8-9 残された手記2
「酷いな……」
ボロボロになった壁や床には乾いた血痕があちこちに残っていて、壊れた椅子や机、武器が落ちている。照明が全て割られていて、暗くて見辛いが、そこら中に戦いの跡が残っているのがわかる。
血の匂いに腐臭が混じり、冒険者ギルドのメーテス支部の建物に入った拓海達四人は顔をしかめた。
この建物は地下五階から三階まであり、今四人がいる一階には受付とロビー、依頼が張り出された掲示板があったようだ。
そして魁斗が依頼が張り出されていた掲示板に近き、まだ掲示されている依頼に目を向けた。
「魁斗、何かあるかにゃ?」
「ふむ……」
しばらくして魁斗が一通り張り出された依頼を見終わり、目を細めて呟いた。
「おかしい、護衛の依頼がないな」
メーテスの冒険者達に届く依頼の殆どはランクによって大まかに三種類に別れていた。
まず一つ目はD、Eランクといった低ランクの冒険者が受ける、街の門での警備。
二つ目はCからAランクの冒険者を対象とした、メーテスから他の街へ向かう一般的な隊商の護衛。
そして三つ目はSランク以上の冒険者を対象とした、大きな金が動く取引が行われる際の護衛や、貴重で高価な商品を運ぶ隊商の護衛、莫大な資産を持つ商人の護衛といった名指しで依頼されるものである。
実際にはメーテス周辺に出現したモンスターの討伐といったものがあるが、魁斗曰く張り出される依頼で一番多いのは隊商の護衛のはずらしい。
魁斗以外の三人も隊商の護衛依頼が一つもない事を確認して、拓海が呟いた。
「何かが原因でメーテスからの隊商が出なくなってたのかな?」
「ん〜分からないね。とりあえず一階から三階を探索しようか。拓海と私は三階から探索するから、魁斗とアイリスは一階から探索ね。敵が来たら出来るだけ接触は避けて、私達との合流を優先して行動して」
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そして、魁斗とアイリスと別れた拓海とノアは敵がいないかを確認しながら階段を使って三階まで辿り着いた。
廊下の床にはガラスの破片や割れた花瓶の欠片が散らばっていて、一階と同様照明が割れて壁や床にはいくつも切り傷や凹んでいる部分がある。
三階は他の階と違い、いくつか四つ少し広い部屋と一つ縦長の部屋が一番奥にあるようだ。
「敵の気配は……ないね」
「あぁ、それに不気味なくらい静かだな」
そして階段を上がって最初の曲がり角で小声で会話を交わした二人は、二手に別れて拓海は一番奥の部屋から、ノアは一番階段に近い部屋から探索をする事にした。
一番奥の部屋は扉が半開きで、拓海は部屋に入る前にその隙間から部屋を覗いた。
(うわぁ……これはまた……)
(散らかってるなぁ……。それにしても、この部屋何の部屋だ?)
ソラと拓海は荒れた部屋の様子に一瞬呆然としてしまった。
奥には大量の書類が積み重なった大きめの机があり、壁の本棚から落ちた本や乱暴に投げ捨てられたような本や、何やら沢山文字がしきつめられた書類が大量に床に散乱している。
それから拓海は部屋に入り奥の机まで歩いて、積み重なった書類に何枚か目を通した。
(なるほど……ギルドの上層部の人間の部屋か)
書類には冒険者やメーテスの商人からの文句や、新しい依頼の申請書など様々なものがあった。
「ん?」
机の上や床に散らばっている書類の山を見て、この部屋の主は相当ストレスが溜まっていたのだろうかと拓海が思っていると、ふと机の上に一冊の手帳が置いてあることに気づいた。
手にとって見てみると、モンスターの丈夫な黒い皮のカバーで包まれた分厚い手帳である。
(何だろこれ?)
(とりあえず見てみよー)
さっきまで様子を見守っていた心の世界にいるソラも興味を示し、何気無く拓海は手帳を開けるのだった。




