KUROの調略
流刑の島「奇渡ヶ島」。アヘンによる支配を画策する滝川に対し、隠密のKUROは、敵のナンバー2・大内の調略という「内部からの崩壊」を狙っていた。
一方、作戦決行までの猶予期間、真司たちはAOIの過酷な修行に身を投じる。ラグビーで鍛えた真司、隠密の才能を開花させつつある翔、そして夫婦である圭太と唯。
今夜、KUROと翔は闇に紛れ、島を蝕む「アヘン工場」の深淵へと足を踏み入れる。そこでKUROが仕掛ける、残酷で完璧な「罠」とは――。
静まり返る住宅街。
一見、普通の戸建てのように見える家のドアを静かに開け、中に入っていくKUROと翔。
中に入ると、広いワンフロアになっていることに翔が驚く。
「ここは……?」
「まあ着いて来てください」
そう言うと、手慣れた様子でロウソクに火をつけ、地下へと続く階段を降りていくKURO。
階段の下から立ち込める甘い異臭に、翔が顔を歪める。
しかし、その匂いで地下に広がる光景を予測したのか、一瞬歪んだ表情はすぐに引き締まった。
地下では、ケシの収穫を待ちわびるかのように、アヘン精製の準備が着々と進んでいる。
その光景に目を奪われる翔をよそに、KUROは一直線に目的の品物がある机へと向かう。
「翔さんこれが何か分かりますか」
そう言いながら、白い粉の入った小瓶をロウソクの火で照らす。
「モ、モルヒネですか……」
「はい、正解です。彼らはこんな物まで作っているようですね。しかし……」
KUROは持参した小瓶を、先ほどの小瓶と並べて翔に見せる。
「KUROさんが持って来た瓶の方は、真っ白ですね。もしかして純度が高いのでしょうか?」
「素晴らしい。その通りです。我らがさなえさん、さすがのお仕事ぶりです」
「さなえさんが作ったモルヒネ……」
翔の額から、たらりと汗が落ちる。
「でもこれをどうするのですか?」
KUROはにやりと口角を上げながら、まずは純度の低いモルヒネを瓶から紙の上に取り出した。
そして細く巻いた紙を空いた小瓶に差し込み、その周りに先ほどのモルヒネをゆっくりと戻すと、細く巻いた紙の中心に持参したさなえ特製のモルヒネを流し込んだ。
「さあどうですか。これで外からは、純度の低いモルヒネにしか見えないですね」 ほくそ笑むKUROの顔が、ロウソクの明かりに不気味に照らされている。
唖然と見ている翔に、KUROが言う。
「さて、答えはきっと明日のカジノの地下で明かされるでしょう。私は、今夜も大内様の愚痴のお相手です。では、行きましょう」
翔は、一体KUROが何を企んでいるのか見当もつかず、ただきょとんとしていた。
しかし、何かとんでもない企みであることだけは確信していた。
翌日の昼下がり、中央本部前のメイン通り。
ここには、奇渡ヶ島の各地からの特産品などの出店が並ぶ。
その中の一軒で、翔が白狼の野菜売りとして野菜を売っていた。
何気ないいつもの日常に溶け込みながら、翔は中央本部からの人の出入りに注目していた。
徐々に太陽が西に傾きかけたころ、中央本部から滝川が高笑いと共に出てきた。
そのすぐ後を大内が付いていく。
翔は二人を確認すると、静かに尾行を開始した。
その翔から数メートル離れて、KUROが後を追う。
すると滝川と大内は、まだ営業前のカジノへと入っていく。
それを見たKUROと翔は、カジノの天井裏へと潜入して様子を伺う。
天井裏から足音を頼りに二人を追う。
「おうご苦労さん」
滝川の声だ。
「はい、研究員の方々が下でお待ちです」
「よしよし、楽しみだのお。なあ、しげちゃん」
「そっそうだな」
そして、階段を下っていく音が聞こえた。
翔が手話でKUROに問いかける。
『地下に降りたようですがどうします?』
『ここから地下への侵入は、リスクが高すぎます。彼らが出て行くまで待ちましょう』
そして薄暗い天井裏で、二人はただ息を潜める。
暫くすると、階段を上がる足音が聞こえてきた。
上がってくるのは二人ではなく、数人の足音がした。
恐らく研究員も一緒だ。
「お前らよくやった。精度を高めて量産が出来るよう研究に励めよ」
滝川の興奮した声が聞こえる。
KUROは足音が遠ざかっていくのを確認すると、翔に合図する。
二人は静かに天板を外すと、音も無く二人の警備兵の後ろに飛び降りる。
警備兵が二人に気付いた瞬間には、気絶させられ、瞬く間にロープで拘束されてしまう。
そして、翔が鍵のかかった扉を瞬時に開ける。
KUROは小さく拍手。
中に入り、階段を降りていく。
地下に降りると、そこは牢獄となっており、牢屋の中には完全に生気を失い、壁にもたれかかっている人が数人いた。
アヘン中毒者だ。
KUROがテーブルを探ると、昨日仕込んだあの瓶を見つけ、翔に見せる。
翔は震えながら周囲を見回した。
「酷い。ここでアヘンの実験をしてるのか……」
「滝川さんの声からして、相当な効力だったんでしょう。恐ろしいことです。そんな恐ろしい物を見た大内さんを、慰めないといけませんね」
「慰める……?」
「さて、お膳立てが整いました。翔さんは皆さんを招集し、明日の早朝に計画を実行するとお伝え下さい。私は最後の仕事をしに行きます」
そして、カジノを後にお互いの仕事をしに向かった。
夕方、とある河川敷に、夕日を見つめ、煙草の煙を燻らす大内の姿があった。
そこに、偶然を装いKUROが近づく。
「大内様、こんなところでお会いするなんて」
「ああ、あんたか」
そっけない返事の大内に、KUROが優しく語りかける。
「何やらお悩みのように見えますが」
「そう見えるか?」
「ええ、とっても」
深くため息をつきながら煙草の煙を吐き出す大内に、KUROが小声で切り出す。
「お悩みは…アヘンですね」
驚きの表情の大内に、KUROが耳元で囁く。
「私たちなら、滝川様を止める事が出来ますが……」
そのころ、独露のアジトでは、クリスと誠も含めての作戦会議が開かれていた。
【機密情報:奇渡ヶ島・裏ファイル】
晴人:
「……アジトに戻った翔の顔、見たかよ。
幽霊でも見たみたいに真っ青で、ガタガタ震えてやがった。
KUROさんと一緒に、一体何を見てきたんだ?
しかし、いよいよ明日か。
アヘン工場の破壊と、ケシ畑の焼き払い。
真司は気合入ってるし、圭太も『唯のために終わらせてやろうぜ』なんて笑ってるけど……。
俺の心臓は、さっきから嫌な音を立てて止まらねえんだ。
KURO:(煙草の香りを漂わせながら)
「ふふ、大内様のあの表情……。
絶望と希望が混ざり合った、実に美しい顔でした。
読者の皆様。
ついに役者は揃い、舞台の幕が上がります。
明日の早朝、この島に昇る朝日は、誰を照らし、誰を焼き尽くすのでしょうか。
私のメモには、まだ**『脱落者』**の文字が消えずに残っています。
もし、この危うい計画の成功を、そして彼らの無事を願ってくださるなら。
**【評価】や【ブックマーク】**を、どうか彼らへの手向けとして置いていってください。
それが、暗闇を歩く彼らの唯一の光になるのですから」




