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囮のねずみ

どす~ん!


大きな音と共に埃が舞う。


「痛ってぇ~……」

翔は顔をしかめて立ち上がった。


だが、ここは敵のナンバー2がいる酒場だ。

のんびりしているわけにはいかない。


即座に状況を判断する。


KUROの教えが脳裏をよぎった。

(潜入するときには、必ず間取りを意識しなさい)


落とされたのは、どうやらバックヤードだ。

ドアが一箇所に、窓が一箇所。

場所的にドアの向こうが大内のいる酒場で、窓から出れば建物の裏手に出るはずだ。


今すぐ窓から逃げれば、簡単に脱出できる。


しかし、


今回の翔の任務は、10分間大内を店から遠ざけることだ。


考えているうちに、ドアノブに手が掛かった。

大内が勢いよくドアを開ける。


その瞬間、翔は大内に向かってダッシュした。

驚く大内を間一髪でかわし、店の中へと飛び込む。


店に入った途端、葉子がフライパンを持って翔を待ち構えていた。

翔の頭上目掛けてフライパンが振り落とされた。


不意を突かれた攻撃を、翔は紙一重で避ける。


その姿は、まさにねずみだった。

すばしっこく店内を走り、攻撃をかわしながら玄関へと突き進む。


「待ちやがれ!」

大内が背後から追ってくる。


翔は捕まるギリギリの距離を保ちながら走り抜け、そのまま玄関を蹴って外へ飛び出した。


玄関の正面には、KUROがニコニコしながら立っていた。

KUROは大内が翔を追いかけていくのを見届けると、悠々と店内に入っていく。


大内に追いつかれそうになってはスピードを上げて引き離し、翔はおおよそ5分ほど逃げ回った。

店に戻る時間を考えれば、10分稼ぐには、丁度良い距離だ


迫る大内を振り返る。

翔はバックヤードでとっさに掴んだ酒瓶一本と、ポケットにあった100銀貨2枚を投げつけると、さらに全速力で走った。


大内は投げられた酒瓶と硬貨を拾い上げると、

「ハアハア……ただのコソ泥だったのかぁ」

とぼそりと呟き、追跡を諦めて酒場へ引き返していった。


翔と大内が追いかけっこをしている頃、「花笠」の店内では、KUROが音もなくカウンターの席に座っていた。


ちょうど洗ったコップを棚に戻し、振り返った葉子の目にKUROが飛び込む。


「わっ! あんたいつの間に……。悪いけどね、もう閉店してんのよ」

「ああ、そうでしたか。扉が開いていたもので、つい入ってしまいました」

「悪かったね、また来ておくれ」


それを聞いて、KUROが席を立つ。

「そりゃあ仕方ねえや。帰るもんで」


その言葉に、葉子が即座に反応した。

「ん……あんた、その言い方、もしかして、しぞーか(静岡)かい?」

「はい。あっ、少し酔ってるもんで、つい地元の言葉が出てしまいました。

あんたも『しぞーか』なのかい?」


同郷と知り、少し嬉しそうに葉子が応じる。

「ほうだ。静岡弁なんて、久しぶりに聞いたもんで……」

そこからしばし、故郷の話で盛り上がっているところへ、大内が戻ってきた。


大内は、取り返した酒瓶と硬貨をカウンターの上に荒っぽく置く。

「ちきしょー、逃げられた。やたらすばしっこい奴だったな。

どうやらコソ泥だったみたいで、盗んだものをこっちに投げて逃げて行きやがった」


不機嫌そうに吐き捨て、そこでようやくKUROの存在に気づく。

「あ? こちらさんは?」

「ドアが開いてたって、閉店と知らんで入ってきてしまったんだと」

葉子が経緯を説明する。


「これは、何やらお取込み中に申し訳ありません。また寄らせていただきます。それでは」

KUROはそう言うと、この日はさらっとその場を去っていった。


その頃、翔は宿に着いていた。

「ハア、ハア、ハア……。まったく、なんて酷い人なんだ、ハア……」

宿の外で肩で息を整えていると、そこにHAKUとAOIが帰ってきた。


「おー、翔。どうしたんだ、息を荒げて」

AOIが声を掛けると、

「どうしたもこうしたも、聞いてくださいよ~! あの人、天井裏から突然……」

翔は事の経過とKUROの鬼ぶりをマシンガンのように訴え、ここぞとばかりに溜まっていた鬱憤を吐き出す。


「ハハハハハ! そりゃ傑作だぜ! だから言ったろう、KUROは鬼だって。洞窟の修行ぐらいで鬼だと思ってたのかよ」

AOIは、腹がよじれそうなほど笑いながら言った。

その豪快な笑いに、HAKUも珍しく微かに微笑んだ。


翌朝、AOIは真司たちの拠点に来ていた。

森の中に設営された幕舎の中。


「昨日のことをKUROに話したんだけどな、あの運び屋たちと組むのは、構わないそうだ」

それを聞いてホッとする真司だが、AOIが続ける。

「構わないが……、私たちが見張って、少しでもおかしなことがあれば『ヤレ』という指示だ」

「ヤレって、やっぱり殺すってこと……?」

昨日のことが頭から離れていない真司が、小声で言う。

「当たり前だ!」

AOIは冷たく言い放つ。


複雑な気持ちを抱えたまま、真司は黙り込むしかなかった。


その日の午後、クリスと誠が真司たちの拠点を見つけて合流した。


そして、今後の計画を練る。


HAKUとAOIは、陰から彼らのサポートをすることになった。


イルーサリの地図を広げ、ここの地理に詳しいクリスが話す。

「まずは、この国のどこにアヘン畑と工場があるかを突き止めないといけねえ。

そこで、3チームに分かれてしらみつぶしに探すのが良いかと思うが、どうだ?」


一同、その意見に賛同する。


「それで、3つのエリアに分けてみたんだ」


それを受けて、晴人が話し出す。

「では、こちらは2チームに分かれないとですね。そうなると必然的に、僕と真司さん、圭太さんと唯さんという振り分けになりますね」


「おう、唯、頑張ろうぜ! 早く終わらせてカジノ行こうぜ、ハハハ!」

「おう、おとっちゃんと私なら楽勝ミッションだわ」


圭太と唯の危機感のない雰囲気に呆れながらも、ミッションは開始されたのだった。


【機密情報:奇渡ヶ島・裏ファイル】


翔:

「……はぁ、ようやく息が整ってきました。皆様、第20話もお付き合いいただきありがとうございます。

それにしてもAOIさん、笑いすぎですよ!『傑作だ』なんて……。でも、あの無口なHAKUさんまで微かに笑っていたのを見て、ふと思ったんです。あのお二人も、昔はあんな風にKUROさんに無茶苦茶な修行をさせられてたんですかね? もしそうなら、隠密っていうのは技術より先に『精神力』が鍛えられすぎる気がします……。


KURO:(どこからともなく現れて)

「ふふふ、翔さん。過去を振り返る暇があるなら、次の任務のシミュレーションを。……ああ、皆様。静岡弁の温かさ、あの方にはよく効きましたよ。


さて、前回『この章の最後が壮絶だ』というお話をしましたが……。実は私、その前段階として、さらに作者の鬼のような計画を入手してしまいました。


次回以降の予定表を見て、流石の私も目を疑いましたよ。まさか、あの冷静な晴人くんに、あんな仕打ちをするなんて……。作者さんは、私以上に血も涙もないお方のようです。


晴人くんに一体何が起きるのか。そして、3チームに分かれた調査の行方は。

気になった方は、ぜひブックマークをして、晴人くんの無事を祈りながら待っていてください。


それでは皆様、次回。さらなる激動の展開でお会いしましょう」

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