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2 乙女ゲームと知らされた件について。

 エアコンのきいた室内に入ってとりあえずリビングへ。自分の分だけ冷たい麦茶をいれてソファに座る。男達の分?用意しませんよ。さすがに素性の怪しい人間をもてなしたくはないので。

 麦茶を飲むと冷たさが喉を通って心地よく、イライラが少しだけ治まった。


「それで、一体何を話すって言うんですか?」


「実は、僕たち自身も詳しくは聞いてないんだ。行けば分かるとしか伝えられていなくて」


 煮え切らない態度の亜麻色くんにイライラが復活した。話をしたいって言い出したのはあなたでしょう!?


「なあ、あれ(・・)渡せばいいんじゃねーの?」


 と言ったのは栗色くん。イラついている私を怖がっているわけではなく、単に面倒事を終えたいだけのご様子。足を投げ出して座っている彼はなんだか不良みたいだ。


「あ、そっか!じゃあ、コレ。成神様からです」


「神様から?」


 栗色くんの言葉を受けて亜麻色くんが差し出したのは白い何の変哲もない箱。教科書ぐらいの大きさで、少し平た目。この箱を開けたら異世界に行けるのかな……?

 とりあえず、眺めていても仕方がないので蓋を開けてみると、何やら本のようなものが入っていた。


「『【狐と鏡と恋の魔法】〜キセキの恋はきっとある〜完全攻略本』……なんで攻略本?」


 私が表紙を読み上げると突然、『ボワン!』と白煙が本の中から上がった。煙は数秒で消え、視界が明瞭になると見えたのは小型犬サイズの小さなぬいぐるみの狐だった。ぬいぐるみにしてはやけにリアルなそれはもふもふでとてもさわり心地が良さそうだった。攻略本は煙と共に消えてしまっていた。


「きつね?」


「はじめまして、柚夏さん」


 き、狐がしゃべったー!


「かわいい!」


 本物(?)の狐さんの登場に栗色くんは無関心ですが、亜麻色くんは、興味津々。彼のジーパンとTシャツの間からはいつの間にかしっぽが出てますよ。尾てい骨辺りから出てるのかな、あのしっぽ。

 ここまで来たら、もう何が起きても驚かない!もはや夢だと思いたい!


「あの……その、小さな狐さん。お名前は?」


「私ですか?セキ、と申します。成瀬神(なるせがみ)様の代わりに説明とサポートをするため参りました。」


 ん?丁寧で簡潔なのはとても良いけれど、どういうことなのかいまいち分からない。


「えっと、……セキちゃんって呼んでもいいかな?」


「はい!」


「あなたが担当するのは説明とサポート役なのよね。それならあのデカ狐二匹は?」


 そう言いつつ何食わぬ顔でテレビをみている二匹を指で指し示すと、セキちゃんはあっさりと「あの二匹は別の仕事がある」と言った。この状況の説明を頼むと「説明をする上で二匹に内緒にしたい話があるので部屋を移りたい」と頼まれた。

 と言われても、リビング以外で赤の他人を入れていい部屋などない。いや、本当はリビングだって嫌だけど。二匹だけを残していくのは不安だったがどうしてもと言われて仕方なく、セキちゃんを抱えて二階の私の部屋へ移動した。



「それで、これはどういう状況?」


「えっとですね、私のタイトルに見覚えありませんでしたか?私の前の姿、本の表紙にかいてあったタイトルです」


「タイトル……表紙に書いてあったあの文字のこと?」


「はい。【狐と鏡と恋の魔法】というのですが」


「狐と鏡……あ!」


 『【狐と鏡と恋の魔法】〜キセキの恋はきっとある〜』これは、私が中学生の時に流行った乙女ゲームのタイトルだ。


 ある日主人公が投げた賽銭が、祀ってあった鏡に当たり割れてしまい、飛び散った破片を三人のイケメン狐と共に探すという、人外との恋愛シミュレーションゲームだ。

 何で狐が神様の使いなの?とか、賽銭ぶつかって割れる鏡って弱すぎる!とかいう設定へのツッコミどころ満載のゲームである。なんてバカにしたような説明をしてみたが、私も友達に薦められて、ついついハマり込み、夏休みを潰した覚えがある。


「確かに、さっきの本があのゲームの攻略本だっていうのは分かったけど……それで?」


「えっとですね、私はあの攻略本から姿を変えたものなのです。柚夏さんは毎日乙女ゲームの世界に行きたい!って頼んでましたよね?ゲームの世界に連れていくのは、ちょっと事情がありまして不可能なのですが、ここの世界の一部を捻ってゲームの世界にするのは可能なのだそうです。そして……」


「私の周りの一部をゲームにしてしまえ、と」


「まぁ、そういう訳です」


 そういえば、下にいる亜麻色くんと栗色くんは攻略対象だった!やけにイケメンだなあとは思ったけど何で気がつかなかったんだろう?


「成瀬神様は【狐と鏡と恋の魔法】が現実にあたる世界も管理してるので、あちらの世界とこちらの世界の一部を繋げてしまったのです」


 なるほど。それならこの異常事態も少しは理解できる。

 つまり、私の願いをきこうとしてくださった神様は異世界に飛ばすのではなく私のまわり一部分のみを世界に繋げて願いを叶えて下さったということのようだ。

 そして選ばれたゲームは【狐と鏡と恋の魔法】であり、その攻略対象である彼らがゲームの通り私の家を訪ねてきたのか。


「あれ?それなら、何でリョウくんは居ないの?」


 リョウくんとは、攻略対象の内、最も人気のあった赤髪の狐くんで、私も彼目当てでゲームを始めたのである。いや、まあ、三人とも好きだけど、俺様なリョウくんは特にお気に入りだった。常にリードしてくれて、誰よりも甘やかしてもらえる彼のルートは当時の私にとって癒しだったのだ。


「あー、柚夏さんもリョウくん目当てでしたか。残念ながら、リョウくんは主人公に攻略されちゃったんですよ」


 セキちゃんがしっぽをくゆらせながら言った。


「えっ本当に?」


「はい。攻略するならばシュウくんか、リュウくんのどちらかになります」


 シュウくんはすごく不機嫌そうで態度が大きかった栗色くん、リュウくんは優しげだけれど煮え切らない態度だった亜麻色くんのことである。


「彼らの時間軸ってゲーム上いつなの?」


「ヒロインが『リョウくん一直線ルート』を選んだので、成瀬神様に召集をかけられて今に至ります」


 『リョウくん一直線ルート』と言うのは、出会った瞬間にヒロインとリョウくんがハプニングキスをすることによって、リョウくんと二人きりで鏡探しをすることができる『リョウくんエンド』一直線のルートである。

 実は幼い頃にあったことがある、という設定のあるリョウくんだけに起こる初心者向けルートだ。


「なるほどね。だから、攻略対象にシュウくんとリュウくんしかいないんだ」


「はい。お二人の設定は基本そのままですが、攻略方法はゲームの内容以外にもありますので、がんばって攻略してくださいね!」


「えー!私、攻略する気はないよ?て、言うか神様には悪いけどこんなの返品だよ?」


 私はリョウくん一筋だもん。リョウくんがダメなんだったら、人外じゃなくて人間と恋がしたい。それに、私は元々この世界から抜け出したくなってお願いしていたのだ。できないならば普通に行きたい。


「あ、それは無理です。」


「え、無理って?」


 思わず聞き返した私にセキちゃんは表情を変えず繰り返した。


「それは無理です、返品は不可能です。もう、ストーリーは始まってしまっていますし」


「はい?本気で人外と恋愛しろと言う!?」


「はい、そうです。柚夏さんも以前はそれを望んだのでしょう?」


 いや、まあそうですけれど。ゲームの通りならば彼らと同棲をするということになる。それってちょっとどうなの!?


「お嫌でしたら、true END目指したらどうですか?あ、同棲は決定ですが、費用は出しますのでご安心くださいませ」



 セキちゃんのしっかりとした一言に崩れ落ちる私になす術はなかった。こうして、私達の同棲生活は幕を上げたのでした。

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