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異世界に導かれし者  作者: NS
第2章 聖都アストレア
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2-10 決闘3

 ランクが格上な相手な上に三対一という人数的にも不利な状況にもかかわらず拓海の謎の一撃で一気に二人倒したことで観客席は騒めいていた。


 そんな中、アイリスは目を輝かせながら口の前で両手を合わせて、驚きながら歓喜の声を上げていた。



「わあぁ! 胡桃さん、拓海さんがやりましたよ! 凄いですっ!」


「うん、そうだね……」



 喜ぶアイリスに胡桃は微笑みながらそう返すが、その表情はどこか不安気な様子だった。



(拓海? 何か様子がおかしいなぁ……)



 歓喜の声を上げた大半の観客は気づいていないかもしれないが、胡桃は拓海の呼吸のリズムに乱れが生じているのに気づいて心配そうにモニターを眺めていた。



(頑張って拓海……!)



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



(な……んだこれ……!? 体が思ったように動かせ

……な……い……)



 拓海は二人を一掃した攻撃から一変、男の攻撃を防ぐことで手一杯になっていた。



「おらおら! どうした! 近距離戦は全然駄目なようだな! おらよっ!」


「がはっ!?」



 リーダーの男の武器の斧に拓海の長剣が弾かれて、拓海が体勢を崩したところを逃さなかったリーダーの男は拓海の鳩尾を蹴り飛ばし、身体が浮いた拓海は一瞬息が止まるのを感じながら床を転がった。

 拓海は銀色のオーラを放ってから身体に重りをつけられているのではないかと思ってしまうくらい体を動かせなくなっていた。


 拓海の背中を冷たい汗が伝ったが、拓海は挑発には乗らずに一旦呼吸を整えようと落ち着いてリーダーの男の攻撃に意識を集中させた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「あれはまさか……魔力切れ? あの銀色のオーラの一撃でそんなに魔力を消費するなんて……」



 胡桃が戸惑いながらそう呟いていると、背後から擦れ合う金属音が近づいていることに気付き、少し後ろに視線を向けるとアストレア聖騎士団の鎧を纏った中年の男が胡桃に声をかけた。



「ほぉ……ランク違いでさらに三対一の決闘と聞いて、一方的な展開になっている思っていたのだがな……。しかも魔力切れか? 何にせよ、あの状態であれだけの攻撃を防いでいるとは。これは中々の逸材だな。そうは思わんか『黒流星』よ」



 声をかけられた胡桃は今度はしっかり振り返ると、その中年の男はガチャガチャと鎧の金属音を立てながら胡桃の後ろの席に腰を下ろした。


 初対面ではあるが、その男はアストレアに住んでいる人なら勿論、胡桃の故郷の街にまで名前が知れているほどの有名人だったため、胡桃は目を見開いて驚いていた。



「あなたは確か……アストレア聖騎士団の副団長でしたっけ? 何でここに……?」



 胡桃げ少し警戒しながらそう聞くと、男は短く生えそろったアゴの髭を触り、モニターを眺めながら答えた。



「何、上からの命令だよ。優秀な魔法適正を持っているらしい駆け出し冒険者の拓海とやらの様子を見てこいってな」


(まあ、あの人がそんなことでわざわざ俺に命令するわけ無いと思うが……)



 周りの観客は徐々にアストレア聖騎士団の副団長の存在に気付いて、ざわつき始めた。聴こえてくる観客の話からみるに、この観客席に来ること自体滅多にないことを知った胡桃は他に理由があるのではないかと訝しみながらも、再びモニターに視線を向けた。


 そして、そんな中胡桃とその男の言葉で拓海が魔力切れでピンチであると知って動揺してしまうアイリスだったが、必死に胡桃達に訴えた。



「で、でもっ! 拓海さんならきっと大丈夫です! 私は拓海さんを信じます!」


「うん! 大丈夫よ、拓海なら」



(色々気になることはあるけど、とにかく頑張って!)



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「おらっ!」



 拓海は自分を両断しようと振り下ろされた斧の軌道を読んで少し後ろに下がり、危うげ無く避けた。



「ふぅ……」



 そのままバックステップを踏み、呼吸を整えた拓海は長剣片手にリーダーの男から距離を置く。



(落ちつけ、相手の動きをよく見るんだ……)



 リーダーの男が振り回す斧は既に十回以上空を切っていて、拓海の表情にも段々余裕が出てきたことにリーダーの男は一方的に攻撃をし続けているが、いらつき焦りを感じ始めていた。


 また、拓海が避け切れないと判断したリーダーの男の攻撃は全て剣でそのまま受け止めて弾くのではなく、軌道を反らしていなし、男の動きを見極めていた。



「ちっ、ちょこまかと避けやがって!」



(何だこいつ!? さっきから攻撃がかすりもしないだと!? だったら!)



「“ウインドイン……え?」



 魔法を詠唱しようと手を上げたリーダーの男の腕が宙を舞う。

 拓海の狙いはこれだった。男が魔法を放とうと武器を持ってない手を上げた瞬間、魔法を詠唱する前に拓海はその腕を切り飛ばしたのだ。


 腕を切断されたことに気付いたリーダーの男は血走った目で拓海を睨みつけた。



「てめぇ……!? 最初からこれを狙ーー」



 しかし拓海は男が何か言い終わる前に流れるように男を切り捨てた。すると男はそのまま光の粒子に変わり消滅した。



「……よし!」



 リーダーの男を倒した拓海は長剣を一度振って腰に収めて小さくガッツポーズをすると、闘技場にアナウンスが鳴り響いた。



「片方のチームの全滅を確認しました。よって勝者はEランク冒険者! 桐生拓海!」



 その声を聞くと同時に拓海の視界は暗くなった。

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