7-47 最後の守護騎士2
部屋から出て螺旋状に下がっていく階段を駆け降りていく拓海は、やがてその終着点にたどり着いた。
階段を降り切った拓海は息を殺し、目に霊気を宿して部屋を覗き込むとそこにはある程度予想通りの光景が広がっていた。
通路の壁には灯りが燈るマジックアイテムが取り付けてあり、鉄のような丈夫な鉱石で作られた格子と壁に覆われた小部屋がいくつもある。
また通路には鎧を着た騎士が三人巡回していて、小部屋の中には怯えながら互いに身を寄せるエルフの子供達が見える。
(アレゼルでさらった捕虜を入れておく牢屋か……。それにしても……)
拓海は桔梗を握り、察知能力を上げて意識を集中させて部屋を探すが柑菜の魔力が感じられなかったのである。
そして、階段を降りている時に気が付いたが不思議なことにこの塔の壁や床には大量の魔力が流れていて、下の階まで柑菜がいるかどうかの確認は出来ないのであった。
もう少し何か情報を得られないかと拓海は、次に桔梗で視力と聴力を引き上げて部屋を覗き込むと部屋の一番奥に更に下に続く階段を見つけ、捕虜の子供達が見張りの騎士の様子がいつもと違うことや互いに励まし合っている声が聞きとれた。
恐らく騎士達の様子がいつもと違うというのは、突然ラダトームに侵入してきた胡桃達が原因だろう。
(まあ、それはそうとまずあの三人を片付けるか)
拓海はゆっくりと霊気を纏わせる。
桔梗を握り直し部屋のどの位置にいるかを、三人の騎士達の呼吸のリズムと身体の動き全てを把握するため意識を集中させる。
そして、三人の騎士達の視界から拓海が身を隠している部屋の入口が外れた瞬間拓海は動き出した。
「ん?」
まずは部屋の入口から背を向け、一番近い位置にいる騎士は不意に後ろから軽く二回肩を叩かれ振り返る。
その瞬間、霊気を纏った拓海の拳によって勢いよく殴られた騎士の頭の鎧が陥没して視界が大きく揺れ、身体を強く背中を打ち付けて部屋中に轟音が鳴り響く。
次に音に気が付いた、二番目に近い位置にいた騎士が音がした方に目を向けると床に身体をめり込ませる騎士の姿だけが見えた。
そして一瞬思考が停止した直後ふと足元から何かが砕ける音が聞こえ、目を向けるとそこには殺意のこもった銀色に輝く瞳があった。
「て、敵ーー」
当てられた殺気に声が上手く出せず、最後まで声を上げる間も無く鳩尾を下から上に向かって殴り飛ばされて身体が宙に浮き上がり天井まで吹き飛ばされる。
「お前、何もーー」
三人目が一瞬で二人の騎士を戦闘不能にした拓海に驚きながらも声を上げようとするが、それを言い切る前に拓海に鎧の上から腹を蹴りを受け壁に背中を勢いよく打ち付けて痛みのあまり蹲ってうめき声をあげた。
その直後、拓海は桔梗を突きつけて問いかけた。
「はいかいいえで答えろ。分かったか?」
「は、はい……」
まだ若い男の声というのは分かったが、拓海から感じられる殺意とひしひしと感じられる圧倒的な力の差を感じて、騎士は震え声で答える。
そして、一つ頷いた拓海はそのまま桔梗を騎士に突きつけたまま尋ね始めた。
「桐生柑菜。最近ここに連れてこられた黒の長髪で歳は十代半ばくらいの女の子を知っているか?」
「はい……」
「今どこにいるか知っているか?」
「い、いいえ……」
「顔を上げろ」
拓海の命令で騎士がゆっくりと顔を上げると、頭の鎧を引き剥がされてそのまま身体を硬直させてしまった。目の前には殺意のこもった不気味に銀色に渦巻く瞳が自分を見つめていたのである。
騎士が自分の心や考えまで全て見透かされているのではないかという気持ちと殺意による恐怖のあまり硬直していると、拓海が瞬きすることなく騎士の目を見つめながらゆっくりと尋ねた。
「本当か?」
すると騎士は口元を震わせ、呼吸を荒くして何度も頷いて見せた。
その騎士の様子に拓海はそのまま顔面に向かって全力で殴りかかり、ギリギリで寸止めすると騎士はついに白目を剥いて意識を失って前のめりに床に倒れてしまった。
拓海は目の前で騎士が意識を失ったのを見て一息ついて、部屋の奥の扉を開いて更に地下に続く階段を確認してから一番近くの牢屋に近づいていった。
そこには突然牢屋の外から聞こえた大きな音で怯えて奥で座り込んで頭を抱えて縮こまっていた。
そんなエルフの子供を見て、拓海はやり過ぎてしまったとバツの悪そうな表情を浮かべて牢屋に囚われたエルフの子供達に呼びかけた。
「助けにきた。それと君達に聞きたいことがある」
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檻を破壊して助けた子供達に話を聞いた話、本当に柑菜がここを通ってることなかったようで拓海の『ファントムミスト』による分身がエルフの子供達を連れてソラがいる場所に向かって階段を上っていかせた。
そして、残された拓海は意識を失った三人の騎士を牢屋の中に入れて氷で動きを拘束してから下に続く階段の前に立つ。
(待ってろよ柑菜……)
霊気を纏わせる瞳を通して下りの階段が続く先から殺意の気配や、近寄り難い黒く濁った色が見えたが拓海は決して退くことなく緊張感を高めて、階段を降り始めるのだった。




