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俺の悪友  作者: 岡本圭地
1/3

①悪友への恨み


 ——ある日、俺は死んだ。



 それは、説明するのもバカバカしいほど、間抜けな事故死だった。


 事の発端は、電子レンジで、ピザトーストを温め過ぎた事だ。


 あまりの熱さに、手に持った瞬間「あっちぃぃ!」と、放り投げた。



 それは、俺の素足の上に落ちる。


 溶けたチーズは、まるで溶岩のようだった。


 火を押し付けられたような激痛に、また「あっちぃぃ!」と叫んで、転げ回った。



 これがいけなかった。


 テーブルの脚に頭をぶつけると、落ちてきたのは、なんと包丁。


 迂闊にも、テーブルの端に包丁を置いていたのだ。


 鋭利に尖った先端部分が、不運にも俺の喉へと突き刺さり、ジ・エンド。








◆◆ 俺の悪友 / 岡本圭地 ◆◆

 







 ああ……嫌だ。


 嫌だ、嫌だ。


 こんな間抜けな死に方、絶対に嫌だ。



 そこで俺は、あの世で神様に懇願してみた。


 幽霊でいいから、俺を悪友の北川直幸のもとへ送って欲しいと。



 さらに、触れる事と喋る事は出来るようにして欲しいと、付け加えた。


 神様は宮殿のようなその場所で、装飾された豪華な椅子に鎮座していた。


 白い衣を身に纏い、頭の上には輪っか、杖も持っている。


 白々しいほど、アイアム神様だった。



 彼は人差し指を立てて、こう言った。


「……ならば一時間だけ、君の霊体を地上に送ろう」と。


 俺は驚いた。


 意外にも、あっさり承諾してくれたからだ。



 俺が思うに、あまりにも情けない死に方で、神様さえも同情したのではないだろうか。


 とにかく、そういうわけで、俺は地上へと降りる事が許された。



 案内してくれるのは、神様の秘書である、渡辺さんという若い女性。


 長い黒髪と、赤い口紅が印象的で、はっきり言って凄く美人だ。



 もしかしたら、神様の愛人ではないだろうか。


 俺は勝手な想像をした。


 そんな彼女に導かれ、空からゆっくりと、地上に舞い降りた。




 そこは、見覚えのある場所だった。


 俺の実家近くにある、小さな公園。


 子供の頃は、よくここで遊んだものだ。



 渡辺さんは、セクシーに前髪を耳にかけると、小脇に抱えていたタブレット端末を確認した。


「今の地上時間は、亡くなった日の翌日、午後三時ですね」


「ええっ、もうそんなに経ってるんですか?」



「そのようです。それで、もうすぐこの公園に、あなたの会いたがっている、北川直幸さんが来る予定になっていますね」


「そうなんですか。分かりました」



 なぜ北川がこの公園に来るんだろう、とは思ったが訊かなかった。


「では、一時間後に」


 機械のように、素っ気なく喋る渡辺さんに「どうも」と頭を下げる。


 彼女は空へと浮き上がり、やがて姿を消した。



 さあ、タイムリミットは一時間。


 早く北川を見つけて、あいつを犯人に仕立て上げるのだ。





 ——俺を殺した犯人に。





 自己紹介が遅れたが、俺は山崎遼馬。


 この春、高校を卒業して、駅前の海鮮料理屋で働き始めた。


 それに伴い、職場近くのアパートで一人暮らしも始める。



 ちなみに、俺の喉に刺さった包丁は、調理の現場で使っている切れ味の鋭いものだ。


 それが垂直に落下してくるのだから、死んでしまうのも無理はないのかもしれない。



 かと言って、このまま事故死として処理されたくない。


 あまりにも情けないからだ。



 全国ニュースで広まったら最悪だ。


 生き恥だ。


 ……いや、もう生きてはいないけど、とにかく恥ずかしい。



 そこで俺は考えた。


 悪友である北川を、犯人に仕立て上げてやろうと。



 なぜなら奴は、史上最低の男なのだ。


 今、思い出しても腹が立ってくる。





 北川とは、高校で出会った。


 群れるのが苦手な俺は、同じく一匹狼だった北川と意気投合。


 それからは、いつも二人で、つるむようになった。



 その時は、初めて心から友と呼べる存在に出会えた気がして、嬉しかった。


 だが友は友でも、北川は〈親友〉ではなく〈悪友〉だった。



 近所のおばさんに挨拶しただけで、俺が熟女好きだと、クラス中に言いふらすし。


 俺のメガネを、マジックで黒く塗りつぶし、サングラスにしたのも奴だ。


 机で寝ていると、いきなり口の中に、大量のワサビを入れられた事もある。


 また俺の筆箱に、カメムシの死骸をギッシリ入れていた事もあった。



 特に陰険だったのは、昼に俺が弁当を食べている時だ。


 必ず側に寄ってきては、毎回トイレで用を足した話をするのだ。



 それも克明かつ鮮明に、身振り手振りを交えながら細部にわたるまで順を追って、じっくり丁寧に念を入れて、繰り返し何度も説明してくる。


 その度に俺は、食欲を失ってしまった。



 ある日、我慢の限界を超えた俺は、北川の胸ぐらを掴んでブン殴ろうとした。


 だが「ゴメンゴメン。いたずら心だよ。お前に、かまって欲しくてさ」と、屈託のない笑顔を見せてくる。


 お人好しの俺は、そんな顔をされると、つい許してしまうのだ。




 やがて月日は流れ、俺達は高校を卒業する。


 俺は定職に就いたが、北川はギャンブルで生計を立てようとしていた。


 あいつらしい、ふざけた生き方だ。



 そう言えば三日前も、この公園で奴と金の話で喧嘩になったばかりだ。


 そんな事を思い出していると、遠くから北川が歩いてきた。



 俺は北川の側に駆け寄り、顔の前で掌を振ってみた。


 なんの反応もない事から、やはり俺は霊体であり、姿は見えないものと確信する。


 だが物に触れたり、喋る事は出来るはず。





 ——俺が考えたシナリオは、こうだ。


 北川を、ボコボコに殴って蹴って気絶させ、俺のアパートへと運ぶ。



 そこで俺の死体に刺さっている包丁を握らせる。


 さらに北川のスマートフォンを使って、警察に連絡を入れる。


 友人を殺してしまった、一日考えて自首を決めたと。



 ほどなくして駆けつけた警察官に、その場で逮捕という流れだ。


 ざまあみろ。


 積年の恨みを晴らしてやる!







つづく……


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