表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/26

判決

法廷は、ひどく静かだった。


空調の音だけが、やけに大きく聞こえる。


被告席に座る大神真司は、前をまっすぐ見つめていた。


傍聴席の最後列に、麗奈の姿があった。


その肩を、幼馴染の高木春名が抱いている。




裁判官の声が、淡々と響く。


「――主文。被告人を無期懲役に処する。重犯罪者隔離法に基づき、奇渡ヶ島への送還を命ずる」


それだけだった。


拍子抜けするほど、あっさりと。


 


判決の瞬間、麗奈は、春名にしがみつき泣き崩れた。


真司は、ただ前を向いたまま、振り返らなかった。



 


「着ている物を全部脱げ」


淡々と告げる看守は、目も合わせない。


命令口調ですらなく、ただの事務作業のようだった。


「……裸になれってことですか」


返事はない。




服を床に置いた瞬間、急に寒くなった。


裸で立っている自分を、誰も人として見ていない。


 


護送車の中は、異様な匂いがした。


汗と恐怖と、何か腐ったような臭い。


冷たく暗い車内。


裸のままただ一人うずくまっていた。


 


途中で車の揺れ方が変わり、フェリーに乗ったことが分かった。


――もう、戻れない……。




鉄のベッドが小さく揺れていた。


波の音が、遠くでずっと鳴っている。




うずくまりただ目を閉じていると自然と麗奈さんの事を考えてしまう……。




あの日は、3月だというのに街には冷たい北風が吹いていた。


さりげなく立ち寄った小さな居酒屋


そこで初めて麗奈さんと話した。




居酒屋に入ると、すぐに麗奈さんに気付いた。


だがその時は、話したこともない同じ会社の事務員。


特に気にも留めず、一人カウンターに座った。




いかにも元ヤン風の、威勢のいい女と、麗奈さん。


二人は、こじんまりとしたテーブルに座っていた。




「おーい、お前こっち来いよ」


後ろのテーブル席から聞こえる


「お前だよ、なんだっけ真司っつたか、お前を呼んでるんだよ」


突然の呼びかけに戸惑いながら振り返るとさっきの威勢の良い女が俺を呼んでいる。




女は二人掛けの小さいテーブルに椅子を一つ引き寄せ、


半ば強引に俺をそこへ押し込んだ。


いつもクールな印象の麗奈さんがその様子を笑いながら見ている。




「お前なぁ、こんなに仕事のできる美人OLの麗奈が居るのに、しれ~っと挨拶もなく黙~って離れた席に座ってんだぁ」


絡むように女が話す。




俺が返答に困っていると


「ほら、真司君困ってんじゃない。やめなよ春名」


麗奈さんが助け船を出してくれた。




「ったく麗奈は、優しいんだからなぁ」


「そうそう私は、春名、高木春名、麗奈とは小学校からの幼馴染なんだ」




三人で乾杯した後は、高木春名の独壇場。


しかし、春名の話を楽しそうに聞く麗奈さんの笑顔。


会社では、見たことのない明るい表情に少しずつ心が奪われていくのが分かった。




ああ、もう会えないんだ……。


後悔しても仕方ない思いが頭の中を延々とめぐる。




いったい何日過ぎているのだろう。


食事の時間も、昼か夜かも、もう分からなくなっていた時だった。


フェリーの揺れが止まった。




奇渡ヶ島へ着くと、放り出されるように車から降ろされた。


瞬間、足元の砂が冷たい。


「……さむ」


真司は体を丸めながら、周囲を見渡した。




思ったより、普通の島だ。


ただ、周囲を囲う高い壁の上から、自衛隊員たちが銃を構え、冷たい目でこちらを見下ろしている。


その光景だけが、ここが“ただの島ではない”と無言で告げていた。


 


どこへ行けばいいのかも分からない。


とにかく歩き出そうとした。


その時。




「おーい、そこのあんちゃん」


振り返ると、若い女が立っていた。


肩までの髪、軽そうな笑顔。




「新入りだ。ラッキー。自由の世界にようこそ~」


満点の笑顔で言う。


「……自由?」


「そっ。ここはフリーダムよ。


私、長嶋唯。よろしく、元・人間さん」


 


真司の体を一瞥して、にやっと笑う。


「仲間のとこ、案内したげる。


どうせ行く当てなんて無いでしょ? 服も着たいだろうし」


 


慌てて前を隠す真司を見て、唯は声を出して笑った。


「ははは、ほらほら」


有無も言わさず腕を引っ張る。


 


宛てもない。


どうしていいのかも分からない。


この怪しげな女についていく以外の選択肢を、真司は考える暇もなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ