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異世界に導かれし者  作者: NS
第8章 逢魔時の街メーテス
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8-10 残された手記3

 拓海が手帳のページを二、三ページめくりながら見ていくと、そこには日付とその日起こったであろう出来事と、愚痴などの一言コメントが記されていた。



(あはは……ストレスがたまってそうだね)


(だ、だな……)



 そして心の世界で話しながら、苦笑いを浮かべる二人はあまりまじまじと見るのは申し訳ないなと思った拓海がパラパラとページをめくり始めた。



(これって……)



 それから数秒後、拓海のページをめくる手が止まり、拓海は目を見開いた。


 拓海が止めたページにはつい二ヶ月近く前の日付が記されていた。




 ーー夕方、ギルドと取引が行われる予定だった商人が街に来ていないと部下から報告があった。

 その原因が盗賊かモンスターか分からないが、開かれたギルドの職員達での緊急会議で事の解決のため、捜索を含め、捜査する事が決定した。

 明日の有力商人や貴族を含めた会議までに、具体的に何が起きたかなどを詳しく調査し情報を纏めるため、今頃部下の数人が街中を駆け回っているだろう。


 これ以上大事にならなければ良いのだが……ーー




 拓海は次のページをめくる。




 ーー情報によれば、あれからメーテスの門をくぐって他の街からメーテスに入ってきた者はいなくてメーテス周辺を謎の霧が大きく取り囲んでいるらしい。

 普段四六時中声が絶えない街道には人の声は無く、現在商人達は霧の正体が分かり安全が確認出来るまでメーテスから出ないようにという事が決まった。

 もちろん反対の意見も多く、特に有力な商人達は、他の街での大事な商談が流れたとかなり怒っていた。


 色々言われたが、やはり街の住人の命が最優先だ。調査チームが早く原因を突き止め、早期解決する事を祈るーー




 それからしばらくのページは霧の中に入っていった調査隊のメンバーが帰って来なかったり、霧が徐々にメーテスに向かって迫っている事が書かれていた。


 しかし、まだ解決の糸口が見つからずこの手記の持ち主は段々精神的に参ってきたとのコメントもかかれていた。


 そして読み進めていた拓海はとあるページで読むのを止めてしまう。




ーーここ何日も部屋で仕事を寝ずに続けていたためか、部下に仮眠をとって外の空気を吸ってくるように言われた。そして、街の酒場で食事をとっていると奇妙な噂を聞いてしまった。

 最近、行方不明者が出たり、今まで騒がしかった人物が人が変わったかのように静かになったという事が何件かあったという噂だ。


 気分転換なはずが、また調査しなければならない事が増えた。ここくらいでは弱音を吐こう。頭が痛い、誰か代わってくれないだろうか……ーー




 このページを境に事態は急変していくことになる。


 まるで魂が宿ってないかのように反応が薄く、静かになるということが冒険者の中や、職員にも出始めてきたのである。


 やがて、物の流通がなくなる事で物価が高くなり日に日に街の住人からの圧力が増えてきた。


 そして、そんなそろそろ本当に精神的に参っている手記の持ち主は謎の出会いをする。




 ーー今日、私が部屋で頭を抱えていたらまた誰かがドアをノックする音が聞こえてきた。

 また仕事が増えるのかと、暗い気分でドアを開けるとそこにはメーテスの大貴族のエンヴィー卿と傍には初めて見る白銀の鎧と紅のマントを着た騎士と、ゴスロリ姿の色が白く整った顔立ちの金髪の少女が立っていた。

 今まで何も口出ししてなかったメーテスの大貴族が何の用だと思ったが、それから話を聞くと捜査の協力と私の補佐をするため部下の少女を一人貸してやると言ってきたのだ。

 対価は何かと思ったが、特に無く強いて言うならば私兵での独自調査をするから情報だけは回してくれと言ってきた。


 驚いた。少女の名は『マティ』。若いのにこれほど仕事を覚える早く、手際が良く、愚痴も聞いてくれるし気遣いが出来る人物と初めて会った。私兵にこんな良き人物がいるとはエンヴィー卿が羨ましい限りだーー




 拓海が聞いたことがない人物の名を聞いて、心の世界にいるソラに話しかけた。



(エンヴィー卿。マティ……。知らない人の名前だな。ソラも……知らないよな?)


(もちろん……そうなんだけどさ。さっきアイリスが見かけたっていう女の子と、この『マティ』っていう女の子の服装と髪の色が似ているみたいだけど、何か関係あるのかな?)


(あぁ、俺もそう思ったよ。とりあえず続きを読むか)


(そうだね、見てみようか)



 それから読んでいくと、この手記の持ち主はマティと仲も良くなり、色々なことを手伝ってくれたお陰で体調が戻り再び調査を前向きにしていくことになる。


 しかし、行方不明になる者や魂が抜けたような人が減ることは無く、街の外を歩くのは調査隊の人達と一部の冒険者のみとなってしまったようだ。


 その為か、冒険者が一応寄ってくれたり世間話をしてくれるから道具屋や鍛冶屋などしか店は開いてなかったらしい。


 そんな中、調査隊が必死に調査を続けた結果どうやら行方不明者が最後にどこに向かったのか。拓海はついに突き止めた記述を発見した。




 ーー今日、ようやく行方不明者達がどこに向かったのかついに突き止めた。場所は教会。明日、私を含めメーテス在住の現在考えられる最高のメンバーで乗り込む予定だ。霧の原因は未だ分からずといったところだが、何らかの魔法ではないかという事くらいしか分かっていない。


 しかし、今日はいつもに増してどこか様子がおかしい。黒い雲が空を覆い、大雨が降っている。それに、今日はマティの姿が見えない。どうしたのだろうか……ーー




 そして拓海は次のページをめくったが、何も書いていない白紙のページになっていて、それ以降ページをパラパラとめくるが何も書いていない。どうやら最後のページだったみたいだ。



(終わり……か。色々と気になることもあるけど、一度合流するか。この手記の持ち主と、この街に依頼で来た事がある魁斗は会ったことがあるかもしれないし、名前を知っているかもな)


(うん、色々分かって良かったよ。私達がこれを読んでる間にノアさんが他の部屋を全部探索しちゃったかもね)


(あー……とりあえずノアと合流するか)



 そう頭の中でソラと会話を交わした拓海が、その手記をマジックバックにしまって部屋を出ていくのだった。

 

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