①悪友への恨み
——ある日、俺は死んだ。
それは、説明するのもバカバカしいほど、間抜けな事故死だった。
事の発端は、電子レンジで、ピザトーストを温め過ぎた事だ。
あまりの熱さに、手に持った瞬間「あっちぃぃ!」と、放り投げた。
それは、俺の素足の上に落ちる。
溶けたチーズは、まるで溶岩のようだった。
火を押し付けられたような激痛に、また「あっちぃぃ!」と叫んで、転げ回った。
これがいけなかった。
テーブルの脚に頭をぶつけると、落ちてきたのは、なんと包丁。
迂闊にも、テーブルの端に包丁を置いていたのだ。
鋭利に尖った先端部分が、不運にも俺の喉へと突き刺さり、ジ・エンド。
◆◆ 俺の悪友 / 岡本圭地 ◆◆
ああ……嫌だ。
嫌だ、嫌だ。
こんな間抜けな死に方、絶対に嫌だ。
そこで俺は、あの世で神様に懇願してみた。
幽霊でいいから、俺を悪友の北川直幸のもとへ送って欲しいと。
さらに、触れる事と喋る事は出来るようにして欲しいと、付け加えた。
神様は宮殿のようなその場所で、装飾された豪華な椅子に鎮座していた。
白い衣を身に纏い、頭の上には輪っか、杖も持っている。
白々しいほど、アイアム神様だった。
彼は人差し指を立てて、こう言った。
「……ならば一時間だけ、君の霊体を地上に送ろう」と。
俺は驚いた。
意外にも、あっさり承諾してくれたからだ。
俺が思うに、あまりにも情けない死に方で、神様さえも同情したのではないだろうか。
とにかく、そういうわけで、俺は地上へと降りる事が許された。
案内してくれるのは、神様の秘書である、渡辺さんという若い女性。
長い黒髪と、赤い口紅が印象的で、はっきり言って凄く美人だ。
もしかしたら、神様の愛人ではないだろうか。
俺は勝手な想像をした。
そんな彼女に導かれ、空からゆっくりと、地上に舞い降りた。
そこは、見覚えのある場所だった。
俺の実家近くにある、小さな公園。
子供の頃は、よくここで遊んだものだ。
渡辺さんは、セクシーに前髪を耳にかけると、小脇に抱えていたタブレット端末を確認した。
「今の地上時間は、亡くなった日の翌日、午後三時ですね」
「ええっ、もうそんなに経ってるんですか?」
「そのようです。それで、もうすぐこの公園に、あなたの会いたがっている、北川直幸さんが来る予定になっていますね」
「そうなんですか。分かりました」
なぜ北川がこの公園に来るんだろう、とは思ったが訊かなかった。
「では、一時間後に」
機械のように、素っ気なく喋る渡辺さんに「どうも」と頭を下げる。
彼女は空へと浮き上がり、やがて姿を消した。
さあ、タイムリミットは一時間。
早く北川を見つけて、あいつを犯人に仕立て上げるのだ。
——俺を殺した犯人に。
自己紹介が遅れたが、俺は山崎遼馬。
この春、高校を卒業して、駅前の海鮮料理屋で働き始めた。
それに伴い、職場近くのアパートで一人暮らしも始める。
ちなみに、俺の喉に刺さった包丁は、調理の現場で使っている切れ味の鋭いものだ。
それが垂直に落下してくるのだから、死んでしまうのも無理はないのかもしれない。
かと言って、このまま事故死として処理されたくない。
あまりにも情けないからだ。
全国ニュースで広まったら最悪だ。
生き恥だ。
……いや、もう生きてはいないけど、とにかく恥ずかしい。
そこで俺は考えた。
悪友である北川を、犯人に仕立て上げてやろうと。
なぜなら奴は、史上最低の男なのだ。
今、思い出しても腹が立ってくる。
北川とは、高校で出会った。
群れるのが苦手な俺は、同じく一匹狼だった北川と意気投合。
それからは、いつも二人で、つるむようになった。
その時は、初めて心から友と呼べる存在に出会えた気がして、嬉しかった。
だが友は友でも、北川は〈親友〉ではなく〈悪友〉だった。
近所のおばさんに挨拶しただけで、俺が熟女好きだと、クラス中に言いふらすし。
俺のメガネを、マジックで黒く塗りつぶし、サングラスにしたのも奴だ。
机で寝ていると、いきなり口の中に、大量のワサビを入れられた事もある。
また俺の筆箱に、カメムシの死骸をギッシリ入れていた事もあった。
特に陰険だったのは、昼に俺が弁当を食べている時だ。
必ず側に寄ってきては、毎回トイレで用を足した話をするのだ。
それも克明かつ鮮明に、身振り手振りを交えながら細部にわたるまで順を追って、じっくり丁寧に念を入れて、繰り返し何度も説明してくる。
その度に俺は、食欲を失ってしまった。
ある日、我慢の限界を超えた俺は、北川の胸ぐらを掴んでブン殴ろうとした。
だが「ゴメンゴメン。いたずら心だよ。お前に、かまって欲しくてさ」と、屈託のない笑顔を見せてくる。
お人好しの俺は、そんな顔をされると、つい許してしまうのだ。
やがて月日は流れ、俺達は高校を卒業する。
俺は定職に就いたが、北川はギャンブルで生計を立てようとしていた。
あいつらしい、ふざけた生き方だ。
そう言えば三日前も、この公園で奴と金の話で喧嘩になったばかりだ。
そんな事を思い出していると、遠くから北川が歩いてきた。
俺は北川の側に駆け寄り、顔の前で掌を振ってみた。
なんの反応もない事から、やはり俺は霊体であり、姿は見えないものと確信する。
だが物に触れたり、喋る事は出来るはず。
——俺が考えたシナリオは、こうだ。
北川を、ボコボコに殴って蹴って気絶させ、俺のアパートへと運ぶ。
そこで俺の死体に刺さっている包丁を握らせる。
さらに北川のスマートフォンを使って、警察に連絡を入れる。
友人を殺してしまった、一日考えて自首を決めたと。
ほどなくして駆けつけた警察官に、その場で逮捕という流れだ。
ざまあみろ。
積年の恨みを晴らしてやる!
つづく……




