時の街メーテス
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8-15 閑寂の剣2

「何か恥ずかしいにゃぁ……」



 苦笑いしながらノアはそう話を切り出し、話を続けた。


 ノアは幼い頃からルミエールと共に暮らしていた。この頃はまだ笑ったり、泣いたり感情豊かで明るくてよく話す天真爛漫な少女だったようだ。


 そして様々なことを教わって今に至るまで自分を磨き修業を続けること十年以上。


 昔は後ろで隠れてルミエール達が戦う様子を見てきたノアは、気付けば幻の冒険者パーティー『解する者』の主力メンバーであり、前衛と中衛を中心となっていた。


 しかし、そんな強くなったノアではあったが彼女には悩んでいることがあった。


 それはある日を境に毎晩同じ悪夢を見続けていたということである。


 内容は朝起きたら覚えていないが、自分の大切な何かが消えてしまうということと同じ夢を見ているということだけが何故だかはっきりと分かっていた。


 最初は気のせいだと思っていたが、心配させまいと誰にも言わなかったノアは夢を見続ける内に不安と悲しみだけが積み重なっていった。


 そして、いつしか耐え切れなくなり。


 ノアは大切な人を失いたくないという気持ちから、人と距離を置いて親密な関係になって大切な人ができることを恐れるようになった。


 食事もあまりとらなくなり、悪夢を恐れて眠る時間も極端に減り、人が変わったように無口で無表情になってしまったノアにルミエールがある日プレゼントを贈った。


 それがこの『魔剣クシア』である。


 斬った相手の精神を乱し魔力の制御が難しくする。そして相手に冷静な判断が出来なくさせるという力を持つ武器だ。


 だがルミエールがこの武器をノアに渡したのは他の狙いがあったからであった。



「この武器を身につけていると心が安らぐんだにゃ」



 ノアは愛おしそうに質素な鞘に納められたクシアを見つめ、撫でながら話し続けた。


 ノアの言う通り、クシアには隠された力があった。それがノアの言う、使用者に安らぎを与え、魔力の制御がより精密に出来て、どんな状況でも冷静な判断を出来るようにする力である。


 そしてこれを境にノアな悪夢を見なくなり、徐々にパーティーのメンバーとも話を出来るようになっていき、以前のノアに戻りつつあった。



「にゃはは……素材の話を聞かれたのに、全く違うことを色々と話し過ぎちゃったにゃ」


「全然いいよ。何と言うか……大変だったんだな。簡単に当時のノアの気持ちが分かったなんてことは言えないけど、そのクシアが大切な物だってことは良く分かったよ」


「まあにゃ!」



 ノアはスープの残りを一気に飲み干し、テーブルにコップを置いて一息ついて、拓海に目を向けた。



「それにしても君は大したやつだにゃ」


「え、急にどうした?」



 突然微笑を浮かべ、優しい目で拓海を眺めながらそう言うノアの耳の先は少しだけ垂れていて、尻尾はゆらゆらとゆっくり揺れている。



「アイリスや魁斗が言ってた意味が少し分かったにゃ。悩みとか何を話しても受け入れて、しっかりと聞いてくれる。それに君と話すと何故か落ち着く。そんな何か人を安心させる何かを持ってると思うにゃ」


「買いかぶり過ぎだって。俺は話を聞くのが元から好きなだけだよ」


「それでも、あの二人は少なくともそう言ってたし、私もそう感じてるにゃ。中々君みたいな人はいないと思うにゃ」


「そ、そうなんだ……。何だろ、ありがと?」


「にゃはっ、そうゆうとこだにゃー!」



 それから話を聞いたところクシアに使われた素材については、何故かルミエールが教えてくれなかったらしい。


 どうやら何か訳ありなのか昔尋ねたら、ルミエールは返答を誤魔化したようだ。


 

「あ、そうにゃ。拓海も何か聞かせて欲しいにゃ! 例えば……魁斗の妹で拓海の恋人でもある胡桃って子の事とか、私に似た見た目の志乃って子の事とか」


「っ! アイリスから聞いたのか?」


「そうにゃ! 少ししか聞いてないから、拓海とその子達との体験談とか聞きたいにゃ!」


「そうだなぁーー」



 そうして二人は見張りの時間が終わるまで、語り合いノアの心の中で無意識のうちに少し何かが変わっていくのだった。

 

忙しく、しばらく更新頻度が落ちるかもしれません。申し訳ないです。

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