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精神崩壊~晴人の過去~

【これまでのあらすじ】

恋人の罪を背負い、罪人の島「奇渡ヶきどがしま」へ流された元ラガーマン・大神真司。

彼は奇度ヶ島七国の一つ「白狼はくろう」の幹部・阿吽あうんの猛攻を耐え抜き、さらには白狼の長・ぎんや元薬剤師のさなえが仕掛けた残酷な「毒薬ゲーム」をも自らの命を懸けて突破する。


その過程で、独露どくろの面々や隠密・KUROたちと確かな絆を築いた真司は、その覚悟を認めた銀の命を受け、島を蝕む薬物「アヘン」の供給源を絶つ任務に就くこととなった。


アヘンの出処は、島の中央に位置する国「イルーサリ」。

一か月に及ぶKUROの地獄の特訓を経て、潜入作戦を開始した一行は、道中で出会った運び屋コンビ、クリスと誠の協力や隠密・AOI、HAKUの支援を受けながら手分をしてケシの畑と工場を探す……

広大な畑の広がる農村地区を真司と晴人は、徒歩で探索していた。

「ぱっと見ケシの畑が有りそうな場所なんて見当たりませんね」  

晴人が周囲を見渡しながら言う。


「そうですね、なにかで囲っているとかでしょうがそんな所もなさそうですね」

「もしかして灯台下暗しで僕たちの拠点の側だったりして…」

「案外あるかもですね」  


そう言いながら真司たちは、自分たちの担当エリアをくまなく歩いた。

民家の庭や、小さい雑木林の中、少しでも怪しそうな所は全て探し回る。

国境近辺まで探したころには、徐々に日が赤く染まり始めていた。


「少し休みましょう」  

そう言って、小さな小川の土手に腰をおろした。  


そして晴人が夕日を見ながらぼそりと言う。

「あの日あんなことをしたのに……」

真司が晴人の顔を見るとじっと遠くを見ながら晴人が話し始めた。


「あの日はさ、いつも通りの冴えない朝だったんだ……」


……  


見もしない朝の報道番組が流れる中、晴人は、母が焼いたトーストをくわえていた。

「あんた新しい会社は、どうなの……本当に困ったもんだ…」  

テレビも母の声も雑音だらけだった。


いつも通り靴を履き、いつも通りドアを開ける。

いつもの道、いつもの電車  

そしていつもの会社……  

雑音だらけ


17時、定時間に席を立つと、雑音…

「おい、鹿嶋お前お願いした資料は出来たのか」  

無視。

「おい鹿嶋、鹿嶋!……ったく」


駅へと向かう途中行き交う人々  

ぶつかって来ても謝らない奴  

こっちが携帯見ててぶつかったのに謝ってくる奴  


変なの…。


駅前のベンチにため息をつきながら座り込む。  

眼鏡ごしに人混みを睨むように見る  

でかい声で騒ぐバカップル、居ない人の悪口が止まらないママ友たち、会社の愚痴で盛り上がるサラリーマン

段々と赤く染まって行く太陽を見てまた…ため息…  


ざわざわと街の雑音が増していく  


ざわざわざわざわ  


街の風景が揺れて見えだす  


ざわざわ


「おいお前!」


……

夕日に向かってカラスが寝床へ飛び立つ。  


変わらず遠くを見つめながら晴人が話を続ける。

「ベンチに座ってから記憶が無くて警察官に声を掛けられて気付いたら電車の中、僕は、ナイフを持っていて、目の前は、血の海」


真司は、晴人をじっと見ながら振り絞った声で言う。

「晴人さんがそんな事するなんて……」


「どうやら精神崩壊してたみたいなんだ。でも3人も見ず知らずの人を殺してしまった」


恐ろしい出来事を聞かされ手で顔を覆って深くため息をつく真司。  


晴人の頬には、涙がこぼれ落ちている。

「でもそんな事して罪を償っている今、幸せなんだよ」

涙を拭きながら話を続ける晴人。

「この島に流されてさ、圭太さんに会って、あの人あんな感じだけど分かりやすくて裏表がないじゃん」  

にっこりとした表情に変わる晴人。

「そして真司君に出会って任務を与えられて人生で初めて自分が皆の為に役に立ちたいって思えたんだ」


真司は優しい笑顔で晴人に語り掛ける。

「やってしまった事は、たしかにいけない事です。

でも、ちゃんと反省しているなら前を向いて歩く事っていけない事では、無いと思います」

そう言って晴人の肩に優しく手を回した。

再び涙を流す晴人。

「真司君ありがとう」

しばらく二人は、黙って夕日をみていた。  


そして真司が立ち上がり、

「さて、そろそろ前を向いて行きましょう」

「うん」


周辺をくまなく探した二人は、残ったアジト周辺の山の麓の林を探索することにした。  

すっかり日が落ち、辺りは暗くなってきた。  


アジトから少し離れた所にある、高い石垣の前で立ち止まる。

「う~ん、このエリアには、なさそうですね」

真司が言うと、晴人も同調する。

「確かにこれだけ探して無いならね」

「じゃ帰って報告しましょうか」


そうしてアジトに歩みを進めたが、晴人が石垣の上の家を見て立ち止まる。

「ちょっと待って、なんだかあの人の気配の無い家に違和感があるんだよね」  


そう言って足元にある小石を石垣に向けて投げた。  

小石は石垣に当たり跳ね返る。

「やっぱ僕じゃだめだ。真司君小石をあの石垣の上まで投げれるかい?」

「はい、やってみます」  


真司は不思議な顔をしながら石を拾い、数歩の助走を付け、力を込めて斜め上へと石を投げた。  

投げた石は石垣を越えて、その向こう側へと落ちて行く。  

そして石垣の向こうで、落ちる音がした。  


二人は顔を見合わせた。

「この石垣の向こうって空洞なんだ」  

晴人が言うと、二人同時に急いで石垣を登って行く。


石垣の上に手をかけ、顔を出す。  

石垣の向こうは窪地になっていて、収穫を待つ青々としたケシ畑が月明かりに照らされ揺れていた。  

下から見えた家は柱で支えられ、石垣の高さと同じ位置に建てられた見せかけの家だった。


「まさかこんな所に……」  

顔を強張らせる晴人。


「探せて良かった」  

安堵の表情の真司。


そうして二人は報告にアジトへ向かった。  

アジトにはすでに全員戻っていて、それぞれのチームが報告をしあう。


「さて、そんじゃ作戦決行は、いつにすんだ」  

クリスが言うと、

「おっしゃ~~明日の朝速攻やってやろうぜ」  

圭太がいつもの勢いで言う。

「イエーイやったろう!」  

同調する唯、これもいつものお決まりだ。  


そこに晴人が冷静に水を差す。

「待ってください。いったん僕らの国に報告する時間を下さい」  

真司も同調し、クリスと誠にお願いする。

「申し訳ないですが僕らは、国の組織として動いているのでそうさせて下さい」  


それを聞いて誠も冷静に答える。

「確かにあんた達は、国で動いてるんだもんな仕方ないぜ」  

クリスは納得いかない様子だが、

「まあ工場や畑は、逃げねえからな、分かったよ」

圭太と唯は、肩をすぼめながら

「そう言う事でお願いします」  

と頭を下げた。


「それじゃあ明日朝いちばんで白狼に戻って報告と指示を仰いで来ますので明日の夕方にここに集まるようにしましょう」  

そう真司が言って、解散することになった。


「オッケーそんじゃまた明日な、誠まだ間に合うんじゃないか」  

嬉しそうにクリスが誠に話しかける。

「おう、クリス急ごう」


「お前ら何を急いでんだ」  

圭太が聞くと誠が答える。

「決まってんじゃねえか、この島唯一の酒場だ」

「さあ行くぞ~誠~かわいい子いるといいなぁ~」  

そう言うなり、猛スピードで馬車を走らせて行った。


【機密情報:奇渡ヶ島・裏ファイル】


晴人:

「……今まで、誰にも話したことはありませんでした。あの日のこと。

雑音だらけの世界で、自分が自分でなくなっていくあの感覚。……僕は、取り返しのつかない過ちを犯しました。


でも、真司君は僕の手を振り払わなかった。

『前を向くことはいけないことではない』……その言葉に、どれだけ救われたか。

皆のために役立ちたい。この島で得た初めての感情を、僕は大切にしたいんです」


真司:

「晴人さん……。話してくれて、ありがとうございます。

過去は変えられないけれど、これからの行動で示していくことはできるはずです。

さあ、ケシ畑も見つかりました。あとは僕たちがやるべきことをやるだけです!」


KURO:(どこからともなく、冷徹な微笑みを浮かべて現れ)

「……人は、地獄を見て初めて、自分の本当の光を見つけるのかもしれませんね。

鹿嶋晴人、あなたの鋭い『違和感』には感服しました。ですが、本当の山場はここからですよ。


読者の皆様。お気づきでしょうか。

クリスさんと誠さんが意気揚々と向かった、この島唯一の『酒場』。


作者さんのメモには、**『決戦前夜、静かに浸食する影』**と記されています。


そう……実は今この瞬間、その酒場では、私の仕掛けた**『ある計画』**が静かに実行されているのです。

喧騒に紛れ、誰の心を動かし、どのような波紋を広げているのか……。


作戦決行の朝を前に、島を揺らす不穏な胎動。

真司さんの預かり知らぬところで、見えない糸が手繰り寄せられていく――。


次回、潜入作戦最終段階。

運命が激突するその瞬間を、どうぞお見逃しなく」

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