あるかもしれない未来の話
俺は不意に近くに置いた時計を見る。時刻は午後四時四十六分。手元を見るとフライパンがあり、俺は炒め物を作っていた。
我に返って今日が土曜日であることを思い出す。そうだ、今日は夕方からアニメがある。
早めに夕食を済ませなければ。
ふいに左横を見ると、そこにはどこか俺と彩那の顔つきに似た幼稚園児ぐらいの男児がいた。
「パパ、ごはんそろそろ?」
男児の瞳は宝石の様に紅かった。この瞳に俺は見覚えがある。吸血鬼である夜巳さんと同じ目だ。
「ん? ああ。もうすぐ出来るからゲームはキリの良いところでやめとけよ」
俺は炒め物にタレをかけて味付けすると、棚から皿を取り出して盛り付ける。
次々にテーブルへと料理と小皿などの食器を運び、夕食の準備をする。
せっせと夕食の準備を進めていると、階段の方から先程の男児より二歳ほど離れた女児が母親と共に降りて来た。
女児は男児と同じく紅い目をしており、母親と手を繋いでいた。
母親の顔は当然ながら見慣れた顔だった。
旧姓竜蛇、今は辰上彩那だ。
「ごはん、出来ました?」
「出来たぞ。風呂はもう沸かしてたっけ」
「ええ。もうキノならお風呂に入れましたよ」
「パパ―、もうごはん?」
「ああ。食べよう」
男児は自分で席に着き、キノと呼ばれた女児の方は彩那が抱き上げて椅子に座らせる。
「よし、食べよう。いただきます」
「「「いただきます」」」
家族との食卓、と思いきや突然俺の視界は歪み、全く別の光景が目に映った。
気が付けば、辺りは夜だった。どうやら外のようだが、辺り一帯は焼け野原で残火が所々で燃え上がっている。
俺の目の前には竜理教の教服を着た信者が倒れている。俺の右手には使い慣れた村雨が血濡れた状態で握られていた。
「やっと、見つけたぞ……」
後方から様々な感情が入り混じった声が聞こえた。俺は後方を振り向くと、そこにはどこか俺と彩那の面影のある少年が刀を持って立っていた。
少年は黒い外套を着ており、夜に溶け込むような闇を漂わせていた。
「よくも病気の母さんを放って……そしてよくもっ……俺達なんて造ったな……親父ぃッ!」
少年は俺へと一足に跳躍し刀を振るってくる。俺は村雨で応戦し、少年の刀とぶつかる。
そこから俺と少年の剣戟が始まった。俺は毛頭少年を殺す気などなかったが、少年は俺への殺意で満たされていた。
少年は俺を蹴り飛ばすと、刀を俺へと投擲する。俺はこれを避ける暇も撃ち落とす暇もなかった。
刀は俺の腹に突き刺さる。不思議と痛みはなかった。
少年は俺へ一足で跳ぶと、刀の柄を強く握り、そのまま振り上げて俺を肩口まで切り裂く。
「ぐっ……」
血が足りない。意識が遠のく。俺は後ろに倒れ込み、そのまま目を閉じた。




