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異世界に導かれし者  作者: NS
第7章 ラダトーム帝国
318/434

7-61 始祖の天使1

「む……」



 戦っていた目の前の獅子の大精霊が、突然光の粒子になって消えたのを見たリヒトは拓海が柑菜を助けたことに気付いた。



「“ディヴァイン・テンラム”」



 そして、人型に戻ったリヒトは魔法を詠唱して現れた三対天使の翼を広げて遥か上空で二人の元に向かって飛び上がるのだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 雲が近い塔の頂上より遥か上。


 地上からでは決して見る事が出来ない雲の上の星々の光が浮かび上がる暗闇の世界で、対峙する者達がいた。



「気は済んだ?」



 六つの翼の内、五つの翼が光輝いているルミエールは対峙している始祖の白龍、クレアから霊気が失せたことに気付き尋ねた。


 お互い一進一退の攻防を繰り広げていたが、その戦いは時間が経つ毎に徐々に鎮まっていった。



「始祖の天使、ルミエールよ。聞いても良いか?」



 クレアはルミエールの問いに答える事無く暫くの沈黙の後、最初の時とはまた違う落ち着いた目でルミエールに尋ねた。


 ルミエールはその目を見返し、言葉を返した。



「あぁ……」


「あの時、お前が救援を呼ぼうと我と別れた後の事を……我に教えてくれ」



 ルミエールは息を吐き、天を仰ぐ。


 遠い昔。原因不明で現れた七魔神を封印するため、始祖の七人と始祖の白龍と黒龍がそれぞれの場所で戦いを挑んだ時のこと。


 白龍のクレアはルミエールと共に七魔神の一柱の封印を見事にやり遂げた。


 魔力は底をつき満身創痍になりながらも、何とか皆と約束した地へ向かおうとクレアの背にルミエールが乗り空を飛んでいた時の事だった。


 二人は奇襲を受けたのである。今ならばSSSランクに相当する魔人族を筆頭に複数のモンスターに襲われ、魔力が残っていなくて体力も底をつきかけていたクレアは奇襲による攻撃を全て受け、なす術なく二人は地に落ちていった。


 それから、辛うじて意識を保ったクレアはルミエールに助けを呼んでもらうため逃がし、モンスター達にルミエールを追わせないよう戦った。


 しかし、いつまで経っても助けは来る事無くついにクレアは力尽きる。


 そして、トドメに底が見えない深い谷底へ落とされたクレアは地面に身体を強く打ちつけおびただしい量の血を垂れ流し身体を一歩も動かせなくなってしまう。


 クレアは自分達を殺そうと奇襲を仕掛けたと思われる、生まれてから数え切れない年数を共に過ごしてきた大切な仲間の一人である者への強い憎悪を抱き、疑心暗鬼になり復讐を心に誓い、深く長い眠りについたのであった。



 そして尋ねられたルミエールは遠い目で、遥か昔の事を思い出しながら語り始めた。



「あの後、二段構えで待ち構えていたモンスター達に襲われて死にかけたよ、リヒトと共にね。それから私は必死に逃げた。そして他の仲間に会う前に力尽きて……次に目覚めた時には記憶を失っていたよ」


「記憶を失っていた?」


「あぁ、魔法の使い方、自分がどんな存在か、自分の種族も。自分の名前もね……」



 そう目を伏せ小声で呟くルミエールに、クレアにはそれが意味する事をよく知っていたという事もあり、息を飲み黙って話を聞いていた。



「この世界で産まれた者達は、私達が許可しない限り私達について深く考えることは出来ない。私は誰にも相手される事無く、何も分からないままこの世界を彷徨ったよ」



 そして目を閉じながら話していたルミエールは、目を開けた。



「だがそんな私に彼は手を差し伸べてくれた」


「彼……?」



 クレアが疑問の声を上げると、ルミエールは優し気な目に柔和な笑みを浮かべて答えた。



「桐生楓。あなたが捕らえた桐生柑菜の父に当たる人物よ」



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