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異世界に導かれし者  作者: NS
第7章 ラダトーム帝国
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7-45 二人の騎士団長2

 金と銀のオッドアイを持つクレアが、ルミエールの透き通ったスカイブルーの瞳を見据え、口元に浮かべていた笑みを消し、無表情になって静かに玉座から立ち上がった。



「久しいなルミエールよ」



 黄金の煌めく髪をなびかせるルミエールはそんなクレアの視線と表情を見て、目を伏せ表情を曇らせた。



「そうね……」



 しばらく沈黙が流れる。




「今ではそんな表情かおも出来るようになったのだな……」



 その声にルミエールの視線の先には嬉しさの中に悲しさ、怒りが入り乱れた複雑な表情を浮かべたクレアが自分を見ていた。


 しかしルミエールは拳を握りしめて口を開きかけるが、それを遮るようにクレアが話し始めた。



「先に言っておくが、かつてお前達がしたことを我は許すつもりはない。そしてお前達を信用することはない」



 そう言い切るクレアの瞳からは怒りと切なさを感じたルミエールは、胸が締め付けられるような想いで表情を曇らせながらクレアに頭を下げた。



「助けに行けなくて本当にすまなかった」



 ルミエールのそんな姿を見たクレアは目を細めて魔法を詠唱する。



「“クリエイション”」



 クレアの手から大量の魔力の光が溢れ出ると同時に、玉座の間の天井が音も無く静かに蠢き始める。


 やがて中心に吸い込まれるように消えた天井の一部には巨大な大穴が開き、星々が煌めく夜空が顔を覗かせていた。



「“ライフ・クリエイション”」



 そして続けて魔法を詠唱するクレアの頭上に淡く白い輝きを見せる光の粒子が集まっていき、弾けると一体の緑色の鱗に覆われた巨大な龍が姿を現した。


 その見覚えのある龍にルミエールの後ろで、意識を失っているアルスの手を握るティアが目を見開き、ぽつりと呟いた。



「風龍ボレアス……」



 風龍ボレアス。SSランクにランク付けされていて、かつて大和を襲って桜によって討伐された風を操る二つの巨大な翼を持つ龍種である。


 そしてクレアはルミエールから一旦視線を外し、突然現れたボレアスに呆気にとられるティアに声をかけた。



「ティア」


「は、はい!?」



 突然呼ばれて驚きながらも癖でつい、いつものように返事をしたティアを睨みながらクレアは一言だけ告げた。



「二度と我らに関わるな」



 そして、殺気はないが威圧するように言われたティアが何も言うこと無く頷くのを確認したクレアは再びルミエールに目を向けた。



「場所を変えるぞ」



 その一言と共にクレアは現れたボレアスの背中に飛び乗り、ボレアスはそのまま辺りに暴風を起こしながら天井の大穴を抜けて姿を消した。


 それから、ボレアスに乗ったクレアを見上げて見守っていたルミエールは一息ついて、手の平をティアの背後にある玉座の間の巨大な扉に向け魔法を詠唱する。



「“セイクリッド・パージ”」



 すると巨大な扉から光の粒子が溢れ、弾け飛んだ。


 その光景にティアは不思議そうな表情でルミエールに目を向けると、ルミエールはティアに聞かれる前に答えた。



「扉にかかっていた封印の魔法を解いた。そこからあなた達は逃げなさい」


「何から何まで……。ありがとうございます」



 立ち上がって頭を下げるティアに片手を軽く上げて応えたルミエールは、再び空を見上げて胸に手を当てた。



(クレア……)



 すると、表情を曇らせているルミエールは心の世界から自分に呼びかける声を感じた。



(ルミエール。俺達が出来るのはクレアの想いを受け止め、クレアが自国のために他国に侵略しないよう呼びかけることだけだ)



 声をかけたのは、ルミエールが契約している光の大精霊であるリヒトだった。



(リヒト……)


(いくら謝罪を重ねても、俺達がしたことはなくならないし許されない。今はクレアとの戦闘に集中しろ。俺達でも隙を見せれば殺されるぞ)


(あぁ……そうだな)



 心の中で会話を終えたルミエールはもう一度大きく息を吐いて、気持ちを切り替え魔法を詠唱した。



「“ディヴァイン・テンラム”」



 そして、魔法により背中から三対の光の翼が現れたルミエールは舞うようにクレアを追って夜空に羽ばたいていくのだった。


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