Act2-1
毎日連載って難しいですね…早速こけましたorz
今回もちょいと補足をば。
ハンビー …ゼネラルモーター社製の軍用ジープ。米軍、その他幅広く使用されている。日本でも基地開放とかに行けば普通に見られます。
ハインド …ソビエト製の戦闘ヘリ。機銃・ミサイル・爆弾と多彩な兵装が特徴。実際に北朝鮮軍もこれは保有しています。
ミニガン …分かりやすく言えばガトリング。正式名称はM134。毎秒100発という凄まじい連射力と威力で対象を「撃つ」というより「吹き飛ばす」
お約束ですが、詳しくはwikiでwそれでは。
"CRYSIS"
Day2-04:27:45
Yuuji Yazakura
fujimiya highschool student
fujimiya city,Japan
爆音と共に地震のような衝撃が全身を襲った。
「何だっ!?」
咄嗟に起きてベッドサイドの目覚まし時計を見る。まだ4時半だった。
「何なんだよ…ったく…」
眠い体を無理やり起こしてリビングに向かう。電気をつけようとスイッチを押すが、部屋は明るくならない。
「うわ…マジかよ…」
天井の電灯が床に落下している。相当大きい地震だったのか…しかし携帯の地震速報は鳴ってなかった筈なんだけどなぁ…
「こりゃ週末買いにいかなきゃ駄目だな…とりあえず地震なのかどうか…震度いくつだ?」
テレビは生きているようだ。リモコンが見あたらないので主電源をそのままポチッ
画面に現れたものを見て目を疑った。
「繰り返します、自衛隊と在日米軍の共同で抵抗活動を繰り広げていますが努力も空しく、既に日本海側の制海権は握られつつあり、また制空権を争っての戦闘が激化している模様です。沖縄の在日米軍基地との連絡も途絶しており、事態の把握を急いでいます。政府は緊急対策会議を開きましたが、大量の遠距離ミサイル攻撃により関東圏も被害を受けており、会議に出席できる議員の確認もできておらず、事実上機能を停止させています。只今…新潟支局に出張中の高田リポーターと繋がったようです。高田さん、そちらの状況はどうなっていますか?」
「はいっこちら高田です!只今ここ新潟支局も今撤収中で職員が避難して…」
次の瞬間この国じゃ聞く筈のない、けれど俺はいつもゲームの中で聞きなれた音がテレビから聞こえてきた。
銃声
「うわぁ…撃ってきたぁ!道路の向こう側から銃撃されましたぁっ!逃げろぉぉ…」
「高田さんっ!?高田リポーター、聞こえますか!?」
次の瞬間、テレビの画面が風景の映像に切り替わった。船が川をゆったりと流れている映像だ。
「ヤバイな…こりゃ…」
戦争。そう、戦争が起き始めたのだ。
自分が生きている間はないと思っていた。世界トップクラスの安全と謳われている国が一晩でこうなったのか。
「待ってくれ…ちょっと…待ってくれ…」
この手では定番だが、夢オチ?
頬をつねる。うん、痛い。
「現実ですか…とりあえずネット…」
パソコンの電源を点けようとしたその時、玄関のドアが強く叩かれた。
「まさか…もう…?」
先程のテレビリポーターの映像が頭をよぎる。
あの玄関ドアを開けた瞬間、自分は蜂の巣…
「いや…それはないと思う…」
ドアがさっきより強く叩かれる。蹴破られてもおかしくないかもしれない。
「アパートなんだ…やめてくれよ…」
仕方なく玄関に向かう。妙に俺は落ち着いていた。
安っぽい建てつけのアパートのドアを開くと、そこには大きく黒光りするものを持ったイカツイ男が何人もいた…訳ではなく。
実に結構な膨らみのある黒のタンクトップに、下は迷彩ズボンに軍用ブーツという格好の黒髪ポニーテールなお姉さんがいた。
「…はっ?」
いや、この状況なのだから予想外のものが現れるのは分かる。迷彩ズボンに軍用ブーツも分かる。
何故ポニーテール?
危うく思考回路がショートしそうになったが、次の瞬間現実に引き戻された。
「君が夜桜雄二だな?」
「はぁ、そうですけど…」
いきなり呼び捨ては無いだろアンタ…
「夜桜雄二、時間が無いので今すぐ決めてくれ。私と共に来るか、一般市民としてここから避難するか」
「…ハイ?」
「今すぐだ。決めてくれ。」
「いや…えぇ?ついて来いって…どこに?」
「それはまだ言えない。機密事項だからな。」
「何だよソレ…」
意味が分からん。出会ったばかりの、しかも明らかに怪しい女性だ。
「それで…どうするのだ?」
決まっている。そんなの。
「いや、普通にお断りですよ。知らない人についていっちゃいけませんって婆さんに教わってるんで。」
ていうか今時小学生でも知ってるぞそんな事。
お姉さんのポニーテールが残念そうに揺れる。
「そうか…残念だ。我々には君のFPSの腕前が必要なんだが…仕方あるまい。失礼した。」
…ちょっと待て。今何て言ったこの人。FPSって言ったような気がするんだが。
去ってゆく軍人らしい姉さんの背中にFPSという見慣れた単語を重ねる。
「待ってくれ!」
あぁ何やってんだ俺。そうやってヤバそうな事に首突っ込んだら痛い目見るに決まってる。
それでも何故か、俺は半ば本能的に叫んだ。
お姉さんがゆっくり振り返って言う。
「もう一度聞こう。私と来るか?それともここに留まって避難バスを待つか?」
「ひとつ聞いてもいいか?」
「答えられる範囲内なら答えよう。」
うわぁ、やっぱ怖いわこのお姉さん。
「俺があんたらに協力したらどうなる?」
ポニテお姉さんは少し考え込む。そして…
「うまくいけば、君は今までの日常を取り戻せる。」
決まりだ。どうせここにいたって、俺は只のゲーマーの高校生でしかない。だったら…
「ちょっと待ってくれ。持って行きたいもんがある。」
「そうか。3分間だけ待ってやる。」
「どうも…」
自室に急ぐ。見慣れてきた部屋。
「これとこれと…これだ。」
マイパソコンから愛用のマウスとキーボード、そしてヘッドセットを引き抜いてボストンバックに放り込む。
そして本棚の上のトロフィー。今年の春の全国オフ大会の優勝トロフィーだ。これは俺の宝物。
リビングに行く。食卓の隣に飾ってある家族写真もつめる。
窓からうっすらと光が差しこんでいた。
「準備できたか?では行こう。早くしなければここも危ない。」
ポニテお姉さんの後を追って階下の道路に下りると、そこには一台のゴツイ軍用ジープがとまっていた。
「え~っと、ハンビー…だっけ…」
「さすが良く知っているな。さぁ乗れ。」
促されて助手席に座ると、ポニテお姉さんは運転席に座ってエンジンをかける。
「長い上に物騒なドライブだろうが、我慢してくれ。」
うわぁ嫌だな…長時間のドライブとか苦手なんだが…
昔親の車に乗せられて家族で遠出した時は、俺が途中でぶちまけたんだっけ…あぁ思い出したくない…
そんな事を考えていたら車が急発進して後頭部を思いっきりぶつけた。
「グェっ!?」
「気をつけろよ。道が荒れているのでな。」
先に言ってくれよ…そういうこと…
打った所をさすりながら周りの景色を見ると、そこには昨日までとはまったく違う世界が広がっていた。
逃げ惑う人々、それを誘導しようとする警官。燃える家。
「嘘だろ…」
昨日までは、静かな町だったのに。婆さんがのんびり散歩してたのに。学生が悪ふざけしてたのに。
「これが現実だ。我々はこうなる事を少なからず予想していた。その為の準備も、今日まで行ってきた。」
「これを防ぐ事はできなかったのか…?」
俺の問いにポニテお姉さんは首を横に振る。
「残念だが奴らの戦力を見誤っていた。まさかここまで…」
市街地を抜け、ハンビーは高速に乗った。
「そうだ…まだ知らない。そもそも日本を攻めてきたのはどこの軍なんだ?」
「何だ貴様。ニュースも見てないのか。」
「失礼な!ニュースくらい見てるさ!確か昨日のニュースじゃ北朝鮮と韓国がどうのこうのって…あ」
そうか、そういう事か。
予想外の戦力。ここ数日の二つの国の不穏な動き。
街から離れ、山間へと入った。
「もっとも彼らは今、大朝鮮連邦と名乗っているらしいがな。」
「大朝鮮連邦…」
「どうやら中国やロシアも、直接的な関わりはなくとも協力はしているらしい。アメリカやEUが簡単に手出しできないのも、それが理由かもしれん。」
「そいつらの目的って…」
「分からん。だが、今は戦うしかない。少なくとも国民が皆安全な場所に避難するまでは…む」
「?…何だあれ?」
どこから現れたのか、ハンビーを追いかけるように後ろをヘリが飛んでいる。
「あれって確か…ハインド…」
「伏せろっ!!!」
ポニテお姉さんが叫び、反射的に伏せたのと同時に近くで衝撃が走った。
「うわぁぁぁぁ!」
「クソっ戦闘ヘリの進入まで許しているのかっ!」
ポニテお姉さんが素早くハンドルをきると、すぐ横を機銃掃射の雨が通っていった。
「ひぃぃぃっ!」
「夜桜、おい夜桜っ!」
「な…何です!?」
「このハンビーには遠隔コントロールのミニガンが積んである!それであれを撃ち落してくれ!」
「無茶言わないでくれよ!俺は確かにFPSは得意だけど、ホンモノなんて触ったこともないんだぞ!」
「ダッシュボードに専用のノートPCがある!開けば起動する!後はFPSと同じだ!それならどうだ!?」
「…分かった!やってやる!」
ダッシュボードを開いてノートPCを取り出す。愛用のマウスを接続し、ノートPCを開く。
[minigun system online.]
無機質な文字が出た後、空とハインドが移ったカメラ映像がリアルタイムで送られ始める。
「ホント…どうしてこうなった?」
昨日までは俺はゲーム好きな高校生で、今日も学校は適当に済ませて帰ってゲームするつもりだったのに。
「早くしろっ!夜桜っ!」
いきなり戦争が起きて、変なポニテお姉さんに半ば拉致されて。挙句の果てにはハインドを撃ち落せ。
「だけどな…」
揺れる中、マウスを動かす。見慣れた十字のポインタがハインドを捉える。
「悪い気分じゃねぇっ!!!」
飛んでるハインドも、自分が今から撃とうとしてるミニガンも、そもそも自分自身もゲームじゃない。
そんな事分かってる。仮にあれを撃ち落せば、操縦してる人間はほぼ確実に死ぬことも。そうこれはリアルな戦争なのだ。
それでも、俺は迷わず…左クリックした。