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異世界に導かれし者  作者: NS
第2章 聖都アストレア
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2-6 目覚め

「柑菜はさ、将来の夢ってあるのか?」


「私? そうだね〜、お父さんが無事に帰ってきてお兄ちゃんと私とお父さん三人一緒に綺麗な景色を見に行きたいなぁ……。お兄ちゃんは?」


「俺はーー」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



(…………………………………………………)


「……………ん、ここは……? っ!? 痛っ」



 目が覚めた拓海は頭痛に顔をしかめながらも、ゆっくりと身体を起こした。記憶を辿りながら今の状況を考えたところ、どうやらジャイアントゴブリンを倒してから気を失なった自分を誰かが運んでくれたことに拓海は気付いた。

 まだ脳が覚醒しきっていない拓海は、ぼうっとしたまま真っ白な布団に視線を落とす。



(懐かしい夢を見たな……)



 それから脳が覚醒してきた拓海は周りを見渡し、ベットの隣で胡桃が椅子に座ったまま頭をゆらゆらと揺らしながら寝ていることに気付いた。



「すぅ……すぅ……」



 気のせいか胡桃の目のまわりが少し赤らんで見えた。


 それから改めて拓海はまだ痛みが残る自分の体を見てみると、体中に包帯が巻かれていることに気がついた。気を失なっている間に誰かが治療をしてくれたのかと、拓海は感謝しながら改めて部屋を見渡す。



(そういえばここはどこなんだ?)



 拓海は胡桃を起こさないように痛みに顔をしかめながらベットから立ち上がり、ゆっくりとドアを開けた。


 部屋を出ると依頼人である村長が何やら書類を整理していた。拓海はここが村長の家であることに気付いた。


 やがて物音で顔を上げた村長は、身体を引きずるかのように歩く拓海に気付き、席を立ち申し訳なさそうな顔で近づいてきた。



「おぉ、気がつきましたか。傷は痛むかの? 具合はどうじゃ?」


「そう……ですね。傷はまだ痛みますけど、何とか動けるようになりました。あの、俺はどのくらい気を失なってました?」



 村長は少し胸を撫で下ろし、答えた。



「そうか……。ふむ大体五、六時間だったかの……」



(結構長い時間意識を失っていたのか……)



 拓海がそんなことを考えていると、村長は申し訳無さそうに突然拓海に頭を下げた。



「すまない。あんたらが挨拶をしに来てくれた時、あんたにあんな言い方をして悪かった……」



 そんな村長の突然の行動に拓海が困惑していると、村長はそのまま話を続けた。



「チヨに聞きました。あんたが囮になって逃がしてくれたと。今更何をと言われても仕方ないが、駆け出しだからといって馬鹿にしたような言い方をしてすまなかった。そして、村人を救ってくれて感謝してます」



(えっと……チヨって人はジャイアントゴブリンに襲われかけてたあの女の人のことか?)



 拓海は頭を下げたままの村長に対して何とも言えない感情になりながらも、頭を上げるように言った。



「大丈夫です。駆け出しなのは事実ですし、まあ仕方ないと思います。それより傷だらけの俺を運んで治療してくれてありがとうございました」



 そう頭を下げる拓海に、村長は驚きながら慌てて頭を上げさせた。



「いやいや、あんたを運んできたのはあの嬢ちゃんじゃよ。泣きながら早く治療をとあんたを背負ってきたんじゃ。どうやら、あと少し治療が遅かったら危なかったらしい。自分が別行動をしたせいであんたに怪我を負わせてしまったことで自分を責めていたようじゃが……」


「そうでしたか……」



 拓海は村長に胡桃の様子を見にいくと言って、さっきまで寝させてもらっていた部屋に戻った。ゆっくりと部屋に入って胡桃を見ると、どうやら静かに寝息を立てていてまだ寝ているようだ。


 拓海は扉を閉めて、穏やかな表情で眠る胡桃に近づくと目を伏せて口元に小さく笑みを浮かべた。



「ありがとな胡桃。おかげで助かったよ」



 拓海は自分に気遣ってずっと側にいてくれた胡桃に感謝しながら頭を撫でていると、しばらくして胡桃はゆっくりと目を開けた。


 胡桃は我に返ってキョロキョロと周りを見渡して、拓海に気づくと泣きそうな顔になり勢いよく拓海に抱きついた。


 その胡桃の思いがけない行動に拓海は思わず声を上げてしまった。



「なっ!?」



 しかし、胡桃は拓海の胸に顔を埋めたまま拓海の服を弱々しく握った。



「よかった……。もう拓海が目覚めないかと思った……。私のせいで……私が拓海と別行動しちゃったせいで拓海が怪我しちゃって……」



 自分を責めて嗚咽を漏らす胡桃に、拓海は驚きながらもそこまで自分を心配してくれたのかと嬉しく感じると共にふと疑問も浮かんだ。



「どうして……会って間もない俺をそんなに心配してくれるんだ?」



 拓海が優しく胡桃の頭を撫でながら言ってしばらくそうしていると、胡桃はようやく落ち着きを取り戻し始め、拓海に抱きついたまま小さな声で答えた。



「そ、それは……」


「……?」


「に、似てるの」


「誰に?」


「お兄ちゃんに」



 そして、胡桃は自分の状況にようやく気付いて顔を赤くして慌てて拓海から離れた。



「ご、ごめん!? 取り乱しちゃって!? とりあえず街に戻ろ! もう時間も遅いしさ」


「お、おう!? そうだな、ははは……」



 拓海と胡桃は村長に部屋を貸してもらった礼を言い、アストレアに向かって村を出発した。ちなみに街に向かう途中さっき抱き合っていたことがお互い恥ずかしくて二人はまともな会話が出来なかったのであった。

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