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異世界に導かれし者  作者: NS
第8章 逢魔時の街メーテス
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8-1 前夜

第8章スタートです!

 ーーパチパチッ……パチッ……



 冷たい風が吹き付け、そこらに生えた短い雑草が揺らめく。


 そして暗闇の中欠けた月の光に照らされ、音を立ててゆらゆらと揺れる火の側に腰を下ろした人影が二つ。



「うぅ、寒いですね……」



 カタカタと身体を震わせながら、焚き火に手を向けて冷えた手を温める、人間とは違う長い耳をサラサラとした金色の長髪から覗かせる少女が一人。



「んー、そうか?」


「ですよー! 拓海さんは氷属性使いですからね……」


「あー、そうだったな。氷属性使いって寒さに強いから寒くないのか」



 そう小さく笑いながら焚き火に近くから集めてきた木を加える黒髪の少年が一人。


 エルフの少女アイリスと、人間の少年拓海の二人である。


 二人は陽が落ちてからマジックバックから取り出した簡易テントを張り、食事を終えてから雑談を交わしていた。


 雑談を交わしながら笑みを浮かべている拓海を見て、微笑んでいたアイリスは思い出したように新たな話題を切り出した。



「それはそうと明日くらいに着きそうですね」


「そうだな。仲間はルークさんやルミエールさんの話によると先に辿り着いて待機してるみたいだけど、どんな人なんだろ」


「あのお二方のお仲間ですから、実力は相当なものでしょうね……。私は足を引っ張らないようにしないと」


「あんまり気負い過ぎるなよ?」


「分かってますよ〜」



 ラダトームから抜け出した二人は、柑菜救出に力を貸す代わりにとルークから頼まれた依頼をこなすため、そのままメーテスから少し離れた小さな村に向かっていた。


 依頼内容はここ数週間メーテスに行った商人や冒険者が誰一人帰って来ていない原因の調査、解決である。


 既に拓海達の前に、Sランク以上の者を含む何組か腕の立つ冒険者達が派遣されたらしいが、今のところ帰って来た報告はないらしい。


 危険を察知し、自身の手には負えないと判断して引き下がる能力を持っているとされるSランク以上の冒険者ですら、一人も帰還出来ていないという明らかな異常な事態であることは二人にも分かった。



「えいっ!」


「わっ、と」



 拓海は背中に急にのしかかられて一瞬驚いたが、振り向き、そののしかかってきた人物の頭を小さく笑いながら撫でた。



「どうしたソラ?」


「ふふっ、特に何もないですよー」



 拓海の心の世界から飛び出し、そう笑みを浮かべ拓海に抱きつくのは契約精霊である蒼髮の少女、ソラである。


 そしてソラはアイリスに目を向けて尋ねた。



「アイリスさんはメーテスに行ったことはあるの?」


「私ですか? 残念ながらないんですよね……。アストレアくらいしかまともに居たことはないです」


「あー、そっか」



 アイリスはエルフ族で一番位の高い家系の一人娘であり、昔から里から出ることが出来ずアストレアに初めて来てからまだ二年も経ってない程である。


 すると、苦笑するアイリスは思い出したかのように手を叩くとソラに答えた。



「あ、ですがお父様に聞いたことはありますよ! 人の数や建物の数はアストレアに引けをとらず、世界中の商人が集まり交易が盛んな活気が溢れた街のようです。ですが、お金を沢山持ってる人が裏では色々と暗躍して権力を振りかざしているんだとか」


「なるほどな。じゃあ今回の件は金持ちで権力を振りかざしてる奴が原因なのかもしれないのかねぇ……」


「どうでしょうか? 腕が立つ上位の冒険者ですら消息を絶ってますからね」


「まあ師匠達はもっと情報を持ってるかもしれないし、おのずとわかるか」


「だね!」



 それからしばらく拓海はアイリスが新たに習得した聖属性の魔法について聞いたり、夜の見張り番についてと様々なことについて雑談を交わすのだった。


 そんな何気ないやり取りをし笑い合う彼らは、この時は思いもしなかっただろう。



 メーテスの街がーーでいるということを。

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