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白狼の銀

真司と独露は、息を荒げながらアジトの洞窟へ戻ってきた。

阿吽はすでに退いていたのだから、慌てて帰る必要など本当はなかった。

それでも、少しでも早く安心できる場所に戻りたい――その一心で、自然と足は速くなっていた。


「ハァ、ハァ……やばかったぜ……。まさか阿吽が、あんな所に現れるなんてな」

圭太は険しい表情のまま、切り株に腰を下ろした。


「あの二人……阿吽って言うんですね」

真司が息を整えながら尋ねる。


「ああ。この島最強の双子、白狼の幹部さ」

圭太の顔が、思い出しただけで強張る。


「しかし真司君、あの一撃を受けてよく耐えましたね」

晴人が驚いたように言うと、圭太も続けた。


「しかも、そのあと普通に走って逃げて来れるなんてよ……どうなってんだお前の体」


「本当に必死でした。翔さんの声が聞こえなかったら、意識が飛んでたと思います」

真司は翔の方を向く。

「翔さん、ありがとうございました」


「……いや」

翔は照れくさそうに頭をかいた。


少しの沈黙。

その空気を切るように、圭太が真司を見た。

「真司。部下はもちろん、幹部まであんなこと平気でやる連中だ」

低い声だった。

「そのボスが、どんだけヤバい奴か……見なくても分かるだろ?」


圭太は、真司の目をじっと見つめる。

「あいつらの支配から、皆を救い出そう。なぁ、真司」


「……は、はい……」

真司は頷いたが、表情は煮え切らない。


「でも……やっぱり、相手を倒したり……まして、殺したりなんて、自分にはできません」

少し間を置いて続ける。

「だから、とにかく一度会ってみたいんです。話をしてみたい」


「うーん……」

圭太が腕を組む。


「話が通じる相手じゃねえと思うけどな」

そして、少しだけ声のトーンを落とした。

「でもよ、阿吽に顔がバレちまった以上、のんびりもしてられねえ」


晴人と翔の顔が、わずかに引き締まる。


「明日、城に潜入してよ。銀が一人になったところを見計らって会うってのはどうだ?」


その言葉に、二人ははっきりと顔を強張らせた。


「うおー、ついに対決の時かぁ!」

なぜか唯だけが、まるでピクニック前のようなテンションではしゃいでいる。


「こ、怖くないんですか……唯さん」

翔が思わず聞いた。


「だってさ」

唯は肩をすくめて笑う。

「何かあって死んだって、人間なんていつかは死ぬんだから」

さらりと言った。

「それが明日なのか、何十年後なのかってだけの話じゃん。ハハハ」


(……唯さんって、自分も含めて命を軽く見てるのかな)

真司は、ふと背筋に冷たいものを感じた。


その空気を断ち切るように、圭太が声を上げる。

「よし!決めた」


膝をパンと叩き立ち上がり

「そんじゃ明日、白狼城に潜入するぞ!」


そして、すぐにいつもの調子に戻った。

「お前ら、そうと決まったら飯食って寝るぞ!」

「……また真司君の意見、ちゃんと聞く前に決めちゃってるんだ」

晴人が呆れたように言いながら、夕食の準備へ向かう。


――

深い森を抜けた先。

尾根に挟まれた谷の奥。

その苔むした城は、霧の中で静かに息を潜め、

獣のように冷たく佇んでいた。

白狼城。

銀の根城――狼の巣だ。


もともとは第一次世界大戦当時の建物を、島流しの受刑者が住めるよう手直ししたものだという。

外壁は苔に覆われたレンガ造りで、長い年月を経た重苦しい空気をまとっていた。


広い室内。

玉座に深く腰掛け、肘をかけたまま、こめかみを指先で軽く叩いている男がいた。

冷たく鋭い目つき。


白狼のボス――銀である。


コツ、コツ、と足音が近づく。

「銀ちゃん、煙、上げてきたわ」

近づいてきたのは、さなえだった。

「さなえ、ご苦労だった」

銀は視線を向けずに短く答える。


「次からは、あんな煙たくて匂いがつく仕事、KUROちゃんあたりにやらせてよね。まったく」

さなえは冗談交じりに首を振った。


「あたしも、色々忙しいもので」

低い声が、すぐ背後からした。


さなえの肩がびくりと跳ねる。

振り向くと、そこに黒ずくめの男が立っていた。

「きゃっ! KURO!

 なんであんたは、そうやっていつも後ろに立つのさ!」


黒い帽子。

黒いバンダナで口元を覆っている。

だが、覗く目元がわずかに細まり、笑っているのが分かる。


KUROは何も言わず、すっと銀の横へ進み、静かに跪いた。

「銀様。本日、阿吽と接触した……面白い男を見つけまして」

そう言って、集落での出来事を淡々と報告する。

銀は黙って聞いていた。


こめかみを叩いていた指を止め、ゆっくりと頷く。

やがて、口元がわずかに歪んだ。

「……実に面白そうだ」

そして短く命じる。

「連れてこい」

「御意」

KUROは立ち上がる。


歩き出しながら、低く一言だけ口にした。

「HAKU、AOI」

すると――

いつの間にか。

2人の黒ずくめの男女が、KUROの背後に静かに現れる。

そして3人は、静かに暗闇の中へ消えていった。


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