竜夢
「それは竜夢だな」
定食屋のテーブルを挟んで、対面する世理架が漆紀にそう説明を始める。
「竜夢ってなんですか?」
竜脈の巫女である彩那にも初耳の言葉であった。
「竜王は絶大な魔法の力を持つ超常的存在……その力は世界の可能性を読み取り、夢を見せる。竜夢は、ありうる可能性の世界を見せる。わたしも数年に一度竜夢を見ることがある」
「ありうる可能性……」
「君が見た竜夢の内容を教えてくれるか、漆紀君」
「ああ。俺が見たのは……」
漆紀が竜夢と呼ばれる夢の内容を話すと、世理架はため息を吐いたあと「誰に似たんだか」と呆れかえる。
「どうやら君は将来的に子供は持たない方がいいらしい、殺されるからな」
「はははっ、そうみたいだな世理架さん」
漆紀はありうる可能性を夢見たというにも関わらず、どこか他人事のように感じて軽く笑う。
「笑い事じゃないんだが。宗一君といい、君といい、ロクな末路を迎えないなまったく」
「おい、父さんのことはどうこう言うんじゃねえよ。殴るぞ」
宗一の死について言及されて不快に思った漆紀が世理架を睨むが、世理架はまたもやため息を吐く。
「で、満足かい。今日の話は竜夢についてだけか?」
「ああ、それだけだ世理架さん。」
「……おい、漆紀君。漬物を食べろと以前も言っただろう」
漆紀が唐揚げ定食に付いた漬物を避けているのを見て世理架が指摘すると、漆紀は「はぁ」と大きくため息を吐いて漬物を箸で掴んで口に放り込んだ。
「竜夢は良い可能性も悪い可能性も見せる。今後も数か月後か、何年後か、君に何かをみせるかもしれないな」
「へぇー……あっ、そういや気になってることあったわ。あぁ~……でもこれは聞けないな」
漆紀が気になったこと、それは世理架が竜王としてなぜ彩那に感知されないのかという点であった。
「なにかロクでもない質問なんだろう?」
「だからやめとくわ。さ、とっとと食べようぜ世理架さん」
「調子の良いヤツだ。宗一君でもそんな調子の良さはなかなか見せなかったぞ」
「だから父さんの話はするな、ぶん殴るぞ」




