判決
瓶を奪い取った真司は、すぐさま全員から距離をとった。
「銀さん、僕が圭太さんの代わりに飲んで独露の皆さんを助けてくれますね」
「ふん!だから勝手にしろと言っただろ」
銀は、不機嫌そうに、そして心底面倒くさそうに答えた。
「あ~あ、何だかつまらない展開になっちゃったわ。
こんな茶番劇見てても面白くないから私、寝るわね」
そう言って銀の肩をポンと叩いてさなえが歩き出す。
銀は、見向きもせず肘をついたまま鋭い目つきで全体を見ている。
「おいおい、ずいぶんと身勝手じゃねえか、この毒蛇女!」
口を開いたのはAOIだった。
「はあ!うるさいわねこの野蛮娘、あんたも早く寝ないとその汚い肌が言葉遣いと一緒で、どんどん酷くなるわよ。ウフフフ」
そう言ってツカツカと出て行こうとするさなえに、AOIが言い返そうとした瞬間……。
「AOIさん任務中ですよ。心を乱してはいけません」
KUROが冷徹に釘を刺す。その声には一切の感情も乗っていない。
さなえは、ざまみろとばかりにAOIに舌を出して広間から出て行った。
つい先ほどまで苛立ちを隠せなかったAOIだが今度は、眉一つ動かさずに任務に集中している。
AOIとさなえの言い合いが、緊迫した空気を一瞬だけ弛ませた。
その隙を突き、HAKUが真司の手から瓶を奪い返すと、再び圭太の口元へ突きつけた。
「やっぱりこれでいいんだ。真司、お前より俺が飲むべきだぜ。ハハハ!」
圭太の顔が、死を覚悟した男のそれへと引き締まる。
だが――
「待て、HAKU。……やはり、そいつに飲んでもらおう」
銀が、真司を指さした。
口元に、かすかな笑みが浮かぶ。
指名された真司は、静かに前へ進み出る。
瓶を受け取ると、足元で拘束されている圭太の前に跪き、優しく語りかけた。
「圭太さん。出会ってからの数日間、とても楽しかったです。
短い時間でしたが……僕には、独露を率いるあなたが、とても輝いて見えました。
だから、自信を持ってください」
圭太の目から、堰を切ったように涙が溢れ出す。
真司は晴人、翔、そして唯を見渡す。
「皆さんも、右も左も分からない僕に色々教えてくださって、ありがとうございました」
独露のメンバーも一斉に泣き崩れた。
真司は立ち上がる。
決意を宿した目で瓶を口元へ運び――
一気に飲み干す。
……静寂。
何も、起きない。
「え……?」
きょとんとする真司。
呆然とする独露たち。
数秒の沈黙ののち、銀が吐き捨てた。
「ただの水だ」
「……え?」
「本当に、悪趣味な女だ」
真司が震える声で問う。
「知って……いたんですか?」
銀はAOIへ視線を送る。
AOIは、こくりと頷いた。
「あの、どくへ……いや、さなえが……てめえの……いや、その……」
歯切れの悪い言葉に、KUROが静かに割って入る。
「銀様。AOIさんに、ご自身の言葉での発言をお許しいただけますでしょうか」
銀が口角を上げ、頷く。
AOIは一度息を吸い、いつもの荒い口調に戻った。
「あの毒蛇女が、自分の毒で死ぬ奴を拝まずに帰るわけねえんだ。……あいつは、そういう女だ」
「そういうことだ」
銀は短く返すと、再びこめかみを叩き始めた。
トン……。
指が止まる。
阿吽へ視線を送る。
「阿吽。お前らは下がれ」
指示を受けた阿吽は、黙って歩きだした。
去り際に銀が声を掛ける。
「阿形、吽形。お前らは良くやった。十分に休め」
一瞬だけ足が止まる。だが振り返らず、広間を後にした。
銀は次にKUROを見る。
「KURO、任せた」
そう言うと深く椅子に沈み、腕を組み口を閉じた。
「御意。では皆さん、そこへ並んでお座りください」
そう言って、高壇の前に真司と独露の4人を座らせる。
KUROは、高壇の前に立ち話し出した。
「それでは。銀様より、貴方たちの処遇の任を仰せつかりました」
そう言うと、腕を組み薄く目を閉じ考え出すKURO。
圭太、晴人、翔は目を潤ませ息を呑む。
覚悟を決めて真っ直ぐ見つめる真司。
無表情の唯。
暫くの沈黙……
そして――
「やはり、全員処刑ですね」
KUROがさらりと言い渡すと、銀が口角を上げてニヤリと笑う。
目を潤ませていた3人から涙が溢れ出し、ガックリと肩を落とす。
変わらず真っ直ぐ見つめる真司と、無表情な唯。
「フッ、冗談です。我ながら人が悪いですね」
「それでは真司さん。貴方は、この白狼の客人として暫くお過ごしいただきましょう」
そう言うと、銀に目をやり意向を確認。
銀は、そっと頷く。
「そして、独露の面々ですが……」
「貴方たちは真司さんに仕える形で、真っ直ぐで危ない彼をお守りください」
唖然とする独露と真司をよそに、KUROは続ける。
「ただし、今のままでは逆に真司さんの足手まといになってしまいます。
なので、しばらくは私の配下にて修行です」
安堵の表情の独露たちを見て、KUROは釘を刺す。
「もっとも、私の修行なら死んだ方が楽かもしれませんがね」
と、AOIを見て発言を求める。
「あんた達、KUROを甘く見ない方がいいぜ。優しい顔の裏側はマジでやべーからな。あー怖えぇ怖えぇ、ハハハ!」
それを聞いて、また涙が滲む圭太と晴人と翔。
KUROは振り向き、銀を見上げて跪く。
「いかがでしょうか、銀様」
「流石だKURO。では、今度の作戦からそいつらを連れて行け」
「御意」
【機密情報:奇渡ヶ島・裏ファイル】
さなえ:
「あら、皆様ごきげんよう。……ふふ、あんな茶番劇、最後まで見ていられないわ。私は一足お先に失礼して、自分のお部屋でゆっくりさせてもらうわね。あ、飲み物には気をつけるのよ? さよなら。
……あらやだ、もう。向こうから騒がしいのが来てしまったわ……」
AOI:(足音荒く詰め寄る音)
「おい待て! 逃げるんじゃねえぞ毒蛇女! てめえ、あんなふざけた真似しやがって……! ――今はもう任務外だからな。覚悟しろよ、そのニヤケ面を叩き切ってやる!」
KURO:(ため息混じりの、穏やかな声)
「AOIさん、落ち着いてください。野蛮な振る舞いは淑女にふさわしくありませんよ。さなえさんも、あまり彼女を刺激するのはお控えくださいね 」
皆様、お騒がせいたしました。KUROでございます。
真司さんと独露への処遇、そして『ただの水』という結末……。さなえさんらしい、少々悪趣味な幕引きでしたね 。
さて、皆様。お二人が揉めている隙に、作者さんの端末から次回の計画書を拝見して参りました。
そこには**『白狼の領土を狙う卑劣な影』**という不穏な文字が。
次回からは、銀様の天才軍師としての**『智謀』、そして僭越ながら私の『調略テクニック』**の全容をお見せすることになりそうです。
卑劣な敵を、私たちがどう料理していくのか……。
ご興味をお持ちいただけましたら、下の星(評価)を一つ、私の『活動資金』として頂戴できませんでしょうか。
それでは皆様。またお会いしましょう」




