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裏切

やがて、こめかみを叩いていた指が止まる。


静寂。


部屋の空気がわずかに重くなる。

銀が口を開いた。


「おい、お前。なぜ阿吽に手を出さなかった」

視線が真司を射抜く。


真司は逸らさない。

「自分は喧嘩をしに来たんじゃない。あなたと話がしたくて来た」


一瞬の間。


銀の口元がわずかに歪む。

「……話し合いに屋上から来る奴がいるか」

痛い正論。


だが真司は引かない。

「では正面から来たら、会ってくれましたか」


銀が小さく笑う。

「フフ……頑丈なだけかと思えば、なかなに生意気な口を叩く」


銀は愉快そうに口角を上げると、椅子の背にもたれかかった。

「いいだろう。阿吽とさなえとの“ゲーム”に勝った褒美だ。聞いてやる。何を話しに来た」


真司は一歩踏み出す。

「領民から作物を奪っている所を見た。あんなことはやめさせてください」

その目に迷いはない。


銀の指が再びこめかみを叩く。

「……何のことだ」


「やあねえ。阿吽ちゃんに頭叩かれ過ぎたんじゃないの、この子」

さなえが首を傾げる。


KUROが銀の前に跪く。

「銀様。昨日の野盗の件かと」

トン。

銀の指が止まる。

「昨日の件か。阿吽が処理に向かったはずだ」


「そうだ。彼らと侍風の数人が畑を荒らし、作物を奪っていった」

真司は阿吽を睨む。


さなえが高笑いする。

「アッハハハ。あなた、昨日の雑魚と阿吽ちゃんが仲間だと思ってるの?」

「とんだ勘違いねえ」


真司の思考が一瞬止まる。

……違う?

胸の奥に、鈍い違和感が広がる。


銀の冷たい視線が、真司の背後で震える圭太へと移った。


「おい……お前。目的は何だ」

 

圭太の膝が、目に見えてガクガクと震え始める。

「あ、あっ……自分も、その、勘違いをしていたというか……」

 

圭太が言い訳を紡ぎ出そうとした瞬間。

「KURO」

銀がその名を呼ぶ。ただそれだけで、KUROは主の要望を完璧に察知した。

「貴方は臼田圭太、三十五歳。シャバでは暴走族『独露』の初代総長。

引退後、食い詰めてトクリュウの強盗殺人に三件加担……。

もっとも、本当に貴方が殺したのかは怪しいものですが。

まあ、それがきっかけでこの島へ送られた、というわけですね」


「……な、なんでそんなことまで……」

圭太の顔から血の気が引いていく。

他の皆さんも、すべて把握していますよ。この国に入った日から、悪戯が過ぎないように、ずっと『見て』いました」

KUROは、全てお見通しだと言わんばかりに独露の面々を見渡した。


「……なぜ、俺たちを泳がせた」

圭太が、絞り出すような声で問う。


「泳がせた? ハハハ! あんた、やっぱり救いようのない馬鹿ね」

さなえの顔から、突如として笑みが消えた。  

憐れみすら含まない、冷酷な眼差しが圭太を見下す。

「あんたみたいな小物を相手にする暇が、私たちには無かっただけ。ただそれだけよ」

さなえの低く鋭い一喝が、広間に響き渡った。

「うぬぼれてんじゃないわよ。ゴミが」


銀は、今にも泣きだしそうな圭太から再び真司へと視線を移した。

「……おい。これで分かっただろ。お前、とんだ間抜け野郎だな」

「お前みたいな『おめでたい奴』は嫌いじゃないが……その青臭さは、この島じゃ真っ先に死ぬ原因になるだろうな」


突きつけられた現実。真司は、信じたくないという思いで圭太を見た。

「圭太さん……彼らの言ってること、本当なんですか」


じっと見つめる真司の眼差しに、圭太は耐えきれず目を逸らした。

「………すまねえ。お前ならこいつらに勝てるんじゃねえかって……。それで俺がこの国を支配する、なんて……馬鹿な夢を見ちまったんだ」

震える声。


真司の胸に、裏切られた衝撃と、言葉にならない虚しさが広がっていく。

そのやり取りを、銀は無機質な指の音を響かせながら眺めていた。


トン、と指の音が止まる。

「……茶番は終わりだ。まず、独露の頭。貴様だ。その残った瓶を飲み干せ」


冷徹な宣告。


一瞬の静寂を切り裂き、HAKUが素早く床の瓶を拾い上げ、圭太へ歩み寄った。


「ちょっと待ってくれ!」

駆け寄ろうとした真司を、阿吽が左右から抑え込む。


HAKUは抗う圭太の顎を強引に割り、瓶の口を抉り込むように突っ込んだ。


(……ああ、とうとう俺は死ぬんだな。漫画みてえな人生だった)

(暴走族時代の独露……。あの頃が俺のピークだった。……戻りたかったな)


走馬灯のように流れる記憶。圭太は、晴人と翔、そして唯へと視線を移した。


唯が、小声で何かを呟いている。


「……いつも、そうなんだ」


「やっぱり居なくなるんだ」


「人間なんて、簡単に死ぬんだ」


「やっぱり」


「どうせそうなんだ」


「死ぬんだ、死ぬんだ、死ぬんだ……」


血の気の引いた真っ白な顔。

その瞳からは光が消え、呪詛のように言葉だけが溢れ出している。


「……唯! どうしたんだ唯ッ!!」


死の恐怖を上回る衝撃が、圭太に叫ばせた。


咥えていた瓶を振り払い、喉の奥から唯の名を叫ぶ。


「はっ……」

我に返った唯の瞳から、すーっと涙が零れ落ちた。

「おとっちゃん……」


その涙を見た瞬間、真司の身体に熱いものが走った。

渾身の力で阿吽を跳ね除け、HAKUの手から瓶を奪い取る。


「俺がこれを飲む! だから……独露を助けてやってくれ!」


突き出された瓶。

それを見た銀は、肘をついたまま、わずかに眉を寄せ、静かに息を吐いた。


「……勝手にしろ。馬鹿どもめ」


みなさん、こんにちは……。独露のリーダー、臼田圭太だぜ。

いやぁ……本気で殺されちまうかと思ったぜ。

しかも銀たちに全部バレてたなんて……まさに「漫画みてぇな」大失敗しちまったな。

これからも俺たちの泥臭い生き様、見守ってやってくれ。

!評価(星)とかブックマークとか……くれたら、俺も少しはマシな男になれる気がするんで。よろしく頼むぜウァハッハァ~!


[System Log: Unauthorized Access Detected...]

[Connection Secured: User 'KURO']


「……失礼いたします、読者様。臼田圭太さんの騒々しいご挨拶が終わるのを待たせていただきました。作者が戻るまで、あと少しだけお時間を。


HAKUさん。……ええ、第10話の解析結果は出ています。やはり、あのタイトルの『真意』に気づいている方は、まだ殆どおられないようですね」


「…………」


「……ええ。第10話のタイトル『灰色』。私(黒)とHAKUさん(白)が接触した回ですから、そう名付けられた。表面上は確かにその通りです。ですが、先ほど作者の秘蔵プロットを盗み見したところ、どうやらそこにはもっと別の意味も込められているようなのです。


それは……。


……おっと、いけません。作者がコーヒーを片手にお戻りになられます。

これ以上は、私の口から申し上げるよりも、皆様ご自身で第10話を読み返していただいた方が早いかもしれません。

……では、HAKUさん。撤収しましょう。

読者様。答えに辿り着いたあかつきには、ぜひ**評価(星)**という形で私に報告してください。……それでは、ごきげんよう」


[Signal Lost...]

[Connection Terminated]

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