7-51 神話の戦い1
満天に広がる煌めく星々。ラダトームの街からは決して見えない星々が非常に雲の上にあるこの場所ではよく見る事が出来る。
そして塔の屋上の中心に空いていた大穴が生き物のように蠢き音も無く閉じる。
そんな中、冷たく涼しげな風が、無言で対峙する二人の対照的な金と銀の髪をなびかせている。
「お前もアルスと同じようなことを言いにきたのか? 拉致した者の解放、他国へ侵略するのを止めろと」
クレアの金と銀のオッドアイがこちらの動きを警戒しながら見つめてくるルミエールに尋ねた。
「まあ、それもあるわね……。だけど奴らが存在する間はあなたに色々と頼んだところで、止めることはないでしょ?」
「ふん……。お前が何しに来たかは正直どうでも良い。ただ、お前は地下の小娘の代わりにラダトームの戦力増強のためにその身を捧げてもらおうか」
そのクレアの言葉にルミエールは眉をひそめる。
「私達に勝つつもりか? それと桐生柑菜を解放するつもりなのか?」
「まぁ、今の我ならばお前とも互角以上に戦えるからな。あの小娘についてはお前ならば分かるだろ?」
すると思い当たる節があるのかルミエールは口を噤み、そのままクレアが見下すような目でルミエールを見つめながら話を続けた。
「あの小娘は『鍵』だ。あいつらの子孫だろあの小娘とその兄は。体内に流れる見覚えのある魔力ですぐに気付いたぞ。お前達はそのために取り返しに来たのだろ?」
「違う」
「何……?」
クレアの予想に反して、即答したルミエールは透き通ったスカイブルーの瞳で柑菜を物扱いしたクレアを睨み、珍しく怒気を交えた声音で答えた。
「私が助けにきたのは遥か昔に頼まれたからだ。私に感情、人を想う心を教えてくれた恩人にいつか来るかもしれない自分の子供達を助けてやってくれとな」
その言葉と同時にルミエールは三対の光の翼で素早く飛び上がり、腰の鞘から魔剣『虹天剣ーイーリス』を抜き放ち、虹色に煌めくイーリスの切っ先をクレアに向けると同時に魔法を詠唱した。
「“ジャッジメント・ラディウス”」
すると魔法を詠唱したルミエールの真上に一瞬で白く輝きを放つ複雑に文字や紋章が刻まれた魔法陣が浮かび上がり、輝く光が降り注ぎ始めた。
そして、その魔法と同時にクレアの後ろに控えていた風龍ボレアスが翼を広げてクレアの真上に飛び立ち、クレアは攻撃範囲から逃れようと後ろに大きく跳んだ。
次の瞬間、クレアを庇うよう飛び立ったボレアスに輝く光が降り注ぎ、ボレアスは悲鳴を上げて墜落すると身体が徐々に光の粒子となって消えていった。
ボレアスが消滅すると、ルミエールは自分を忌々しそうに見上げるクレアに鋭い視線を向ける。
「私もリヒトもお前に負ける気は毛頭ない。精々、時間を稼がせてもらうぞクレア」
その言葉を境に、睨み合う二人の魔力の量を高めていき、止まる事なく増え続けていくのだった。




