襲撃
ゴツン!
寝返りを打った瞬間、岩壁に体をぶつけた。
「いった!」
思わず声が漏れ、真司は目を覚ました。
一瞬、ここがどこなのか分からず辺りを見渡す。
外はもう日が昇っているらしく、洞窟の奥まで淡い光が差し込んでいた。
横では、圭太が大きないびきをかいて眠っている。
昨夜の宴会の光景がふっと蘇り、真司は思わず笑みを浮かべた。
両手を上げて大きく体を伸ばし、ひとまず外へ出る。
宴会の跡は、すっかり綺麗に片付けられていた。
(さて……これから俺は、どうなるんだろうな)
そう思った瞬間、昨日の圭太の言葉が頭をよぎる。
――そんな奴に見つかってみろ。今頃お前は、殺されるか、奴隷同然になってただろうな。
(まあ……なるようにしかならないか)
ぼんやり空を見上げていると、背後から元気な声。
「おっはよー!」
振り向くと、唯がいつも通りの高いテンションで手を振っている。寝起きとは思えない元気さだ。
「おー、いい天気だぁ! ガハハハ!」
圭太も、さっきまで寝ていたとは思えない勢いで外に出てきた。
「おはようございます。ほんと、この二人が朝だるそうにしてるところ、見たことないんです」
晴人が少し苦笑いしながら言う。
「この人たちに子供でもできたら、間違いなくうるさいのが増えますね」
翔がぼそっと嫌味を言った。
「なんだと?」
圭太が眉をひそめて睨む。
そして、すぐにニヤリと笑った。
「よーし、独露集合!」
「集合も何も、もう全員いますよ」
晴人がすぐに突っ込む。
「お前ら、いちいち一言多いんだこのやろ」
そう言いながら圭太は真司を見た。
「まあ、真司もこっち来い」
そういうと昨晩の宴会の席に全員が席につく。
そして、圭太が珍しく真剣な顔で口を開いた。
「実はな、真司。俺たちの素性、ちゃんと話してなかったなと思ってな」
(そういえば……この人たちって、何者なんだろう)
気がつけば、すっかり安心してしまっていた。
素性も知らない彼らに心を許しかけていた自分の危うさに、真司はそこで初めて気づく。
一瞬、表情が引き締まる。
それを見て、圭太はほんの少しだけ顔の強張りを緩めてから、話を続けた。
「白狼はな、この島でも一番の食料産地なんだ」
ゆっくりと言葉を選ぶように続ける。
「悪玉の銀は、領民を恐怖で支配して、過酷な労働をさせて暴利を得てやがる」
唯、晴人、翔が無言でうなずいた。
圭太は腕を組み、さらに言う。
「そんな領民を恐怖政治から解放しようとして動いてるのが――俺たちって訳よ」
誇らしげな顔だった。
「いわゆる……レジスタンスって感じですか?」
確認するように、真司が静かに聞いた。
「そ、そうなんだ! 俺たち、レジスターだぜ!」
圭太はグーサインを作って、キラッと笑う。
「おとーちゃん、カッコいい~!」
唯がすぐに乗っかる。
「……レジスタンス、ね」
晴人が小さく訂正する。
「それそれ、それだ」
圭太は気にした様子もなくうなずいた。
唯が笑う。
翔は呆れた顔で空を見上げている。
「そんな訳でよ、真司にも力を貸してほしいんだ」
そう言って、圭太は頭を下げた。
真司は――迷った。
助けてもらった恩もある。
正直、快諾したい気持ちはあった。
だが。
銀という男のことを、まだ何も知らない。
この島のことも、何も分かっていない。
そんな状態で、誰かに加担していいのか。
考え込んでいると、圭太が顔を上げ、真司の表情を見た。
「……そうだよな」
少しだけ苦笑する。
「昨日来たばっかで、島のこと何も分かってねぇもんな」
一度、息を吐いてから言った。
「そんじゃ今日は、いろいろ見て回ろうぜ」
「その上で、俺たちと組むかどうか決めたらいい」
そう言うと、話はもう終わりだと言わんばかりに、さっさと洞窟の中へ歩き出した。
「おい、お前ら出発だ! とっとと支度しやがれ!」
「……真司君の答えも聞いてないのに、まったく」
晴人が苦笑しながら近づいてくる。
「真司君、大丈夫ですか?」
気遣うような声だった。
「はい……」
真司は少し申し訳なさそうに笑う。
「良くしてもらったのに、すぐ答えが出せなくて……すみません」
翔が真司の肩をぽんと叩いた。
真司の顔を一度見て、柔らかくほほ笑むと、そのまま洞窟の中へ戻っていった。
しばらくして、独露の四人が再び姿を現した。
圭太は、まるで戦国時代の足軽のような格好に着替え、腰には刀を差している。
唯の帯には短刀が覗いていた。
晴人と翔は甲冑こそ着けていないが、それぞれ脇差を携えている。
真司は思わず目を見張った。
「その刀って……まさか、本物なんですか?」
「おう、当たり前よ!」
圭太はそう言うと、鞘から刀を抜き、きらりと光る刃を天に掲げた。
「この島じゃ、何があるか分からないですからね」
晴人が静かに言う。
「できれば、こんなの使いたくないけど……」
翔は少し俯きながら、ぽつりと付け加えた。
「ほら、真司も念のため」
唯が差し出したのは木刀だった。
「すまねえな。刀は貴重品でな。せめて木刀だけでも持っときな」
圭太が申し訳なさそうに頭をかく。
その装備を見て、真司のこめかみに冷たい汗が流れた。
この島の危険さが、ようやく実感として迫ってくる。
「……そんじゃ行くぞ」
圭太が歩き出しかけて、ふと思い出したように振り返る。
「そうだ真司、俺たちはレジスター……えっと」
「レジスタンス!」
晴人が呆れたように訂正する。
「ああ、それそれ。レジスタンスだ」
圭太は何事もなかったように続けた。
「相手にバレると厄介だからな。決して派手に動くなよ」
釘を刺すような口調だった。
真司は小さく頷いた。
一同は、森に身を隠すようにして歩き出す。
木々の影を縫いながら、白狼の集落へと足を進めていった。
しばらく森の中を歩き続けていた、その時だった。
「あれ……見てください」
翔が小さく声を上げ、指を差した。
視線の先。
開けた畑の中に、五人の男たちがいた。
圭太と同じように、武士めいた格好。
腰には刀を差している。
その男たちが、畑の作物を笑いながら乱暴に引き抜き、袋へ放り込んでいた。
そこへ、集落の男たちが駆け寄ってくる。
必死に何かを訴え、手を合わせて止めようとしている。
だが――
次の瞬間、集落の男が蹴り飛ばされた。
土の上に転がり、声も出せずにうずくまる。
他の男たちも、怒鳴りつけられ、押しのけられていく。
「あー……ありゃ銀のとこの兵隊だな」
圭太が低い声で呟いた。
その言葉が終わると同時に、真司は立ち上がった。
足が、自然に前へ出る。
「あ、おい……待て真司!」
圭太が慌てて腕を伸ばす。
だが、真司には届かない。
真司はそのまま集落の方へ歩き出し――
次の瞬間には、走り出していた。
まるで、何も聞こえていないかのように。




