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企画短編

少年が少女と出会って、戦うお話

作者: 銀玉鈴音

 あらすじ


 魔王の国から侵略を受けている王国の王様から、小さな銀の短剣と神も○せる毒薬を貰った少年は、魔王を倒す旅にでました。





 旅の途中は色々あったけれど――


 ほんぺん


 ――後は一突き、背中から。


「なんてこった」

 ぼくは小さな声でぼやいた。


 玉座の後方3mの垂れ幕の背後に気配を完全に殺して潜む、ぼくの視界に入るのは"魔王"だ。


 今、"魔王"は謁見の最中だ。

 "魔王"は実に朗々とした声で、訪れた国民を前に一人一人応対をしている。


 "魔王"の国の国民は、やはり魔物だ。異形の存在だ。巨大であったり、矮小であったり、肌の色が青黒かったり、角が生えていたり、そもそも人型ではないものの方が多い。


 そんな人間の範疇を大幅に外れた、異形の国民の群れを前にして、堂々とした態度で謁見をこなし、玉座に座る"魔王"は、少女であった。


 ぼくと同じ位の年齢の少女であった。


 魔物の国は、少女を王として祭り上げていたなんて。

 もっと、邪悪で、もっと、強大で、もっと、忌まわしい何かを○すためにぼくは旅をしてきたつもりだったのに。



 とても綺麗な女の子だ。



 それを――


「……○せばぼくの旅も終わる」

 ○せるのか?

 いや、○さねばならぬ。


 この"魔王"を刺し○せばぼくの旅は終わる。そして、ぼくは英雄となる。

 魔王を○した勇者として、家族が一生安泰な生活が保障されるのだ。

 ぼくの親兄弟が笑顔で、幸せに暮らす為には――その為には何でもすると決めたのだ。


 だから、玉座から立ち上がったその瞬間を狙うのだ。


 この死角から、一気呵成に飛び出して行くのだ。そして銀の短剣を持った右腕を伸ばすのだ。伸ばした先に身体があればどうとでもなる。髪の毛一筋ほどの傷をつければ良い。


 そうすれば、ぼくと同じ程度の歳の"魔王"は、神○しの毒薬であっという間に苦しまずに逝く事だろう。

 謁見が終了し、"魔王"が立ち上がるのを待つ。

 "魔王"が立ち上がる。その瞬間を待つ。息をひそめて。

 立ち上がった。気配を殺したまま、隠形を維持したまま、殺意を込めずに、ただただその場に自然と溶け込んだ異物となったぼくは、"魔王"に向かって走り出す。一歩、二歩、


「――あ」

 "魔王"は軽く悲鳴を上げた。気付いても、たった3m。遅すぎる。

 必殺の間合いのはずだ。が、ぼくの足は固まってしまった。


「……少し、話をしませんか?」

 "魔王"の光を反射しない漆黒の瞳が、ぼくを貫いて、縫いとめた。

 やはり、化け物の王、"魔王"はただの少女ではない。不意を打った数瞬が過ぎ去れば、人の子など、いくらでもなんとでもなる、という余裕が見て取れた。


「ほんの少しで、良いんです」

 "魔王"がぼくに、ごくごく自然に、明日の天気を尋ねる調子で問うた。


「何故、あなた方人間はおとなしく食べられないのですか?」

「はぁ?」

 ぼくの口は開きっぱなしになった。


「今日の陳情のほとんどが「人間たちが、大人しく狩られない」と言う事でした」

「当然じゃないか」

 ぼくは、眼前の"魔王"が何を言い出したのか、理解が出来なかった。


「私たちは契約を大事にします――あなたたちの王と、私は契約をしました」

「どういう事だ」

「毎年一万人の贄と捧げる事と引き換えに、私たちはあなた達の国を支えるという契約です。現に、何処の人間の国よりも、あなたの国は繁栄しています」

 一拍おいて、凍り付いたぼくを見つめたまま、少女は喋り続ける。


「ですが――あなた方は、対価を支払っていません。何故、対価を払わないのですか。債務を払わない理由は何故ですか」

「それは」

「合理的な理由があり、支払えない対価であるなら、契約を結んだ私も考慮します。ですが、あなた方の国の人口は毎年一万以上増えているではありませんか?」

 カツン、とヒールの音を立てて、"魔王"はぼくに一歩近づいた。


「生き物だから仕方がないじゃないか!」

 命を代価に差し出せ、と言われて首を縦に振る生き物など、居ない。

「ですが、契約は契約です」


 ようやくぼくは気が付いた。"魔王"は少女の姿をしていても――


「ばけものめ」

「私たちは"契約"で結びついています。そうでなければ私たちはこの国を維持できない」


「維持出来ないなら、国なんて維持しなければいいんだ」

「そういう訳にもいきません。私たちも、また、生きているのですから」

 "魔王"はほほえみ、


「あなたがたの国は、多くても五つの民族、四つの言語、三つの宗教、二つの文字で成り立っています」

 "魔王"は歌う様に、


「私たちは違う。私たちは姿形の違う数十の種族と言語、大凡考えうる限りの宗教、風俗で成り立っている。それを纏める為には――」

 一歩、魔王は近づいた。


「契約と言う、なによりも強い概念で纏まらねばならない――故に。私たちの契約は"絶対"です」


 "魔王"はぼくの短剣を指した後、

「たとえあなたが、王との契約で、私を短剣で刺し貫いたとしても」

 自らの、薄い胸を指した。

「当初の契約がなされる事は無いでしょう。何しろあなた方の王は、契約を尊重せぬお方」

 "魔王"は薄く紅を引いた唇に手を当てた後、もう一歩踏み込み、「それでも」と口走るぼくの唇に指を当てた。

「そして、今となっては、あなたは契約が為されたかどうかすら確認する手段を持ちません」


 当然である。見つかった暗殺者が逃げ切れる事など、無い。


 "魔王"は更に一歩歩み寄り、ぼくの耳元でささやいた。

「さて、本題を、と。今代の王となってから一二番目の勇者様。王との契約を破棄し、私と契約しませんか?」


「なにをばかな」

「我が国の勇者となるのです。債務を行使せぬ、愚かな王をまずは○すのです」

「……王を○す」

 王を○す。

「それから債務を支払わせましょう。複利の利息を付けて、あなたが取り立てるのです」

「……債務を取り立てる」

 年に一万。利息もつけて?

「たったそれだけの、簡単な契約です」

 たったそれだけ。それだけの――


「勇者よ、契約を。古い契約を捨て、新たな契約を」

 ぼくは腰に回される腕を。


「素敵な、小さな勇者様」

 首筋に這う"魔王"の舌を。



「おかしい」



 拒絶した。


「契約が絶対なら」

 突き放す。


「君は、"ぼく"と"王"の間の契約も尊重せねばならぬはずだ」

 蹴り飛ばす。


「他者の契約を破棄し、己との契約を強要する、やはり"魔王"」

 距離を取る。


「君は"魔王"だ」

 ぼくは銀の短剣を改めて握りしめる。



「そう、私は人を喰らう"魔王"」

 "魔王"の額に怪しく黒光りする角が現出する。


「残念。美味しいカモが飛び込んできたと思ったのに」

 烏羽の如く怪しく黒濡れした髪が風もなく広がり、漆黒の瞳は黄泉より深い暗黒。山羊の角を持ち、黒い翼を広げると、ぼくよりもはるかに大きな威圧感。


「でも、私の言った事の、ほとんどは真実よ?」

 素敵と言った事もね、と小首を傾げて笑う"魔王"はとても魅力的に映った。


「それでもぼくは、人間の側でいたい」

「よろしい」

 そしてぼくらは踊り始めた。黒い翼と銀の短剣が打ち合わさり髪の毛ほどの小さな傷を何個も何個もこしらえてそれ以上にぼくの体に大きな傷を残しながら、最後にやぶれかぶれに投げつけた短剣が魔王の右わき腹下につきささりぐらりとゆれて倒れた少女の体がぼくに覆いかぶさり、そのまま魔王の城は崩れ始めて――






 えぴろーぐ


 こうして、王国は救われた! 王様万歳! 王様万歳!






 さらなるえぴろーぐ


「なんてこった」

「これでも、まだ、人間でありたい?」

「ぼちぼち」

「ぼちぼちかー」

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― 新着の感想 ―
[一言] 世知辛いことだなあ、と僕は悲しくなりました。オチのシュールさと切なさがベネ
[一言] 初めまして、大本営と言います。 末席ながら灰鉄杯に参加させてもらっていますので、皆様の作品を拝見しています。 ベギンレイム様もご指摘でしたが、なんと言えばいいんだろうか言葉に詰まる作品でし…
[一言] うーん、なんだろうな。なんと言えばいいんだろうか。 救いようがねぇなぁ。畜生。 なんというか言葉に出来ない短編でした。
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