貴方が笑うから、世界は回る
暗く静かな闇が、小さな火に照らされて白く濁る。
暖かな光に照らされた先には、彼が居た。淡く微笑んでいる彼は、綺麗な目をしていた。
綺麗な灰色。灰色の目が、鉛色に鈍く光を反射する。
彼は、子供の様に残酷な笑みを浮かべていた。
「澪」
そっと近づいてきた彼が、目の前に傅く。
そして、そっと私の手をとって、手の甲に、唇を押し当てた。
柔らかい温もりが、白い手を暖める。
「沙羅、久しぶりね、何日ぶりかしら?」
彼の黒く長い髪が手にさらさらと当たり、心地よかった。
「……澪、愛してる」
少年のような、あどけなさを帯びた声が、鼓膜を振るわせる。
姿は、青年なのに。幼く感じられる。
「私も」
私は彼の耳に軽く口付けする。
「ありがとう」
甘く、紳士的に、しかし確実に、彼は私の心に忍び寄っている。
そして、いつか『喰らう』。
それを宿命としても、私たちは愛し合っている。例え、人種が違っていても。
「どうして、夢なの……?」
切なさが、零れた。
* * * *
目覚めたとき、私の頬には涙が伝っていた。
沙羅の夢を見るようになったのは、いつからだろう。
沙羅がいる世界は、輝いて見えた。
そして、沙羅の夢を観るその度に私は、夜の住人になることを願う。
「………………沙羅」
沙羅のあの綺麗な目が、脳裏にこびり付いて離れない。
淡く光る灰色の目。死者を狩る、悲しくも美しい人。
私が夢に目覚めるから、貴方が存在する――。
貴方が笑っているから、世界が回る――。
――運命共同体。