交流会
ある日の学徒会。
会長室にて、第三十一代学徒会会長・神代輝雷刀は辰上家当主・辰上夜巳と顔を合せていた。
「突然の連絡と僕への面会希望……一体どうしたというのかな。漆紀君の事でなにか心配があるのかな?」
「勿論、漆紀のことでの相談よ」
夜巳は窓際へ移動するとカーテンを閉める。
「ん? 日差しはお嫌いかな」
「ええ、眩しいのよ。さてと、本題だけれど……漆紀のために、ひいてはあなたの部下との連携を強めるために交流会をやってみない?」
「交流会かい? 急な提案だね。何か思う所があるのかい?」
輝雷刀は夜巳の顔を覗き込んで問うと、夜巳はあくまでも明るい顔を崩さず続ける。
「漆紀からこの前聞いたわよ。あなたが能力者を集めていて、その紹介の時に随分と手厳しい対応を受けたって。それで考えたのよ、貴方達学徒会とはこれから漆紀は長い付き合いになると思うの。だからね、交流会をと思って」
「いいね。しかし辰上のお嬢様、交流会と言ってもどういうものをイメージしているのかな?」
夜巳は輝雷刀へと人差し指を向けて言い放つ。
「旅行よ! 漆紀にはあなたの部下との交流と、旅行による価値観や視野の拡張を期待してるのよ。漆紀に世界の広さを教えてあげたいから」
「まったく。まあ確かに僕もそういう交流会のような場が必要だろうとは考えていたよ。いまいち漆紀君は僕の学友達との連絡をする習慣が付いてないし情報共有が出来ていない。それはひとえに人間関係が良くないからだ」
人間関係は単純なものではない。持って生まれた性質が合わないことだってある。
「そうよ。そこで、せっかくの旅行だし良い場所をチョイスしてきたわ」
夜巳はスマートフォンを取り出して、画面に表示されたウェブページ輝雷刀へと見せる。
「貿易都市・滋賀県よ!」
滋賀県は日本が誇る貿易都市の一つである。琵琶湖運河の存在によって東南アジア諸国の船が琵琶湖東湖岸に寄港するのだ。
「滋賀県……ほう、なんでそのチョイスなのかな?」
「東湖岸は都市部だから遊びには事欠かないし、丁度夏だから西湖岸側なら湖水浴が出来るわ。温泉地もあるしね、色々巡れそうだからよ」
「経費はどうしようか……」
「お互い出し合う事にしない? そういう遊興に充てる予算ぐらい学徒会にもあるでしょう? 辰上家からも半分出すわ」
「何日間を予定しているんだいお嬢様」
「そうね……一週間」
「一週間も僕が学徒会会長の務めを止めていられるとでも?」
「全部付き合えないならあなたは途中で離脱すればいいわ。他のメンバーとの交流で漆紀の人間関係を良好にしてあげるのが私の目的よ」
あくまでも夜巳は漆紀第一であった。そんな彼女の提案に輝雷刀は真顔になる。
「本来なら遊興にかまける時間はない、と言いたいところだが……この前の福井県の件で竜理教という組織に一定のダメージを与えられた事は事実であり成果だ。一度軽い休息がてら、そういうのもいいかもしれないね。僕の学友達との間の人間関係を深めるためにもね」
漆紀は現時点では輝雷刀が率いる学徒とあまり良い関係を築けていない上に連携も出来ていない。これを改善するためにも必要な交流会だと輝雷刀は考える。
「まあ、僕の存在は交流会に関してそこまで重要ではないだろうね。問題は漆紀君と彩那さん、それと僕の学友達だろうね……もしやるとしたら、君も来るのかい?」
「ええ。でも彼らの輪に入るなんて無粋な真似はしないわ。あくまで遠くから漆紀を見守るとして、距離を置いて離れることにするわ」
あくまでも夜巳は交流会には積極的に参加をすることなく見守ると主張するが、これには輝雷刀も同意を示す。
「そうか……それが良いのかもしれないね。僕達はあくまで彼らが上手くやるようそれとなく誘導しつつ見守るのが良いだろう。さて、ではすぐにでも実行に移るとしよう」
「そうね、二週間後には」
夜巳が二週間後と口に出すと、輝雷刀は険しそうな顔をする。
「宿が空いていると良いが、二週間後ともなると急だし空きは望み薄ではないかな? まあ、やるだけやってみようか……」
「団体客ならある程度受け入れてくれるかもしれないわよ」
「わかった。では、具体的な旅程と段取りを話し合おうか……何日に、どこで何をするか……」
「ええ」




