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先生!  作者: 榎本壮詩
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4:はじめての黒門


 大きな山脈と、海に囲まれた小さな国――キャトリア。


 多くの自然に恵まれた平穏で素朴なその国は、魔力を秘めた石、または結晶である「魔石ませき」の発掘をきっかけに、急速な文明開化と、急成長を遂げた。


 従来の科学技術と融合させることで魔石ませきの力を利用する『魔石学』。

 魔石自体の力を人間が直接引き出し、利用する『魔導学』。


 国家の文明を大きく活性化させることとなったこの技術をさらに発展させるため、国家は人材の育成と、研究の促進に力を注いだ。



 『国立魔石魔導学術院 高等研究所』


 それは、百数十年前より国家の文明を支える事となった、『魔石学』、『魔導学』の研究、および研究開発、試験、鑑定などを行うために作られた国家機関である。

 

 国中のエリートが集められ、『国立魔石魔導学術院』にて、基礎、応用を学ぶ。

 その中でも特に優れた者だけが、『高等研究所』への所属が認められ、最先端の技術開発や研究をすることが許されるのだ。



 ソウマ=ケイは、その狭き門を突破し、二十一歳という異例の若さで准教授に就任したエリート中のエリートであった。


 若くしてその才能はめきめきと頭角を現し、外見の美麗さも手伝って、彼は学術院入学当初から注目の的だった彼が、「秘書を雇った、しかも女性」という一大ニュースは、一日にして学術院中の噂にとなった。


――「大の女嫌い」であるソウマ准教授の秘書の座を射止めたのは誰なのか?

――一体どんな人物なのか? もしや、彼女ではないか?



 当の本人たちが知らないところで、彼らは一躍、時の人となっていった。



*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*


 午後一時半を少し過ぎたころ、話題の少女は大きく開け放たれた鉄製の門を足取り軽い雰囲気で通過する。

 『国立魔石魔導学術院 高等研究所』と銘打たれた鉄製のプレートが頭上で黒く光り、今日の日差しの強さが伺える。


 イノリは胸元にそっと手を置くと、そこに小さく主張する金色の装飾があることを指先で確認する。

 その感触が嬉しくて、「へへへ」と、一人相貌を崩す。


 先ほどイノリが通過した学術院の北側に位置する門、通称「黒門」は、正門として構える通称「白門」と真反対にある。

 学術院へは白門から入るのがセオリーであるが、各種研究施設が集まる高等研究所には、黒門――いわゆる裏口から入る方が近い。

 そのため、学生は白門、研究者は黒門を利用する、という見えない規則がそれとなく存在していた。


「この黒門を使う日がくるなんて、夢みたい」


 学術院在学時代、歴代一の落ちこぼれと呼ばれていた彼女が、高等研究所に足を踏み入れることなんてあるはずもなく、この黒門を使うことは、彼女にとって一種の憧れとなっていたのだった。


 予定よりも早く家を出てきてしまったイノリだったが、昨日の反省を生かし、はやる気持ちをどうにか抑え、指示された通りの時間に到着するよう、できるだけゆっくりと歩を進めた。

 

 昨日は緊張でそれどころではなかったため気にも留めていなかった、いくつも立ち並ぶ研究棟や、実験棟などの外観をぐるりと見て回り、イノリはたっぷり寄り道をする。


 そろそろいい時間だろうと愛用の懐中時計で確認をとると、イノリはソウマ研究室が入っている研究棟、「四十八号館」へと向かった。

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