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異世界に導かれし者  作者: NS
第1章 異世界へ
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プロローグ1

 高校二年の桐生きりゅう拓海たくみ十七歳は妹の桐生きりゅう柑菜かんな十五歳と二人で暮らしている。母親は妹が産まれてすぐに亡くなってしまい、父親は二年前に仕事先で行方不明になってしまった。


 それから拓海は妹と自分の学費、生活費等をバイトで稼いだお金と家に残っていたお金を使って暮らしをしている。


 そして二年が過ぎ、二人はこの生活にようやく慣れてきたところである。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





 カァーカー……


 




 二羽のカラスの鳴き声が夕暮れ時の空に響き渡る。


 そんな鳴き声を上げる二羽のカラスがとまっている電線の下の通りに仲睦なかむつまじく話す男女が一組。男は小さなスーパーの袋を持ち、女は自分の手提げ鞄を持っている。



「いやぁ、お兄ちゃん今日はお惣菜が安くなっててよかったね!」


「あぁ、そうだな。今月は食費が結構きつかったから助かったよ」



 少し前を歩いていた柑菜がくるりと振り返って笑い、拓海も笑顔で応えた。


 休日だった拓海と柑菜は一緒に夕食の食材をスーパーで買いに行き、丁度スーパーに着いてから惣菜に割引シールが貼られたため、コロッケが二つ安く手に入ったのであった。

 よって今日の夕食は惣菜のコロッケ一つに野菜炒めと味噌汁。まだ高校生の二人には物足りなさそうにみえるかもしれないが、二人にとっては今日のメニューは充分満足出来るものだ。


 そして今はスーパーでの買い物の帰り道。二人は明日の予定や学校であったことを雑談しながら歩いている。


 やがて話題が途切れると、柑菜は不意に夕暮れ時の空を見上げ、ぽつりと呟いた。



「もう……二年経つんだね……」



 今日で丁度二年。

 父、桐生楓が仕事先で行方不明になったと拓海達が知ってから二年もの時が流れていた。


 そう表情を曇らせながらしみじみと呟く柑菜を横目に、拓海は申し訳なさそうに応えた。



「あぁ、そうだな……。いつもごめんな、柑菜。色々と我慢させちゃってさ。俺が卒業して就職出来たら、もう少し楽になるだろうからさ」



 自嘲気味に話す拓海を見た柑菜は、慌ててかぶりを振った。



「あぁもうっ、別に不満は無いってば! お兄ちゃんにはいつも感謝してるしさ」


「そっか……。それなら良いんだけど」


「それに、それを言うならお兄ちゃんの方が我慢してばっかりだよ。もっと高校生活を楽しんで欲しいのになぁ……」



 少し俯き表情を曇らせて呟く柑菜の言葉に拓海は一瞬きょとんとしたが、拓海は小さく笑って言葉を返した。



「俺は柑菜が元気で笑ってるのを見ているだけで幸せだよ。それに心配するなよ。俺は高校生活も充分楽しんでるからさ」



 それは拓海の本心であった。唯一の肉親であり、幼い頃から仲が良い妹の幸せは拓海にとって何よりの喜びだった。

 勉学面では成績優秀で、拓海の人柄の良さからか友達も少なくはなく、高校生活を楽しんでいる。


 小さく笑いながら拓海が全く恥ずかし気もなく発した言葉に、柑菜は思わず顔をそらして頰を微かに赤らめた。



「もうっ……。何でそんな恥ずかしいことサラッて言うの」


「え……? 何か恥ずかしいこと言ったか?」



 いつも通りの二人の日常。両親がいなくなり、悲しいことや嬉しいことを共に分かち合い、これまで協力し合ってようやく二人共心からの笑顔が出来るようになった。

 いつまでも続く、いつまでも続いて欲しいと思う、ようやく幸せを感じることが出来た日常。



 そんな時だった。



 下に川が流れている幅が車二台分くらいの小さな橋を二人が渡り始めた時、拓海は橋の途中に立ち尽くしている一人の男に気がついた。

 黒いフードを深く被っていて表情はよく見えないが、男は小声で何か呟いている。



(何だあの男? 気味が悪いな……)



 不気味に思った拓海は柑菜と位置を交代して、柑菜をフードの男から遠ざけようと橋の端の方を歩くように促した。

 特に不気味な男を認識していない、柑菜は怪訝そうな表情を浮かべながら移動した。



「ん? どうしたの?」


「いいから、いいから」



 そして、拓海はフードの男と柑菜の間に自分が入るようにして橋を渡り始める。

 やがてそのまま談笑を続ける柑菜と、男に注意を払いながらも柑菜に笑いかける拓海の二人が、男の隣をすれ違った。



 拓海は目を見開く。



(ッ!!)



 殺気。初めて感じるが、背中がざわつき鳥肌がたつ。


 時が止まったかのような不思議な感覚を覚えながらも、橋を渡る前からある程度注意を払っていた拓海は、柑菜を庇うように即座に振り向く。



「あ」



 目が合う。充血して狂気に満ちた目と。



 そして、どこから出したか分からないが包丁を持ったフードの男が、既に拓海の目の前に迫ってきていた。



「っ!? お前!?」



 拓海は目を見開いて驚きながらも、持ち前の動体視力と反射神経により咄嗟にフードの男が包丁を持つ手首を掴み、受け流した。



「は、ははっ、殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す、何もかもぶっ壊してやる!!」



 そして包丁を握りしめ血眼でこちらを睨みつけるフードの男に気が付いた柑菜は、恐怖で足が震えてパニック状態になってしまった。



「え、あ、あ……きゃあああああああ!?」



 先程は拓海が男が動き始めたのをいち早く察知してなんとか対処出来たが、今は拓海が一人だけでいるわけではない。


 柑菜もいるのだ。



(こいつ正気か!? 今、完全に俺を刺し殺しにきたぞ!? 柑菜だけでも早く逃がさないと……)




 しかし、なんとかその男の注意を引くため拓海が動き出そうとすると、男は今度は拓海のすぐそばにいた柑菜にむかって突き刺すように勢いよく包丁を振りかざした。


 だが柑菜は恐怖とパニック状態に陥っているせいか、その場から動けずにいた。



「ふざけんじゃねぇぞお前!」



 その様子を見て怒りで頭の中が真っ白になった拓海は、柑菜に包丁を振りかざした男に全力で体当たりをして、フードの男は後ろに吹き飛んだ。



「ぐぇっ!?」



 そして、背中から地面に叩きつけられるようにして倒されたフードの男は小さく悲鳴を上げた。

 フードの男の悲鳴で我に返った拓海は、体当たりで態勢を崩しながらも心の中で一瞬ガッツポーズをした。



(よし! 今の内ーーッ!!)



 拓海は体当たりした勢いで片膝と片手をつくと自分の右肩に今まで味わったことがないような強烈な痛みを感じた。恐る恐る自分の右肩を見ると、そこには深々と包丁が突き刺さっていた。

 溢れ出る血液が拓海の空色のシャツに染みていき、真っ赤に染まっていく。



 自分の身体に刃物が突き刺さっていることに気付いてしまった拓海は、表情を歪めて思わずその場に蹲ってしまう。



「ぁ……あ、ああぁあああっ!?」



 初めて感じる激痛と自分の肩に包丁が刺さっているという事実を受け止め切れずに、拓海は悲鳴を上げた。



「お兄ちゃん、お兄ちゃん!? かっ、か、肩にっ……肩に包丁、刺さって……」



 そんな拓海を見た柑菜は真っ青な表情で座り込んだまま、泣きながら体を震わせ悲痛な声を上げた。


 そうこうしている内に、男が振りかざした包丁が深々と突き刺さった拓海の肩から大量の血が流れ、拓海の服に徐々に血が滲んでいく。



(このままじゃ……駄目だ)



 拓海は肩の痛みで視界がぐらつきながらも、視界の端に立ち上がりかけている男の姿が映り、歯を食いしばって立ち上がると柑菜に叫ぶように言った。



「柑菜! 早く逃げろ!」


「え、あ……だ、だって……い、嫌……。お兄ちゃんは……? ねぇ……お兄ちゃんはどうするの?」



 柑菜が震える声で泣きながらそう拓海に問いかける。


 だが、拓海が答える前に血走った目のフードの男がふらつきながらも立ち上がり、素手で拓海に殴りかかった。

 拓海は視界がぐらついているせいか男の拳に全く反応出来ず殴り飛ばされてしまった。



「がはっ!?」


「ぶっ殺す。死ねぇえええ!!」



 殴られ体勢を崩した拓海は受け身をとることも出来ず、身体を地面に叩きつけてしまい息がつまってしまう。



「あ、あ……ぁ」



 だが、視界がぐるぐると回るような感覚を覚えながらも拓海は何とか意識を繋ぎ止め、肩から腕を伝って地面に血を垂らしながらゆっくりと立ち上がる。



 立ち上がらなければならなかった。柑菜を失わないために。



(これ以上大切な人を失なってたまるか! 意地でもこいつを食い止めてやる!)



「うおおおおぉぉぉ!!」



 自身を鼓舞するため、咆哮を上げる拓海は痛みに耐えながらも男を殺意のこもった目で睨みつけ、がむしゃらに男に向かって体当たりをした。


 するとフードの男ごと何かにぶつかり、拓海の足が地面から離れる。




(あれ?)




 突然浮遊感。そして世界が反転。




「!?」




 一瞬の出来事に、拓海には自分に何が起こったか分からなかった。


 そして橋の下を流れる川が自分の真下数メートルくらいに見えて、ようやく自分の状況を理解した。拓海の体当たりで勢いあまって二人とも橋から落ちてしまったのだ。


 最後に拓海の意識が途絶える前に聞いたのは上から響く柑菜の悲鳴だった。

初めまして作者のNSです! 

異世界に導かれし者を読んでいただきありがとうございます!

誤字脱字等は見つけ次第修正をしていますが、まだあるかもしれません。申し訳ないです。


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