赤ずきん?
赤ずきんの年齢設定があいまいですが、まあ気にせずお読みください。
あるところに、赤ずきんという女の子がいた。
赤ずきんは風邪にかかったおばあさんのお見舞いに行くことにした。
途中、森を歩いていると一匹のオオカミに会った。
「やあ、おじょうちゃん。俺と遊ばないかい」
そう誘われたが、赤ずきんは、
「いいえ、結構。私、これから風邪で寝込んでいるおばあちゃんのお見舞いに行くの。あんたなんかにかまっている暇はないわ。じゃあね」
と断り、歩き去って行った。
オオカミはその言葉にとても腹を立てた。
――くそっ、何様のつもりだ? あいつめ……。俺様は今まで何人もの人間を殺して喰ってきたんだ。あいつも喰ってやる。
そう決めたオオカミは、先回りをして、赤ずきんが行くはずのおばあさんの家に行った。
家の中に入ると、中央にベッドがある。
不思議な事に、寝込んでいるはずのおばあさんはどこにもいなかった。
しかしオオカミは気にせず、ベッドに潜り込んでおばあさんになりすまそうとした。
しばらくして、赤ずきんが来た。
「おばあちゃん、大丈夫? 食べ物持ってきたよ」
「へっへっへ。大丈夫だよ。お前は元気かい」
赤ずきんはその声に違和感を覚えた。
「うん、元気だよ。ていうか、ホントに大丈夫? 声が変だけど……」
「えっ、いや、風邪で声がかれてしまってね。まあ大丈夫だよ」
「でも……」
次に赤ずきんは、おばあさんの姿の異変さに気づいた。
「おばあちゃん、どうしてそんなに耳が大きいの?」
「お前の声がよく聞こえるようにするためだよ」
「じゃあどうして、おばあちゃんの口はそんなに大きいの?」
「それはね……お前を、食べるためだよ!」
そう言ってオオカミはベッドから勢いよく飛び出し、赤ずきんに襲いかかった。
すると突然、赤ずきんの様子が変わった。
なんと、いきなり笑いだしたのだ。
「フフフ……クックックック……」
「な、何がおかしい」
「ねぇ、今までもそうやって、たくさんの人を殺して、食べてきたの?」
「ああ、そうだ。安心しろ、お前もそうしてやる」
オオカミがそう言うと、赤ずきんはまた笑いだす。
「なんなんだよ、気持わりぃ」
オオカミがそう言うと、赤ずきんは話しだした。その口調はつい先ほどまでとは一変していた。
「バカだねあんたも。おばあちゃんがいない時点でおかしいと気づかなかったのかい」
「なっ、それはどういう……」
オオカミが戸惑っていると、突然、家の扉が開いた。
そこにはまぎれもない、本物のおばあさんの姿があった。
「い、一体どういうことだ、おめぇらなにもんだ!」
そう聞くと、二人は同時にふところから黒い手帳を取り出し、オオカミに開いて見せた。
「我々は警察の者です」
「なっ、何?」
するとおばあさんが口を開いた。
「オオカミさん、この家に隠しカメラと盗聴器を仕掛けさせてもらいました。あなたの言動も、行動も、すべて記録されています」
「そ、そんなバカな、ありえねぇ!」
「それがありえるのよねぇ」
今度は赤ずきんが話しだす。
「あたしたちはずぅっと連続殺人犯のあんたを捕まえるために狙ってたんだよ。でもなかなか証拠がつかめなくてね。んで、定年が近いくせに風邪になった警部の見舞いに行くとき、たまたまあんたが出てきてくれたのさ。こんなチャンスはない、と決めたあたしは急いで警部に連絡してね。この計画を立てたんだよ。」
「け、警部だと……」
オオカミはおばあさんのほうを見た。おばあさんはにっこりと笑っている。とても警部には見えなかった。
「それにしてもうまく引っかかってくれましたね。聞いたことないんですか? 赤ずきんっていう名前」
赤ずきん、そう言えば聞きおぼえがあるような……。
「ま、まさか! 赤ずきんって……。史上最年少で警察官となり、手荒な捜査で数々の凶悪犯を刑務所へと送った、伝説の刑事! 刑事を始めた直後は純白だったはずの頭巾が、凶悪犯の血で真っ赤に染まったことからその異名がついたという、あの赤ずきんか!」
「そうよ。詳しいじゃない。でも、今ごろ気づいてもあとの祭りってやつよ」
あざ笑う赤ずきんの前で、オオカミはただひたすら嘆いていた。
「そ、んな……俺は、俺は……」
そして、次の瞬間、
「捕まりたくねぇ!」
と叫ぶと同時に、赤ずきんに再び飛びかかった。
しかし、いくつもの修羅場をくぐりぬけてきた赤ずきんに、オオカミが勝てるはずもなかった。
赤ずきんは全く同様せず、オオカミの顔を蹴り上げた。
そして倒れたオオカミを押さえつけ、
「オオカミ! 連続殺人、および殺人未遂の容疑で逮捕する!」
そう言って頭巾に手を入れ、手錠を取り出す……かと思いきや、
「あら、手錠を忘れてしまったわ。警部、手錠持ってません?」
と警部のほうを見た。聞かれた警部は、
「いえ、持ってませんねぇ」
と答える。その口調はどことなくわざとらしかった。
「じゃ、とりあえず動けないようにしないとねっ」
「カメラと盗聴器はすでに切ってありますよ。赤ずきん、遠慮なくやっちゃいなさい」
警部のその言葉を受け、赤ずきんはにやりと笑うと、オオカミに向かって拳を振り上げた。
「おしおきタ~イム♪」
その言葉に、オオカミはこれまでに感じたことのない恐怖を覚えた。
「大丈夫っ! 殺しはしないから」
「ちょ、ちょっと待て、わ、悪かった。助け……ぎゃあああああああああ!!!!」
黄昏の空に響くオオカミの断末魔でさえ、赤ずきんには美しいメロディに感じられた。
その後、オオカミは半殺しにされた状態で警察署へと連れられた。
やがてカメラと盗聴器の記録が決め手となり、裁判で有罪判決を受けた。
懲役20年という、オオカミにとっては終身刑に等しい判決も、赤ずきんから受けた仕打ちよりはマシなものだったのかもしれない。
いっぽう、赤ずきんはというと、定年をむかえた警部の後を引き継ぎ、新警部となった。
赤ずきんは今日もまた、凶悪犯を追い続ける。
めでたし、めでたし。