8-3 覚悟
ノアと合流した拓海達は、それから何事もなく無事に集合場所であった村に着き、魁斗と合流してから宿屋で借りた広めの一室に集まっていた。
魁斗は拓海が元気そうな様子であることに安堵していた。
やはり弟子であり、妹と恋仲であるという魁斗の中でも大きな存在となっている拓海がラダトームに転移されてから、魁斗は拓海の安否をずっと気にしていたのである。
その後、外傷は少なかったのに胡桃が意識を失っていたことを拓海が魁斗に告げると、血相を変えた魁斗は拓海の胸ぐらを掴んで詳しい説明を求めた。
だが、慌てて仲裁に入ったアイリスが経緯と、原因がよく分からなかったということを説明すると、魁斗は引き下がったものの、気が気でない様子だった。
そんな中、依頼についての書類などの色々資料を探っていたノアがベットに座って皆の顔を見渡しながら尋ねた。
「まず情報共有しましょうか。とりあえず順番に自己紹介していこう」
そう言ってノアがアイリスに目を向けると、アイリスは緊張した様子で三人の顔を見渡しながら話し始めた。
「え、えっとアイリス=エレンウェです。風と聖属性の魔法を使えて後方支援系の魔法が得意です。武器は杖で、微弱ですが杖や防具に込められた霊気を纏うことが出来ます。実践経験は少ないですが、皆さんの足を引っ張らないように頑張ります……こんな感じでいいですか?」
すると、アイリスの自己紹介を腕を組みながら聞いていた魁斗は口元に笑みを浮かべて答えた。
「そうか、君がアイリスか。さっきは取り乱してすまなかったな。妹や拓海から話は聞いてるよ。よろしく」
「はい、よろしくお願いします!」
二人が軽く言葉を交わしている間に、ノアがいつの間にか取り出していたメモ帳に何かを書くと、次は拓海の方に目を向けた。
「桐生拓海です。氷属性の魔法が使えます。武器はこれ、桔梗とーー」
拓海が途中で話を切ると、拓海の隣に青く透き通った色をした鞘に納刀された刀を持った蒼髪の少女が現れた。
「霊刀です。私は拓海さんの契約精霊のソラです、水属性の魔法が使えて前線でもどこでも戦えます!」
「それで俺達は霊気と霊装が使える。あと俺は前線が一番得意で、中盤での立ち回りも出来るかな」
すると、ノアは桔梗を興味深そうにジッと見つめて尋ねた。
「それは魔刀?」
「ああ、魔刀だ」
「了解、アイリスも武器とかについては後で詳しく教えてね」
「分かりました!」
そして最後にメモ帳を閉じて膝に乗せると、ノアは最後に魁斗に視線を投げた。
「一応、お願い。アイリスはよく知らないだろうし」
「了解。神崎魁斗だ。使えるのは、紫電属性と無属性で基本は霊気と霊装を纏って前線での戦闘が一番得意かな。武器はこの霊刀でーー」
「はーい、契約精霊のフィーネさんだよ! 基本は戦鎚と盾を使って後衛を守りながらの立ち回りが得意だけど、前線、中盤での立ち回りも出来るよー!」
魁斗の契約精霊である茶色のショートヘアの女性。フィーネが満面の笑みを浮かべていると、ノアが苦笑いしつつ紹介ありがとうと一言声をかけて、皆を見渡した。
「それじゃ最後。私はノア。風属性、無属性、月光属性、陽光属性を使って普段パーティーでは前線か中盤で戦闘するかな。武器は短剣と魔剣クシアの二つよ」
聞きなれない属性を二つ聞いて拓海とアイリスが首を捻ると、それに気づいたノアが答えた。
「簡単に説明すると、月光属性は自分以外の魔力を無効化する力を持つ魔力で、陽光属性は……あ〜、口では説明しにくいけど使い勝手が良くて幅広く使える魔力よ」
「へー! そんな属性があるのか……初めて聞いたな」
「私もです!」
ノアは関心している二人に頷いて返し、パチッと音を立て両手を合わせて話を続けた。
「今回はこの六人で依頼をこなすわ。作戦やフォーメーションとかは後で色々考えるとして……まぁ、よろしく頼むにゃ!」
そして、雰囲気が柔らかくなって人懐っこそうな笑みを浮かべたノアの言葉に皆も応えるのであった。
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「で、どうしたんだ?」
情報共有の後、一足早く酒場で食事を終えた魁斗と拓海の二人は、夜風に当たりながら村の中を歩いていた。
ちなみに今頃、酒に強いノアとアイリスの二人はまだ飲みながら話をしていて、ソラとフィーネは拓海が借りた部屋で雑談をしているだろう。
「いや、さ。ノアのことなんだけど」
それを聞いた魁斗は、やっぱりかと思いながらも拓海に聞き返した。
「あーノアか。で、あいつの何を知りたいんだ?」
「師匠は思わなかったのか? 髪の長さとか、顔立ちはちょっと違うけど志乃にそっくりじゃないか?」
拓海がノアのことを思い出しながらそう尋ねると、魁斗は少し唸りながら答えた。
「ふむ……俺もあいつのことは詳しく知らないけど、獣人と人のハーフなんじゃないか? 志乃のことは昔から知ってるけどあいつは一人っ子だからな。珍しいけど、まあたまたまだろ」
「そ、そっか……」
魁斗の話で、志乃が自分と胡桃と柑菜にしか過去の話をした事が無いことを思い出し、拓海は諦めて話題を変えた。
「そうだ、ノアと軽く手合わせ……というか襲われたんだけどかなりの実力者だよな」
それを聞いた魁斗は苦笑しながら、応えた。
「迎えに行くとか言ってたけど、やっぱりそうなってたのか。あいつは強いぞ。本当にな」
「あぁ、仁さんと同じ技術を使ってたし。ノアの技をいなすだけで精一杯だったよ。あのメンバーの中からリーダーに選ばれるだけあるよな」
「ノアは今回の依頼でリーダーを務めるだけの実力と頭脳、経験値もある。本心では何考えてるか分からんが、やる時にはやる奴だってルミエールさんも信頼してるようだしな」
そうノアのことを話して歩いていると、屋根付きの休憩所に空いている長椅子を見つけて、二人は腰を下ろした。
しばらく二人が空を見上げたり、夜中に談話しながら村を散歩する人達を眺めていると、突然魁斗が話し始めた。
「拓海、俺は今回の依頼。おそらく想像以上に厳しくなると思ってる。お前らには話していなかったが、失踪した冒険者の中にはSSSランクの者もいた」
「……そっか」
「驚かないのか?」
魁斗が全く動じることない拓海に驚きながら聞き返すと、拓海は目を伏せ口元に小さく笑みを浮かべながら答えた。
「何となくそんな気はしてたからな。それにルークさん達には柑菜を助けだす手助けをしてもらったし、絶対に今回の依頼をこなすって覚悟してきたからさ」
そしてゆっくりと目を開いた拓海の真剣な眼を見て、拓海の秘めた想いを感じとった魁斗は、夜空を見上げて長椅子から立ち上がった。
「ま、お前なりに覚悟出来ているようで安心したよ。それはそうと、お互いの連携とか色々話し合わないとなぁ……今日は寝れそうにないな」
「あはは……だね。入念に準備しないとね」
そうして二人は苦笑いしながら、未だにアイリス達が酒を飲んでいるだろう酒場に戻っていくのだった。




