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攻防

「ズドォォーンッ!!!」


阿形の豪腕が振り下ろされた。

それを見守る圭太と唯の表情が強張る。


前回、真司は凄まじい圧に呑まれ、不意を突かれて直撃を許した。

意識を失いかけるほどの衝撃――。


だが、今の真司は違った。


迫りくる一撃を冷静に見極め、頭上で両腕をクロスさせて受け止める。

ズン、と腕から足元まで凄まじい衝撃が突き抜けた。

真司は奥歯を噛み締め踏みとどまる。


阿形は止まらない。

追い打ちをかけるように、左拳が真司の頬めがけて斜め上から襲いかかる。

真司はクロスしていた右腕を瞬時に下ろし的確にガード。


さらに、その左拳を引く反動を利用した右の正拳が、真司の鼻腔を狙って真っ向から突き出された。


「……っ!」

両腕を顔の前に集め、ガッチリとガードを固める真司。


しかし


そのガードごと、真司の体は後方へ吹き飛ばされた。

何とか踏み止まるが、阿形の猛攻は嵐のように続く。


次々に放たれる拳、拳、拳。


防戦一方、必死にガードを固めて耐え忍ぶ真司の姿に、圭太と唯が叫ぶ。

「何してんのさ!やり返しなよ、真司!」

「そうだ、やられっぱなしじゃねえか!行けっ!」

その時、じっと静観していた吽形うんぎょうが、鋭い眼光で二人を睨みつけた。

「……っ!?」

あまりの威圧感に、二人は言葉を失い、そそくさと物陰へと身を潜める。


阿形に前回の雪辱を果たさせるつもりなのか、吽形は眉一つ動かさず、相棒の猛攻を見つめ続けていた。


攻撃の激しさが増していく。


ついに阿形が、その巨大な右拳を天高く振り上げた。

全身の筋力を一点に集中させ、渾身の力で振り下ろす。


――ドスンッ!


真司が再び両腕でそれを受け止めた、

その瞬間。

阿形の表情が、苦悶に歪んだ。


ぴたり、と攻撃が止まる。


阿形が力なく右腕をだらりと下げた。

丸太のように太いその腕が、不自然に膨れ上がっている。


「ありゃ……骨でもいったのか?」

圭太が息を呑む。


その異変を察した吽形が、ゆっくりとした足取りで真司の前へと歩み出た。

阿形の猛攻が止まったのも束の間、息をつく暇など与えられない。

今度は吽形が、慈悲なき追撃を開始した。


「ズドンッ! ズドンッ!」

それは拳というより、鉄槌だった。


真司のガードなどお構いなく、その腕ごと粉砕せんとする勢いで重たい衝撃が叩きつけられる。

真司の腕はみるみるうちに赤黒く腫れ上がり、疲労とダメージで、鉄のようだったガードがじりじりと下がり始めた。


物陰でそれを見守る圭太が、絶望に声を震わせる。

「……こりゃ、もうダメか……?」

「ありゃあ。ホント、厳しいかもねぇ」

唯は、他人事のように、危機感の薄い声を漏らした。


「ズバァァーンッ!」


ついに吽形の拳がガードを割って真司を捉えた。

衝撃で数メートル吹き飛ぶ真司。


だが、倒れない。

膝をつきそうになりながらも、必死に耐えた。


さらに猛攻は止まない。

真司は、ガードを越えてくる拳の軌道に合わせ、首や体を振って衝撃を「いなす」動作を混ぜ始めた。


必死の防戦が続く中、異変は攻めている側にも現れた。


「ハァ……ハァ、ハァ……ッ」

吽形の肩が大きく上下し、あんなに鋭かった眼光が混濁し始める。

それでもなお、猛攻の手を休める様子は微塵もない。


真司もまた、限界の淵にいた。

ただ「当たる瞬間に力を逃がす」ことだけに全神経を研ぎ澄ます。


打つ者と、耐える者。

次第に、吽形の腕から鋭さが消え、放たれる拳から力が抜けていく。


一体、どれほどの時間を殴り合いに費やしたのか。

一体、何百、何千の拳を受け止めてきたのか。


もはや理屈ではない。

二人はただ、己の本能と気力だけで、その場に立ち続けていた。


混濁する意識の底で、真司は大学時代の監督の声を思い出していた。

(お前は、優しすぎるんだ……)

何度も、呪文のように言われ続けた言葉。


かつて同じポジションを争ったライバルは、今や全日本代表のエースにまで上り詰めた。

結局、一度も彼からレギュラーを奪うことはできなかった。


選考に落ちるたび、監督は苦渋に満ちた顔で告げた。

「その優しさが、時にはチームを窮地に追い込む。勝つため、仲間のために、その優しさを捨てろ」

だが、自分にはそれができなかった。


今も、そうだ……。

(……殴り返す?)

( ……違う)

この猛攻を、真っ向から受け止めて耐え抜く。

それが「本当の強さ」のはずだ。


(耐えてやる。俺は、絶対に折れない!)


研ぎ澄まされた精神が、闇に落ちかけた意識を強引に引き戻す。

真司はカッと目を見開き、吽形を真っ向から睨み据えた。


「パスンッ……」

乾いた音を立てて、吽形の拳が力なく真司の胸に触れた。

力は、もう残っていなかった。

ついに限界を迎えた吽形の猛攻が、止まった。


「ハァ……ハァ……ッ!」

肩で激しく息を乱しながら、二人は糸が切れたように同時に膝を突いた。

静寂が訪れた、その時だった。


コツ、コツ、コツ――。

静まり返った部屋に、扉の向こうから近づいてくる足音が響く


「KUROちゃん、開けてちょうだい」


そしてゆっくりと、扉が開かれた。


「ご愛読ありがとうございます。

大神真司の『絶対に殺さない』という信念が、この狂った島でどう試されるのか。いよいよ物語の歯車が大きく動き出します。

もし面白い、続きが気になると思ってくださったら、

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