夢はあくまでも夢
漆紀はハッと、目を覚ます。
ベッドの横に置いた時計を見ると時刻は午前三時三十四分、深夜である。
「なんだよ、今の夢……凄く鮮明に覚えてる。なんなんだよあの夢……」
漆紀は先程の夢を振り返る。自身が彩那と家族を築いている未来予想図、それと自分の子供と思わしき少年に殺される夢。何を取っても滅茶苦茶で意味が分からない。
「予知夢じゃねえよな。ありえねー……寝よ寝よ」
漆紀が再び眠ろうと枕に頭を置くが、ふいに部屋の扉がノックされる。
「こんな時間に誰だよ……」
玄関まで行ってドアスコープを覗くと、そこにはパジャマ姿の彩那が立っていた。
漆紀はドアを開けて彩那を迎え入れる。
「なんだよ彩那、こんな時間にっ!?」
彩那は突然漆紀に抱きついて来た。
「おいどうした!」
「私……さっきとんでもない夢を見てしまいました。とても一人では寝れそうにないです……一緒に眠ってくれませんか?」
とんでもない夢とは、もしかすると彩那も漆紀と同じ内容の夢を見たのだろうか。漆紀と彩那は流血の儀によって魔法の共有が出来ている。ひょっとすると、夢すら共有しているのかもしれない。
そう予想した漆紀はドアを閉めて、彩那を部屋へと案内する。
「なあ彩那、俺もさっきとんでもない夢を見て目が覚めたんだ。もしかして同じ夢を見たのかもしれないぞ。佐渡でやったあの儀式で、色々俺達繋がってるんだろ?」
彩那はベッドに座り、漆紀も隣に座る。
「じゃあ、言いますよ。夢の内容」
「ああ。一応確認だからな」
「竜王様と結婚してる夢見ました」
「……どうしよう同じ夢じゃねえか」
漆紀は頭を抱えて、項垂れる。
「なんでそんな残念そうにしてるんですか!」
「俺、最終的に夢で死んだんだぞ」
「えっ? 私、そこまでは見てないですけど……」
自身が死んだという衝撃的な内容を口にする漆紀に彩那は困惑を見せる。
「はぁ、これって竜王特有の現象なのか? 今度世理架さんにでも聞いてみるか……」
「そうですね……あの、竜王様」
「なんだよ」
彩那は自分から声をかけたものの言葉に詰まる。しばし考え込むとどうにか彩那は言葉を続ける。
「夢は所詮夢です。現実じゃありません……深い意味などなかもしれません。だから気にしないでください」
「それもそうだな……ふざけた夢だ。疲れたぜ」
漆紀がベッドに倒れると、彩那は彼の胸に頭を乗せる。
「暑い、密着するな」
「エアコンは点いてるじゃないですか。このまま寝かせてくださいよ。ああ、貴方の鼓動が心地いいです」
「……」
これ以上何も言うことはなかった。漆紀は目を閉じ、彩那も目を閉じた。




