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星影が導く花明かり  作者: 天りあま
第二章 仲間との出会い

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23. メディオンに着きました

 一行はややぎこちないながらも、概ね和やかな雰囲気で道中を進んでいった。

 

 その間の話題は(もっぱ)ら騎獣についてだった。ちなみに、騎獣とは人々が主に移動手段として訓練を施した大型動物の総称である。


 チェラシュカやラキュスにはあまり馴染みがなかったが、それは単に故郷であるフロリニタスが騎獣を必要とするほどの広さがないからだ。

 体力を使いたくなければ、飛行魔法で移動すればいい。携帯型金庫に入らないような大きさのものは荷車に積んで運ぶこともあるが、それもそう頻繁に起こることではないので騎獣に牽かせることもない。


 そういうわけで、チェラシュカたちはストラメルが話す騎獣に関する話を興味深く聞いていた。

 

 騎獣になる代表的な動物は馬だそうだが、他にもエクエルタを含め何種類か騎獣に適した動物がいるという。そして、その訓練を担っているのが、ストラメルたち騎獣訓練士なのだそうだ。

 

 そんな話をしていると、大きな壁が見えてきた。メリスのときとも似た雰囲気だが、恐らく壁の向こうがメディオンだ。

 門のすぐ近くに着いたところで、チェラシュカは足を止めたラクォラの上からストラメルにそっと降ろされた。

 自力で降りられたのだけれど……と思いつつ、チェラシュカはストラメルにお礼を言う。

 

 メリスに入ったとき同様に、門でボディチェックを受けて中に通される。

 先に中に入ってラクォラと待っていたストラメルは、チェラシュカたちが近付いてきたところで声をかけた。


「んじゃ、俺はここで。色々とあざっした」

「こちらこそ、道案内してくれてありがとう。ラクォラの話も聞けて楽しかったわ」

「……ありがとう」

「あんま喧嘩すんなよ!」

「余計なお世話っすよ」

「ラクォラも元気でね。ストラメルと仲良くね」

「きゅー」

「やれやれ……行くぞ!」

「きゅいい!」

「歩けって! じゃ、皆さんお元気で!」


 その場で踏ん張るラクォラの手綱をぐいぐい引っ張り去っていくストラメルに、チェラシュカは小さく手を振った。

 ラクォラは何か言いたげだったが、聞かなくてよかったのだろうか。


「さて、何か食べるか」

「どんな美味い肉があるかな〜」

「お肉以外も色々あると思うわ」

「チェリは何が食べたい」

「お腹が空いているから、何でも美味しく食べられそうなのよね」

「じゃ、適当に回ってビビっときたとこにしようぜ」


 レオニクスの提案に乗り、三人は町中を歩き回ることにした。

 周囲の四カ国から様々な人々が行き交うモディトゥムの首都であるからか、たくさんの屋台からの観光客向けの呼び込みが積極的だ。いずれ食べ歩きもしてみたいと興味深く周囲のお店を見渡すものの、適正価格かどうかの判断が難しいため、そのときはレオニクスを頼ることにしよう。

 

 他に気になったことと言えば、町行く人々の種族の割合がメリスと違っていたことだ。メリスではかなり獣人が多かったが、メディオンは獣人やヒト(もしくは魔女かもしれない)が半々くらいで、数人程妖精が歩いているのも見かけた。

 

 お嬢さんにはこれが似合うよ、買っていかないかい、などとかけられる声を微笑みで軽く躱しながらしばらく歩いていると、料理店がいくつか集まった場所へ辿り着いた。

 どのお店もそこそこ混んでいそうだったので、並ぶ列を見比べて一番待ち時間が少なそうなレストランに入ることとなった。


 ◇◇◇


「さっき食べたお料理、どれもとっても美味しかったわね。タイミングさえあればまた来たいわ」

「ああ。特に魚のが美味しかった。ニンニクのシンプルな味付けが丁度良い」

「確かに美味かったな! クリームパスタはベーコンがもっと厚切りだったらもっと美味かったと思うぜ」

「レオニクスは本当にお肉が好きね」

「おう!」


 お腹を満たしたチェラシュカたちは、先程食べたご飯の感想を言い合いながら、早めにこの日泊まる宿を探すことにした。

 レストランの店員から宿屋がいくつかあると聞いた方向へ向かう。ぽかぽかとして心地の良い天気なので、後でゆっくり散歩をしてもいいかもしれない。


 しばらく歩いた先で見えてきたのは、そこそこ大きな二階建ての建物だ。一階の真ん中には大きな両開きの金属製の扉があり、二階部分にはいくつか窓がある。その屋根の上に掲げられた看板に大きく書いてある"宿"の文字を見て、レオニクスがその建物の扉を開けた。

 中に入る彼の後ろに続くと、板張りの床にモップをかけている人がいた。肩につくくらいの長さの銀髪を無造作に下ろし、優しげな面持ちをしたその人は、こちらに気付くと「こんにちは、いらっしゃい!」と明るく声をかけてきた。

 

 チェラシュカたちが口々に挨拶を返したあと、レオニクスがその人に一歩近付いた。


「そこの働き者の美しい銀髪のレディ、お忙しいところ申し訳ありません。ここで何泊かできたらと思っているんですが、ここの主人は今どちらでしょう?」

 

 チェラシュカはレオニクスの丁寧な口調を久々に聞いたなと思っていると、ラキュスが苦虫を嚙み潰したような顔をしていた。

 そんな彼とは対照的に、銀髪のその人はけらけらと笑っている。


「やだ~美しいだなんて久々に言われちゃった! ありがとね! この宿の主人はあたしだよ」

「おっと、それは失礼を。この立派な宿を切り盛りされているとは、おみそれしました」

「いいのよ〜! で、何日泊まりたいんだい?」


 宿の主人である彼女がチェラシュカたちの顔を順に見回した。チェラシュカはラキュス、レオニクスと順に視線を交わすと、彼女へと声をかける。

 

「私たちはゆっくり観光をしたいと考えているのだけれど、一週間ほど泊まるといくらになりますか?」

「一週間! いいお客さんだねぇ。うちは素泊まりのみで二人部屋からなんだけど、一人で泊まるなら一泊七千エン、二人なら一人あたり一泊五千エンだよ」


 そう聞いたチェラシュカはこそっとレオニクスに確認した。

 

「レオニクス、どう思う?」

「うーん……首都でこの立地ってことを考えるとかなり良心的だと思う」

「なら決定だな」


 ひそひそと三人で話してから、チェラシュカは彼女に一週間お願いしますと伝えた。

 

「部屋は二人部屋を二部屋でいいかい? 少し値段は変わるけど、一応四人部屋もあるよ」

「二人部屋を二部屋で」

 

 間髪入れずに返したラキュスに、彼女は了解! と答えてカウンターへ向かい、帳簿に何やら書き込んでいた。

 ちょっとおまけしとくね、と割り引かれた一週間分の宿代を払うと、三人は部屋に案内された。カウンター横の階段を上った二階は、右手に二人部屋が三つ、左手に四人部屋が二つという構成になっているようだった。


 手前とその隣の二部屋をどうぞと言った彼女は、レオニクスに鍵を渡すと階段を下りて行った。一番手前の部屋に入った三人は、適当にベッドに腰かけるとこれからの予定について話し始めた。

 

 色んなものが周囲の国から集まる中央の国の首都なのだから、面白いものや美味しいものがまだまだたくさんあるに違いない。

 先程貰ったメディオン内の地図を真ん中に広げ、明日はここに行こうか、なんて話をしたのだった。


 ◇◇◇


 チェラシュカたちが夕食を食べに行こうと一階に降りたところ、見覚えのある姿が目に入った。

 

「ストラメル?」

「え? チェラシュカさん?」

「お前、なんでここに?」


 訝しげなレオニクスの問いかけに、彼はきょとんとした顔をする。

 

「なんでって……ここ、俺の実家っす」

「まあ」

「すごい偶然だな」

「そうすっともしかしてあの人って……」


 レオニクスが眉根を寄せて渋い顔をしだしたとき、からりと明るい声がかかった。


「おやー? もしかしてお客さんたち、ストラメルのお友達だったのかい? 言ってくれたら良かったのに!」

「ストラメルのお母さまだったのね」

「銀髪で気付きたかったぜ……」

「や、別に実家のこととか言ってねえし」

「あら、そうなの? じゃあすっごい偶然ねー!」


 満面の笑みを浮かべながらこちらに近づいてきた宿屋の主人は、ストラメルの背をばしばしと叩いていた。

 髪の色は二人ともそっくりで、顔立ちは違うもののどこか似たような雰囲気を漂わせている。

 それを見たチェラシュカは、ヒトの家族とはこういうものなのか、とまじまじと見つめてしまった。


「ん? あたしの顔に何かついてるかい?」

「すみません、不躾に見てしまって。家族って似てるんだなと思ったの」

「ああ、確かにこの子の髪はあたしの色だし、この目付きの悪さはあの人譲りなんよねぇ」

「あの人?」

「そ。この子の父親で、あたしの夫。この子も怖い顔に見えるけど、根は悪い子じゃないのよ? ただちょっとねぇ……誰に似たんだか、考え無しなところがあってね」


 はぁ、と溜息をつく彼女の隣で、ストラメルが目を吊り上げた。

 

「あ゙? うるっせえな、いらねえこと言うんじゃねえよ」


 彼は心底嫌そうにそう吐き捨てた。それを聞いたラキュスがチェラシュカのケープをそっと引っ張り、代わりに一歩前に出る。

 知らない人だけでなく、身内にもそんな態度をとるのか……と驚いたのはチェラシュカだけではなかった。


「お、お前、自分の母親に向かってよくそんなこと……!」


 目を大きく見開いたレオニクスがそう口にした。それは単に咎めているというよりかは、戸惑いや焦りが滲んでいるように感じられた。

 しかし、そんなチェラシュカたちの反応を余所に、ストラメルの母親である彼女は片眉を上げてニヤリと笑った。


「ん~? いいのかなぁ、そんなこと言っちゃって~? あんたが小さい頃の話とか、お友達に懇切丁寧に聞かせてあげよっかなぁ」

「はっ!? ざっけんな、」

「例えば、歩けるようになってからはしゃぎまわってたら、泥んこに突っ込んでピーピー泣き喚いたこととかぁ」

「泣き喚いてねえ!」

「幼馴染の女の子と掴み合いの喧嘩になって、ボコボコにされて泣き喚いたこととかねぇ」

「ちょ、もう黙れって!」


 彼は彼女の腕を掴むと、カウンターの奥へグイグイと引っ張っていった。顔を背けていたのでどんな表情かはわからなかったが、短い銀髪の間から露わになった耳は真っ赤に染まっていた。

 一方、彼女はニコニコしたままこちらに向けて手をひらひらと振っている。

 

 あのやりとりを見るに、彼がカッとなって強い言葉を口にしてしまうのも、彼女がそれをいなすのも、いつものことなのだろうなと思った。


「すげえ強烈だったな」

「ヒトの家族って、あんな感じが普通なのかしら……」

「流石に普通ではないだろう」


 ラキュスがそう言ってレオニクスに視線を向けた。

 それに気が付いたレオニクスは一瞬不思議そうな表情をしたものの、すぐにラキュスが一般的な家族について確認したいということを察したらしい。


「……多分獣人もヒトもそんな変わんねえとは思うけど、オレんちは母ちゃんがすげえ怖……、いやちがくて! そうじゃなくて、あー……女の人には優しくするようにって言われて育ったからよ。ストラメルがあんな口()いててビビッたぜ」


 そう言ったレオニクスは、いつもより言葉を探しながら話していたようだ。

 彼がどの女性体にも必要以上に丁寧に話しかけるのは、その教えがあるからなのだろう。


「喧嘩するほど仲がいい、なのかしら」

「うーん……憎んでるとまでは言わねえけど、仲がいいってほどでもねえような」

「全ての人と仲良くなれるわけじゃないからな。ヒトの一般的な関係性に当てはめたときに、家族と呼ばれているだけだろう」


 ラキュスがそう言うと、レオニクスがじっと彼を見つめた。

 

「……すっげえドライなこと言うんだな」

「そうか? ヒトや獣人にとって家族の要点は血縁なんだろう?」

「要点とか考えたこともねえけど……」

「……私たちは、小さいときから育ててくれたロテレさん……大人たちを家族のように思っているけれど、友人の中には近くに住んでいた最初の養育者と性格が合わなくて、より相性が良かった大人の家の近くに住処を移している子だっているわ」


 チェラシュカがそう伝えると、レオニクスは「めちゃくちゃ自由だな……」と呟いた。


「だから、ストラメルがここに帰ってくるのなら仲が悪いわけではないと思ったのだけれど、もしかして血縁って個々の意思より重いものなのかしら」

「……レオニクスは一人暮らしだろう」

「そういえばそうね」


 ラキュスの言葉に相槌を打ってレオニクスの方を見ると、彼はやや躊躇いがちにこう言った。


「オレの兄貴たちは結婚して家を出てっけど、実家の近くに住んでる。妹たちは多分まだ実家に居る。だから、実家から離れて暮らしてたのはオレだけなんだ」


 その言い方から察するに、彼の家族の間で根深い確執がありそうに感じた。


「獣人は多分ヒトより一族の繋がりを重視してっからさ、じいちゃんが親父たちにあれこれ言ってくんなかったら、今もオレは家を出てなかったと思う」

「……なら、レオニクスのお祖父さまのおかげで私たちはあなたに出会えたのね。感謝しなくてはいけないわ」

「そうだな」

「お、オレも、チェリちゃんとラキュスに会えて良かったって思ってるぜ」

「ふふ、ありがとう」


 レオニクスがそんな風に言ってくれて嬉しい。彼の祖父が彼にとっての味方であって良かった。


 それからストラメルのことを思い返す。もし彼が今の家族関係に窮屈な思いをしているのだとしたら、彼やその母にとって最適な距離感が見つかるといい。漠然とそう思った。

 

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