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潜入

月が刻一刻と真上へと迫る。

ホウ、ホウとフクロウの鳴き声が静かに夜に溶けた。


月明かりの中、影を潜める真司と独露。

「晴人、お前その足じゃ中に行くのは無理だな」


晴人の足を見ながら眉間にしわを寄せる圭太。

「すいません」

申し訳なさそうに晴人がうつむく。


「この大一番に怪我なんてまったく」

張り詰めた緊張の裏返しか、圭太は珍しく突き放すような口調で言い放った。

「まあ仕方ない翔といっしょにここで見張りしてろ」

晴人は黙って頷いた。


城の屋上を見ながら、晴人がぽつりと口を開く。

「ところで圭太さん、城の屋上に誰も居ないってなんか変じゃないですか?」


「う~ん」


圭太は腕を組み考え込む。


「相手もこんな時間に屋上から攻めるなんて考えて無いんじゃねえか、俺様の作戦勝ちってところだろなハハハッ」

自慢げに小さく笑う。


(確かに変だ)

真司の胸に、言いようのない違和感が広がる。

しかし、たとえこれが罠だとしても、突き進む以外に道はないと真司は、覚悟を決める。

________________________________________

およそ五十メートル離れた風下。

HAKUとAOIが身を伏せ、様子を窺っていた。

かすかに会話が届く。


圭太の能天気な言葉に、AOIは呆れたように肩をすぼめ、両手を上げて「お手上げだ」とばかりに首を振る。


それに対し、HAKUは無表情のまま、指先を鋭く、かつ複雑に動かした。

それを受けたAOIの表情から、瞬時に余裕が消える。


もちろん、銀が屋上の警備を怠るはずもなかった。


そこには、ただ一人、KUROが身を潜めている。

月明かりに照らされた石壁や、夜風に揺れる影のひとつひとつに、彼は完全に同化している。


「よし、そろそろだな」

月の位置を見ていた圭太が合図を送る。


白狼城の裏山。

急斜面を下れば屋上へ出る。


月が昇るまでの間に仕込んだ蔓のロープ。

三人は無言でそれを伝い、闇の中を滑り降りていく。


その様子を、屋上の縁から見ている影があった。

(……大胆ですね)

KUROは動かない。


ロープの軋み。

足場の砂利の転がる音。

呼吸の乱れ。

(素人の予測不能な動きほど、厄介なものです。……油断はできません)

五感を研ぎ澄ませ、すべての違和感を拾い上げながら、KUROはさらに警戒を深く沈めていく。


やがて三人は屋上に降り立った。

静まり返る石床。


風だけが抜ける。

吹き抜ける夜風以外、何も聞こえない。

周囲をどれほど見渡しても、兵の気配ひとつなかった。


________________________________________

唯が小声で囁く。

「本当に誰も居ないね。簡単に銀に会えるんじゃない」


「そうだな、やっぱり俺の作戦すげーだろ」

圭太が自慢げに胸を張る。


「でも、しっかり警戒していきましょう」

真司が低く釘を刺す。


闇の中で、KUROは僅かに目を細める。

(あの小さい方が居ないのは、こちらもやり易い……たまたまですがHAKUさんのお手柄ですね)

気配を殺したまま、距離を保つ。

________________________________________

屋上から階段を下る。

長い廊下。

突き当たりに扉が一つ。


「あそこに行くしかなさそうだな」

圭太が進む。


「おい真司、今回の目的は銀に会うことだ。万が一先に阿吽と会っちまったら迷わず逃げるぞ」

真司は真剣な表情で頷き、慎重に扉へと手をかけた。


真司がそっと開ける。

──そこには、激しい威圧感を放ち、仁王立ちする阿吽の姿があった。


「うあ!」

圭太の声。


三人が反射的に振り返る。


そこに立っていたのは——


ニヤリと冷たく笑うKURO。

「ようこそ、白狼城へ」


次の瞬間。


KUROは向かってくる圭太の腕を掴むのではなく、指先でその重心をわずかに「いなした」。

驚いて踏ん張ろうとする圭太の足元から力を奪い、円を描くような滑らかな動きで、その体を扉の内側へと流し込む。


続く真司と唯に対しても、KUROは抗うことはしなかった。

彼らが体勢を立て直そうと踏み込んだ力の方向を、ほんの一撫でするような手捌きで変えてみせる。

まるで自ら吸い込まれるように、三人は面白いほど容易に、阿吽が待ち構える部屋へ流し込まれた。


乾いた音。

扉に棒が差し込まれる。

外から封鎖。


「さて。これで私の仕事が終わってくれると良いのですが」

KUROは静かに廊下の壁に手をかける。

板を外す。

隠されていた扉が現れ、さらに奥へと続く通路が姿を見せた。


部屋の中、仁王立ちの阿吽の二人が、巨大な壁のごとく立ちはだかり無言で睨みを利かせている。

空気が、重い。


圭太は即座に唯の手を掴み、物陰へと滑り込んだ。


だが、逃げ場はない事を悟った真司は、動かない。


阿吽の睨みを真正面から受け止める。


こめかみから流れた冷たい汗が、顎を伝い、ぽた、ぽた……と床に落ちた。


じり、じり……と、


阿吽が少しずつ距離を詰める。


ギシ、ギシ……

床板が軋む音だけが響く。


それでも真司は一歩も下がらない。


「真司……お前なら、阿吽を倒せるかもしれないぞ」

物陰から、圭太の震える声が響く。完全に他力本願なその言葉に、


「うん、そうだよ! やっちゃえ、真司ぃ……行けぇ!」

唯の声も続く。


真司は小さく息を吐く。


最初に動いたのは阿形。


床を踏み割らんばかりの踏み込み。


振り上げられた太い腕が、空気をも裂く。


回避不能な速度と質量。


その拳が、一直線に真司の顔面へと迫った。


最後まで読んでいただきありがとうございます。


徐々にこの島の真実と、主人公の進むべき道が見え始めてきました。

この先、彼がどうやって「非暴力」を貫き、群雄割拠の島を揺るがしていくのか。緻密に練り上げた伏線と共に、丁寧に描いてまいります。


もし少しでも「先が気になる」と感じていただけましたら、下の**【☆☆☆☆☆】での評価やブックマーク**をいただけますと、執筆の大きな励みになります!

皆さんの応援が、物語を完結まで導く力になります。よろしくお願いいたします。

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