選択
広間のドアが開く。
現れたのは、さなえだ。
KUROは、扉に寄りかかり斜に構えながら様子をうかがう。
さなえがカツン、カツンと足音を響かせながら、ゆっくりと室内に入って来て辺りを見渡した。
部屋の中に不穏な雰囲気が漂う。
「あら、阿吽ちゃんがこんな姿になるなんて」
「フフ、犯人はあなたね。派手に暴れたものね」
さなえは真司に近づき、その顔を覗き込むようにしてじっと見つめた。
「おい唯、あんな奴知ってるか?」
圭太が小声で尋ねる。
「……誰だろね」
唯も知らない様子だ。
「阿吽もあんなだし、もしかして人質に出来るんじゃないか……」
ひそひそと話していた圭太の後ろに、すっとKUROが現れた。
「ほんとうに、あなたって方は……」
KUROは呆れたような声を漏らすと、瞬く間に圭太と唯を拘束した。
「KUROちゃん、ありがとね」
さなえは圭太と唯を見下しながら、
「貴方たちには、とびきり苦いお薬を飲ませてあげるから待っててね」
と言ってウインクを飛ばす。
「さぁ~て、私は吉柳さなえよ。よろしくね。元薬剤師で、お薬に詳しいの。
そんな私がこの島に居る理由……想像つくかしら?」
真司の周りを、まるで魔女のような不気味な笑みを浮かべ、コツコツと歩きながら話す。
「私ね、この島が気に入ってるの。興味深いお花やキノコ、それに蛇さんなんかもいて……」
ニャっと笑いながら真司の顔に近づくと、
「おいしいお薬、たくさん作れるんですもの」
そう言ってポケットから小瓶を二つ出し、真司に見せた。
コトン、コトンと、真司の前にその小瓶を置く。
「さあ~て、この二つの瓶。一つはとっても怖―いお薬で、もう一つは単なるお水よ。どちらか一つをあなたにあげるわ」
「お水だったら、銀ちゃんを呼んできてあげる」
「もちろん……」
さなえは声を低く沈ませた。
「お薬の方なら……」
真司の背筋が凍る。
生への執着か、あるいは死への恐怖か。
真司の身体は意思に反して、小刻みな震えを止められない。
さなえは、その震えを愉しむように不気味な笑みを深め、追い打ちをかける。
「とある資産家はね、私の目の前で痙攣して泡を吹いてね……。呼吸が止まるまで、本当に苦しそうに『さよなら』していったわ」
「政治家に医者、調子に乗ったお金持ちたちが、みんな無様にバイバイしていったのよ」
悪戯に、そして残酷に真司の恐怖心を煽るさなえ。
「あ、もし嫌だったらお帰りあそばしてもいいのよ? ハハハ!」
「……まったく悪趣味なこと。貴方と味方で良かったです」
背後でKUROが、呆れたように、ぼそりと呟いた。
二つの瓶を見つめたまま、凍りついたように動けない真司。
広間に、重苦しい静寂と緊張が満ちる。
そこへ、HAKUとAOIが、縄で縛り上げた晴人と翔を連れて現れた。
二人は広間のただならぬ状況に、鋭く眉をひそめる。
「真司君!」
ボロボロになった真司の姿を見て、晴人と翔が同時に叫んだ。
真司が、弾かれたように二人を振り返る。
晴人さん、翔さん……!
気がつけば、独露のメンバーは全員が拘束されていた。
その惨状を目にした瞬間、真司の身体から震えが消えた。
恐怖を塗りつぶすような、鮮烈な「覚悟」が瞳に宿る。
真司の前に並ぶ、二つの瓶。 右か、左か。
静まり返った広間で、真司の脳裏に激しい試合の記憶がフラッシュバックした。
目前に迫る、巨大な壁のようなディフェンス。 右にステップを踏むか、左に切るか。
迷えば、その瞬間に潰される。
あの時、思考よりも先に身体が選んだ「あの感覚」を、真司は呼び覚ました。
迷いと、死の恐怖を断ち切る。
真司は迷いなく右の瓶を手に取ると、そのまま一気に飲み干した。
静まり返る、室内――。
真司に全員の注目が集まる。
彼は周囲を見渡した後、汗でびっしょりと濡れた両方の手のひらを見つめた。
指を動かしてみる……。
何ともない。
深く呼吸をしてみる……。
大丈夫だ。
真司は大きく息を吐き出した。
「ふぅ……っ、よかった……」
そう漏らすと同時に全身の力が抜け、その場にうなだれる。
「うおぉぉ! 真司、よかった! 本当によかったぁ!」
圭太が目に涙を浮かべながら叫ぶ。
対照的に、唯はなぜか死んだような目で、ただ静かに状況を凝視していた。
「あらあら、運が良いのねぇ。ちょっと残念」
さなえが唇を尖らせてそう言うと、背後から重厚な足音が迫った。
冷たい空気――。
刃物のような鋭い恐怖感が、一瞬で広間を包み込む。
銀だ。
銀はゆっくりと王座に腰を下ろした。
さなえが傍らに寄り添い、これまでの経緯を報告する。
それを聞き、銀は冷たく口角を上げた。
銀が身を乗り出し、さなえにだけ聞こえる小声で囁く。
「……あの瓶、本当に毒入りなのか」
さなえは銀の瞳を覗き込み、ニャっといたずらに笑った。
「さぁね。銀ちゃん、試してみる?」
「フッ……まったく、悪趣味な女だな」
「へへへ……」
銀は静かに、真司と独露のメンバーに目を移した。
刺すような冷たい視線が、彼らを射抜く。
「さて。お前ら、こんな時間に俺の城で、よくも好き放題やってくれたもんだな」
銀は肘をつくと、人差し指でこめかみを叩き始めた。
トントントン……。
再び静まり返った室内に、その無機質な音だけが、時を刻むように響き渡った。
みなさん、こんにちは。大神真司です。
今回は……正直、生きた心地がしませんでした。さなえさんのあの笑顔、本当に怖かったです。でも、晴人さんや翔さんの顔を見た瞬間、迷いが消えました。仲間がいてくれるって、あんなに心強いものなんですね。
今は全身の力が抜けちゃってますけど、銀さんが出てきた以上、ここからが本当の正念場だと思ってます。島での生活は過酷ですが、僕は絶対に諦めません。次の話からも全力でぶつかっていくので、もしよければ**「評価(星)」やブックマーク**で応援してもらえると嬉しいです!皆さんの応援が、僕の力になります。よろしくお願いします!
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「……失礼いたします、読者様。真司さんのご挨拶が終わるのを待たせていただきました。作者がちょうど席を外しましたので、少しばかり回線を拝借いたします。
読者様。先ほど真司さんが口にした瓶ですが……ふふ、あの方が無事で本当によかったですね。ですが、さなえさんという女性は、あのように無意味な博劇を好む方ではありません。その『真意』がどこにあるのか……それを知るには、もう少し先を読み進めていただく必要がありそうです。
……おや、作者のPCに『独露の隠し事』という興味深い記録が残っていますね。これは私たちが以前掴んだ、圭太さんや唯さんの『過去の嘘』と一致するようです。……どうやら次のエピソードでは、彼らが必死に隠してきたその裏側が、ついに露呈してしまうようですね。
……困りましたね。もし読者様からの**『評価(星)』**という形での支援が届かなければ、私はこの不吉な記録を、作者が戻る前に消去してしまわなければなりません。真司さんの物語がここで途絶えてしまうのは、非常に惜しいことですが……。
……おっと、足音が聞こえます。作者が戻ってきたようなので撤収致します。読者様、また次の通信でお会いできるのを楽しみにしております。……それでは、ごきげんよう」
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