8-11 不死王1
探索を終えた四人は一度集まり、拓海が見つけた書記を四人で見返していた。皆反応はそれぞれ違うが、ページが進むにつれて表情は険しいものに変わっていった。
「ーーっていう感じで終わりなんだけど、この手記の持ち主が誰か分かる人はいるか?」
「おそらくハンスさんだ」
声がした方に目を向けると、壁にもたれて何やら複雑そうな表情の魁斗が腕を組みながら焦げて傷付いた床を見つめていた。
その後聞いた話では、何度か街に訪れてメーテスで依頼を受けてきた魁斗は、やはりメーテス支部の冒険者ギルドをまだ若いというのに治めていたハンスという男と直接話したこともあったようだ。
魁斗曰く、ハンスは現在は五十歳くらいであり、かつてSSSクラスのメーテス所属の冒険者だったそうだ。
どうやら過去に受けたとある依頼で大怪我をしてしまい、若くして冒険者を引退してからメーテスの冒険者ギルドの職員になったんだとか。
ハンスは人柄が良く、悩みを聞いてくれたり色々アドバイスをもらうということもあった。そして、何より幼い頃から両親がいなかった魁斗にはハンスと父の姿を重ねてしまう事もあり、最近は会えてなかったが昔から魁斗は彼を慕っていたのだ。
そして魁斗はそんなハンスが精神的に参ってしまうほど苦労していたことに胸が痛み、彼が無事でいることを願っていた。
またエンヴィー卿という大貴族はどうやら有名人らしく、この街の貴族にしては珍しく義理堅く常識人であり、無口ではあるが皆に慕われる人物らしく、拓海以外の三人は名前だけ知っているようだ。
マティという少女については皆よく知らないようだったが、アイリスが先程自分が見かけたようにみえた少女と同じ特徴を持っているということもあり、興味を示していた。
そして拓海以外の三人が部屋を調べていった結果、壊れた武器が落ちていたり、部屋に残った血痕と魔法の跡からおそらく建物に侵入してきた何かと交戦したことが分かった。
だが、これ程建物に損害と激しい戦いの形跡がありながら死体が一つもない辺りやはり異常にも思えた。
それから数分間、一度各自休憩をはさんでいるとノアが小声で三人を呼び寄せた。
そしてノアの元に三人が集まると、眉にしわを寄せたノアがメーテスの地図を広げて話し始めた。
「敵戦力が分からない以上教会は後回しね……」
「あぁ、ハンスさん含め、SSSランク冒険者が複数いても勝てなかった可能性もあるしな」
「ではやはり」
アイリスがそう言った後に拓海がその先を答えた。
「まずはここの地下からだな」
三人は拓海の顔を見て頷いたが、皆表情は優れていなかった。
それは地下から漂う危険な気配を皆が察知していたからである。
「俺と拓海が先頭で行こうか。拓海は霊気を眼に纏って何か危険なものが見えたら手信号でも何でもいいから知らせてくれ」
「了解、任せろ」
「じゃあ私は殿ね。真ん中はアイリスがお願い。支援魔法よろしくね」
「任せて下さい!」
「あ、あとアイリスは敵と出くわしたら私と位置交代ね」
「はい、分かりました」
それから話がまとまった四人は武器の状態を確認し、軽くストレッチをして準備を整えてから隊列を組み、微かに何かの音が聞こえてくる地下に続く階段を降り始めるのだった。




