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春告げのセリ  作者: K+
おまけ
24/25

グリンザは見た

「こんちは、(さく)屋でーす」

 徹夜明けで魔法省独身寮へ向かっていたシシリアは、駆け寄って来た若者から称号証を見せられた。

 お疲れさまぁ、とシシリアは差し出された封書を受け取り、心付けを渡す。まいどっ、と破顔すると、若者は魔法靴を発動して瞬く間に人混みの中へ消えていく。

 シシリアは歩き出しつつ、差出人を確かめる。強敵と書いて友と呼ぶ奴だった。

 奴――グリンザ・ローウェルが、メッセン自治区へ就職して、早くも八年が経とうとしている。

 便りが無いのは息災の(あかし)とばかりに、シシリアは返事を出さない。それでも、グリンザは飽きずに送ってくるのだ。

 だが今は眠い。手紙を読むのは後だ。

 寮の自室に帰りついたシシリアは、書棚から辞書型の木箱を引っ張り出す。中身が詰まっているから重い。

 部屋に入るや緊張が緩んできていて、睡魔が手元を狂わせた。箱の蓋を開けたところで中身が散らばる。

「うーそー……」

 シシリアはこぼしながら、着替えもせずに寝台へ倒れ込んだ。


『眠りぃ?』

 魔法学校の学生食堂で、シシリアは素っ頓狂な声をあげたものだ。

 グリンザが卒業証にもなる資格試験で提出したのは、かなり難易度の高い魔法図だった。

 それまで、対象の意識を強制的に遮断させる魔法図は生み出され、医療機関などで実用されていた。グリンザはそれを描き換えたのだ。より穏やかに作用するように。

 対人効果のある図面は、恐ろしく難しいというのに。悔しいが、グリンザにこの分野では勝てる気がしない。

 シシリアは素直に称賛し、〝ダクタ定食〟を奢って、図面談議に更なる花を咲かせた。

 けれど、同期でそんな態度を取れた者は意外と少なかった。

 当初、称号認定審議会では上々の評価だった。数十年ぶりにダクタが誕生するのではと、持ちきりになる程だった。

 なのに、何処からか舞い込んだ噂で審議は混迷する。

 実に莫迦げた噂だった。

 ローウェルは眠りの魔法を女にかけている――いつの間にか眠らされ、起きたら財布が消えていた――等々。

 事実無根だというのに、審議員は最終的に多数決でムスタの授与を決めた。

 称号が得られたものの、おかしな噂は広まるばかりでなかなか消えず。グリンザは学内外の少なくない者達から、色眼鏡で見られるようになってしまった。

『女癖が悪いからこんなことになるんだよ!』

 こっそり調達した祝い酒を安下宿で開け、シシリアが指摘してやると、奴は杯を掲げながら心外そうに眉を上げていた。

『僕、女の子の趣味、いいと思うけどなぁ』

『あのなぁ、そういう問題じゃないだろう。卒業はできても、この後どうすんのさ』

 噂はいずれ消えるとしても、火の無い所に……だのと囁き交わす者はしぶとく燻ぶるだろう。

 考えただけで(はらわた)が煮えくりかえる気分になったシシリアに、グリンザは惜しげもなく美しい笑みを見せた。

『それがねぇ、斡旋科で、お(あつら)え向きの求人があるって勧められたんだ』

 人徳かなぁ、とふざけたことをぬかし、奴はほどなくメッセン自治区へ飄々と旅立っていった。

【採用されたよー。】と呑気な便りを寄越してくるようになったのは、それからだ。


 シシリアが目を覚ました時、室内は真っ暗だった。

 日中丸々眠りこけたらしい。だが、明日は休日だから無問題だ。

 このまま朝まで二度寝といくか、と瞼を閉じかけ、床に散乱した白っぽい物に気づいた。

 魔法図かと思ってしまい、ここ研究室だったっけ、と眉を寄せる。ややして、グリンザからの便りだと思い出した。

「ぬぁー……順番がばらばらじゃーん」

 届いた順に詰めていたのに。

 こういう物の順序が整っていないのは、苛々して駄目だ。

 シシリアは寝台から出ると、明かりを灯す。

 床にしゃがみ込むと、一通ずつ封書の中身を検め、古い物から箱へ戻し始めた。


【四九三年春一節ナカ日

 採用されたよー。

 ていうか、聞いてよ、家庭教師をつける旧家の子なんて女の子って相場が決まってるよね!?

 男の子だったよ! 大誤算だよ! がっかりだよ! しかももう十三歳だって。挨拶したら、物凄く冷めた目で見られた。「ちょっと顔がいいからっていい気になるなよ」って目つきだったけど、僕は負けないよ。顔がいいのは、ちょっとじゃないからね!】


【四九三年春三節サク日

 この前書いたと思うけど、ウチのデン君、普通じゃない。

 弓の練習を見てたんだけど、全っ然外さない。「たまには、は、ず、そ?」と念じてみたけど駄目だった。

 近所の可愛い子が僕に差し入れを持って来てくれて、それを横目に見てたみたいだけど、外さなかった。余所見して的に当てるって、どうなってんだろ。恐ろしい子!】


【四九三年夏一節ナカ日

 シシィ、僕、自信無くなりそう。

 前も言ったけど、デン君の魔法図……なんで僕の描いたのを見ながら描いてるのに、別モノが出来上がるんだろう。しかも魔力を流せそうなところが怖い。発動させたら何が起こるのか、黒魔法図より怖い。】


 シシリアは笑いそうになりつつも封筒に戻し、重ねていく。確かにグリンザの教え子が描いた魔法図は、妙ちきりんだった。シシリアが実際に見たのはこの便りから六年後だ。グリンザの努力虚しく、教え子の魔法図描きの技術は、一行に進歩していないのではないか。

 この後も平穏で、時に愉快な便りが続く。

 けれどもミシュ歴四九六年、メッセン家には不幸がある。能天気なグリンザも、流石に沈痛な文章を綴っている。こちらまで辛くなるから、日付だけ確認して箱へ戻す。

 以降も変な事態に陥っているようで心配させられたが、四九九年の秋頃から様子が変わってくる。


【四九九年秋一節ツゴ日

 とうとうデン君に、隣の国からお嫁さんが来たよ。名前はセリちゃん。柔らかそうな黒髪で、とっても色白。きらきらした青い目の、可愛い子だよ。

 僕、今度こそデン君に闇撃ちされるかなーと覚悟してたんだけど、セリちゃんは今のところ、デン君にくっついて回ってる。僕の話す隣の国の言葉が変だったかなー? 真面目な顔で聞いてくれてたけどね。

 ていうか、セリちゃんを迎えに行った時のデン君、面白かったよ!

 もう全然自信無いみたいで、「彼女はムスタを見てた」「ムスタを見てる」そればっかり。

 僕は自己紹介しただけだし、慣れない所を歩くセリちゃんに「大丈夫?」って聞いただけだよ。話しかけられたら、大抵、相手を見るに決まってるじゃん!

 このひと月で急いで言葉を覚えた僕と違って、デン君はペラペラの筈なのに、ちっともセリちゃんに話しかけようとしない。だから僕は気を利かせて、途中で泊まった小屋で二人を一部屋に押し込んであげた。

 翌朝、デン君はげっそりしてたよ! 可愛い奥方と一緒で羨ましいって冷やかしたら、「生殺しの何処が羨ましいのか……」だって。

 いやぁ、朝食のカフィが美味しかったなぁ。】


【四九九年秋二節ナカ日

 シシィ、デン君が称号を取りにそちらへ行くよ。紹介状を同封しておくので、宜しくー。

 デン君とセリちゃんは、思ったより上手くいきそうだから安心して。

 セリちゃんはミシュ語を覚え始めてる。片言の女の子って、可愛いさが増すね! しかめっ面の多かった御当主まで笑み崩れるようになったよ。

 デン君はたまに、弓の練習で芸を披露してくれるようになった。けど多分、本人は芸になってると気づいてない。

 でもさー、的のど真ん中に立った矢に更に当てて矢を繋げるとか、芸でしかないよね? 最終的に枝垂れ柳みたいになってたよ。

 そういう日は、一本撃ち終わると目尻が下がる。「何かいいことあった?」て訊いてみたら、もじもじしながら、「奥殿が、笑ってくれた」て……

 その程度であんな芸が飛び出すデン君が計り知れない。この先が楽しみになってきたよ!】


 この手紙と紹介状でかの弓に猛烈な興味が湧き、遥々やって来たデンにせがんで見せてもらったわけだが、彼は気もそぞろだった。

 早く婚約者の元へ帰りたいと、はっきり顔に書いてあった。しかしながら、シシリアはその辺に気を利かせる優しさは持ち合わせていない。

 この程度の期間でセリちゃんとやらがグリンザになびいたら、そういう軽い女だったということだ。勝手にそう結論づけて、シシリアは趣味と実益に邁進させてもらった。

 泥酔させられるとは予想外だったが。

 シシリアは酒の強さに自信があったのに、デンは何処にでも居そうな見かけによらず、結構な酒豪だった。

 この件を奴に知られるのは屈辱以外の何ものでもなかったが、デンはその辺に気を利かせる優しさを持ち合わせていなかった。


【四九九年冬二節ナカ日

 シシィ、聞いたよ。楽しいことになったみたいだね?

 君ほどの美女が酔い潰れてる傍で、僕を牽制する手紙をせっせと書いたらしいデン君に乾杯。

 良かったね、デン君がセリちゃん以外眼中に無くて。】


 どうしてこの便箋だけ皺くちゃになっていたのか、シシリアは思い出す。べしっと箱に叩き入れ、ぎゅうぎゅう上から押した。

 とっとと次の便りを探す。

 ミシュの(みやこ)が建国五百年祭にわいていた頃、グリンザは古代魔法なんぞに手を出したようだった。

 シシリアに寄越す便りの数が、少し減る。のめり込んでいるのが判って、建国祭特売時にまとめ買いしていた魔法紙と魔法染料をお裾分けしてやった。

 魔砂(まさ)と古代魔法語字典も要るかもしれないと手配しかけたら、【僕、君の為なら空が飛べそう!】という鳥肌の立つ便りが来たので急遽やめた。


【五〇〇年夏二節ツゴ日

 湖に避暑に来てまーす。

 近所の人も一緒だよ。十人で、焚き火を囲んで、畔で晩御飯。こんがりほくほく焼き魚や、さくさくとろーりパイ、タレを絡めた野菜と肉の串焼き、ヘリーの四七〇年物まで飲めて、大満足。美味しかったよー。

 後ね、デン君とセリちゃんが、珍しく人前で二人の世界を公開してくれたよ。みんなでがっつり見物してたら、イーイところで公演終了しちゃったけどね!

 でも夜中に、デン君は曲芸を披露してくれた。

 最初は空に向けて乱射してるだけかと思ったら、湖に映った月に次々落ちてた。無言の抗議かね? 「見るなぁあああ」的な。

 

追伸  明後日、人間やめまーす。】


(ほあっ!? とか叫んじゃったよなぁ……)

 シシリアは半眼を閉じる。研究所で昼休みに読んでいたから、近くに居た同僚に引かれた。恥ずかしい思い出だ。

 魔法紙を送りつけた時さえ一筆も添えなかったのに、この時は流石に問い詰めてやろうかと思った。結局、書かなかったけれど。


【五〇〇年秋一節ツゴ日

 シシィ、僕、狼になったよ。

 疲れたけど素敵な経験だった。君にも体験させてあげたい。】


 これだけだとケダモノ宣言にも見えたが、魔法図の素描が同封されていたので、シシリアはそちらに夢中になった。初めて見る系統の図面だったのだ。

 私有時間は常に古代魔法語字典と首っ引きで、実に楽しい日々を過ごせた。

 秋の終わりにはトザナボにメッセン自治区の記事が載り、シシリアの周りでも神獣の真偽が話題になっていた。それ以前に記者組合と魔法省が言論についてひと悶着起こしていたし、どうもメッセンのは本物らしいという意見が今も大勢を占めている。


【五〇一年春一節ナカ日

 もうすぐ御当主に待望の初孫が生まれるよ。僕も楽しみ。

 先日、デン君とセリちゃんは仲良く妊婦さんに会いに出かけた。

 で、何かあったみたい。

 帰ってからのデン君、「後一年……」って繰り返しながら芝の上でごーろごろして、寝ながら撃ってた。もう僕、デン君の弓の練習は曲芸にしか見えなくなってきたよ。

 セリちゃんにも教えてあげたいけど、ちょーっとあの姿は見せられないなぁ。

 因みに雑念まみれみたいだったけど、やっぱり一本も外さなかったよ!】


 そういえば、グリンザの珍妙な教え子は婚約者が成人するのを待っていた。そろそろ結婚できる筈だ。

 当主の初孫誕生、デンの曲芸も新しいのが登場、セリに増えた手料理の数々……シシリアは、メッセン家の人々と殆ど面識が無いのに、割と彼らに詳しくなっている。

 散らばっていた封書が、ようやく未開封の一通だけになった。

 とうとうあの二人が結婚したかな、と察する。

 シシリアは、少しばかり頬を緩めて封を切った。


【五〇一年冬三節サク日

 デン君とセリちゃんの婚礼の日が決まったよー。

 来年の春一節サク週七日目。

 今日は、デン君の曲芸がそれは見事だった。宙返りしながら連射してたよ! そのうち、的に矢で〝セリ〟とか字を描き始めるんじゃないかな。


 ところでシシィ、実は例の魔法図、対人用もあるんだ。我ながらイイ仕事したもんだよ。

 でもこの魔法、門外不出なんだよね。】





「いい天気になったねぇ、良かった良かった」

 雲一つ無い空の下、メッセン自治区では早咲きの花が幾らか咲いている。

「その料理は、それだけ?」

「あっちのが量作ってあるらしいよ」

 屋敷の周りでは、朝早くから集落の人々が式の支度に奔走していた。

「酒がもっと要る気がしてきたな。若坊はアレで()()だぞ」

「何としても潰してやりたいな、今日だけは」

 男達が、本気とも冗談ともつかないことを言いながら、酒瓶を数えている。

 聞こえてきた会話に口角を上げ、礼服に着替え終えたグリンザは自室を出る。

「ムー」

 出てすぐ、ぽふっと足に何かぶつかって来て、グリンザは肩越しに目を落とす。小さなお姫様が足にしがみついていた。

「ヒラルちゃん、おめかししたね」

 グリンザが笑って抱き上げると、スゥヤが慌てたようにやって来た。

「ごめんなさい――グリンザ様を見るなり走り出して」

「もう走るの? 凄いね」

 当主代行の一歳になる愛娘は、視界が高くなったのが嬉しいのか、にこにこする。将来が楽しみな美人さんだ。

「おい、ウチの子を誑かすなっ」

 大声で言うや、ゴウナがヒラルを奪い取る。幼子が、たちまち泣き出した。

 ムーっ、と泣き叫ぶ我が子に、ゴウナは衝撃を受けた様子で睨んできた。グリンザは両手を掲げる。

「泣かせたの僕じゃないから。代行だから」

「ウチの子はやらんぞ!」

 噛みつくゴウナに、スゥヤが緩く頭を振って、娘を抱き取る。

「困ったお父様ね。泣かないのよ、ヒラル。セリさんにお花を渡すんでしょう?」

 肩をいからせたゴウナがどかどかと玄関へ向かう。途中で当主とカイケンも出てきて、連れ立って外へ出る。

 庭で、式が始まる。


 デンとセリが、揃いの衣装で登場した。

 花嫁が初めて屋敷へ来た日と一緒だ。

 若奥さん、綺麗だよっ、と集まった人々から声がかかる。若坊も果報もんだ、と皆が目を細める。

 端切れで作られた、色とりどりの小さな花が宙に舞う。

 セリが、草色で細かく刺繍された帯を、デンの腰に絡めた。クラカの指導を受け、頑張っていただけのことはある。丁寧に揃った糸が、陽光を受けてキラキラしていた。

 デンが、物凄く緊張した手つきで、生成りの肩布をセリの頭から包むようにかけた。この無地の布へ、新妻はまた刺繍をしていくのだ。そうして、やがて生まれる子のおくるみになる。

 スゥヤに手を引かれたヒラルが進み出て、黄色い野花を捧げた。セリが目を潤ませ、とても嬉しそうに受け取る。

 隣のデンは、帯を贈られてから、あからさまにセリから目を逸らし出した。

 二年間に渡る〝おあずけ〟も今日で終わりだが、(待て)はもうしばし続くのだ。

 宴が始まり、並んだ料理の間を酒が巡った。

 デンは、水でも飲むように先ず一杯空ける。

 彼のうわばみぶりを熟知している男衆が、それぞれ違う酒瓶を持って集まり出した。

 少し心配そうな目を向けたセリにも、若奥さんも飲め飲め、と振る舞われる。けれど、彼女は成人したてで、まだ酒精に慣れていない。

 美味しさの解っていない顔つきで、ちょっとずつ飲み始める。慎重な飲み方だったが、さほどせずに、色白の頬がほのりと染まってきた。

 注がれるままに平然と杯を重ねていたデンが、そんな彼女をちらりと見るや、少々目を見張って二度見する。一旦素早く視線を逸らせたものの、あおった杯を卓へ置いた。耳が赤い。

「も……無理……」

 ぽつりと告げられ、近くに座していた当主が苦笑いした。

「少々早いが、まぁ行くといい」

 周りがニヤニヤし始める。

 デンが何に酔ったかは、明白だ。

 二人が席を立てば、若奥さんに飲ませたのは失敗だった、と悔しがる者が居て、笑声が起こった。口笛や囃し立てる声が響く。一斉に新たな祝杯が各自の手に廻った。

 垣根の傍で待機していた馬にセリを乗せ、後ろから一緒に跨ったデンは、奥方をしっかり腕の中に包んで馬首を湖へ向けた。七日ばかり、新婚夫妻はあちらでのんびり過ごすのだ。

「いってらっしゃーい」

「ちゃんと帰ってこいよぉ?」

 陽気な声の数々に応え、セリが幸せそうに笑って手にした花を振った。

 門出を祝してそれぞれの杯が掲げられ、中には宙に振りまく者も居る。

 歓声があがる中、馬が軽やかに駆け出す。

 本日の主役は、たちまち木立の向こうに見えなくなった。

「若坊が予想外に早く潰れたから、酒が余りまくってるぞぉー」

 満面の笑みで男達が言い、和気藹々と宴が再開した。


 酒瓶を傾けに来てくれる女性達をするりするりと笑顔でかわし、グリンザは集落の外れへ出る。

 息を切らし、慣れない森の道を()()がやって来る。案内人の後を、ふぅふぅ云いながらついて来ている。

「シシィー、残念! デン君たら我慢できずに、もう奥方連れていちゃいちゃしに行っちゃったよ」

「なぬー!?」

 案内人にグリンザが寸志を渡す脇で、このわたしを二度も放置するとは……! とシシリアは悔しがっている。相変わらず、類友だ。

「まぁ、大本命の僕が居るから無問題だよね」

「わたしの大本命はグリンじゃない。魔法図だ」

「またまたぁ、一緒に野生へかえろうよ」

「自治区はまだまだ寒いようだな」

(ほんっと、手強いよね、君!)

 好敵手とは、よく言ったものだ。

 グリンザは、八年がかりで顔を見せたシシリアに、相好を崩した。

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