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星影が導く花明かり  作者: 天りあま
第二章 仲間との出会い

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22. 求愛されます

 ストラメルの発した求愛という言葉に、ラキュスとレオニクスがいち早く反応した。


「は?」

「きゅ、求愛……!?」

「っす。エクエルタは、気に入った魔力を持つ相手の顔を舐めて『(つがい)になって』ってアピールするんすけど、まさか種族が関係なかったとは知らなかったっすね……」

 

 二人の反応とは対照的に、ストラメルはただただ新しい発見をしただけといった様子だ。

 

「呑気にそんなこと言ってる場合か!? チェリ、そいつから離れろ!!」

「つ、番!? チェリちゃんの番がエクエルタとか抜け駆けにも程があるんだけど!?」

「おいレオニクス」

「あっはい、なんでもないです」

 

 チェラシュカは背後のやり取りを聞いて状況を理解する。

 まさか求愛をされるとは思ってもみなかったが、急に番と言われてもピンとこず、チェラシュカにとっては非常に懐かれたくらいの感覚でしかなかった。

 ラクォラの顎をするすると撫でながら、一応真面目に返事をすることにする。

 

「ええっと、ラクォラ、気持ちは嬉しいのだけど……んん、私まだ伴侶とかそういうのは、ひゃっ、考えていなくて……」

 

 答えている最中もひたすら顔や耳や首を舐められているのだが、伝わっているのだろうか? これ以上舐められると顔がふやふやになってしまいそうだ。

 そこへ隣にラキュスがやってきて、ラクォラの口へ手を伸ばして押しのけようとした。

 

「ラクォラ、チェリを舐めるのをやめろ! ……ったぁ!?」

「ちょ、ちょっとラキュスさん、こいつに乱暴はやめてほしいっす!」

「そう言うならさっさとやめさせろ! ってだから噛むな!!」

「チェリちゃん今のうちに!!」

「え、ええ」

 

 レオニクスに手を引かれ、ラクォラの視界から隠すように前に立たれた。

 

「ベタベタになってしまったわ……」

 

 こちらを向いていたレオニクスは何故だか気まずげに視線を彷徨わせ始めたが、気にせず生活魔法で水を出現させて、舐められた部分をさっと洗う。風で水気を飛ばして、顔も首もさっぱりさせることができた。

 

「まさかチェリちゃんが動物をも魅了するとは……」

「初対面であんなに好かれるとは思わなくてびっくりしたわ。嬉しいけれど困ってしまうわね」

 

 苦笑しながらそう告げてみたところ、レオニクスは「ほんとにそうだよな……」と呟いて急に落ち込み始めた。

 どうしたのだろう、とじっと彼を見つめてみたが、その向こうではまだラキュスがラクォラと格闘しているのか、こんなやり取りが聞こえてきた。

 

「きゅいい」

「あー、あんなに美味い魔力は初めてなので彼女を番にするって言ってるっす」

「は? 認められるわけがないだろう。同じエクエルタの中から探せ」

「きゅきゅーー」

「今まで会ったどのエクエルタも大したことなかったから彼女がいいらしいっす」

「ふん、これから出会うかもしれないだろう。チェリのことは諦めろ」

「きゅいきゅい」

「えっと……お前生意気だけどあの子のなんなの? だそうっす」

「生意気だと? 俺はチェリの幼馴染でこれまでもこれからもずっと側にいる。ポッと出のラクォラの出る幕はない」

「きゅー! きゅい!」

「あー……。ずっと幼馴染の枠から出られない奴より、運命的な出会いの自分の方が彼女と添い遂げるのに相応しいって言ってるっす」

「……は? ……おい、ストラメル。どういう躾け方をしたらこう育つんだ!?」

「え゙。えー……どうっすかね……」


 ストラメルは翻訳係を任されているらしく、ラキュスとラクォラが激しく(?)舌戦を繰り広げている。

 ラキュスがあれだけたくさん話しているのは珍しいな、と新鮮な気持ちで聞いていると、レオニクスがそちらに視線を向けながら話しかけてきた。

 

「あの短けえ音に、あんだけの意味が込められてんのすげえよな」

「確かに予想外ね」


 そう返答すると、彼はやや小さな声で肩を落としながらこう言った。

 

「……ラキュスが言ってること全部、オレにも刺さるんだよなぁ。ラクォラの自信たっぷりなところが羨ましくなってきたぜ……」

「羨ましいの?」

「……あれ、オレ、口に出してた?」


 彼は「しまった!」というような表情をしているが、今のチェラシュカにできるのは素直な気持ちを伝えることだけである。

 

「ええ。……あのね、レオニクス。私はあなたが誰かのために動ける強さを持った優しい人だって知っているわ。あなたが自分のことをどう思っていようと、私はあなたのそういうところを信じているから、あなた自身もそう思えるようになったらいいなって思うわ」

「チェリちゃん……!」

 

 こちらに向きなおったレオニクスの赤い瞳は、光を取り込んでルビーのようにキラキラと輝いていた。

 彼は時折自分に自信が持てていないであろう様子を見せることがあるが、この旅が少しでも彼自身が自分のことを認められるようなものになればいいなと思う。


 そんな話をしていると、ラキュスとストラメルを首に引っ掛けた状態のラクォラがやってきた。

 言い争いが収まらずチェラシュカの方に向かおうとしたラクォラを、二人は止めようとしたようだ。

 しかし、引き止められるのをものともせず二人分の重さを軽々と引きずることのできるエクエルタは、かなり力持ちの動物みたいだ。

 

「きゅっきゅ!」

「おい、止まれって……!」

「つっよ……! もしかしてラクォラ、いつも手加減してたのか……!?」


 驚いた声を上げるストラメルを余所に、ラクォラがレオニクスの横から顔を出す。そしてチェラシュカに向かって「きゅい!」と一鳴きした。

 レオニクスが慌ててその前に出ようとしたが、それよりもラクォラがチェラシュカの顔に擦り寄る方が早かった。

 

「きゅーきゅー」

「もう誰にも邪魔させない、離れない、じゃないっすよ!! いい加減帰るっす!」

「そうね……あなたにはあなたのお家があるのだから、そちらに帰らないといけないわ」


 ストラメルの言うことに追随して、チェラシュカも帰ることを促しておく。

 

「きゅ!」

「この人は連れて帰れないんだって!!」

「きゅい!」

「ついていく!? 俺は!?」

「きゅー」

「なっ……ここでさよならなんて酷すぎる!!」


 具体的な発言内容がわからずとも、ストラメルの言葉で大まかに察することができた。隣ではラキュスとレオニクスがひそひそとこんな会話していた。

 

「……エクエルタって意外と薄情なんだな」

「確かに……」

 

 真っ直ぐに懐いてくれているラクォラは可愛らしくはあったものの、流石に色々と見逃せない事態になってきたなとチェラシュカは考える。

 

「ラクォラ」

「きゅい!」

「さっきも言った通り、私はあなたの伴侶にはなれないわ」

「きゅ?」

「私たちは今旅の途中だし、そういう関係の相手はまだ要らないかなって思っているの」

「きゅー」

「それに、さっきラキュスの手を噛んだでしょう? あれはよくないわ。後でちゃんと謝りましょうね」

「きゅ……」

「あと、これまでストラメルに大切に育てられたのでしょう? あなたの言葉で彼が悲しんでいるのがわかる? 一時的な感情で本当に大事なものを見失わないようにしないといけないわ」

「きゅい……」

 

 鱗に覆われた顔を見ても表情はわからない。だがどこかしょんぼりした様子を見せるラクォラは、ストラメルの方を向いて「きゅきゅい」と鳴いた。

 

「……本当にお別れするつもりなのかとショックだった」

「きゅきゅ」

「わかってる。それだけ本気だってことだよな」


 ストラメルの相槌に、ラキュスが口を挟む。

 

「……おい、本気かどうかに関わらず番なんて認めないぞ」

「きゅー」

「あー、その……噛んでごめんって言ってるっす」

「……ふん。俺もちょっと強く押してしまったかもしれないし、それはすまなかった」

「きゅんきゅ」

「でも彼女は最終的に自分を選ぶだろうって……」

「は?」


 ラキュスとラクォラが再び一触即発の空気を出し始めたところで、そろそろいい時間になってきたなと思う。

 いつメディオンに着くことになるか……と考えて皆に声をかけることにした。

 

「ねえ、ストラメルたちはメディオンに向かうところよね? お腹も空いてきたし、とりあえず移動しましょう?」

「はい、メディオンに帰るとこっす。確かにずっとここにいるわけにもいかないっすね」

「そうだな、さっさと行こう」

「なんか言われてみたら腹減ってきたな」


 ストラメルはラクォラの手綱を持ち直し、ラキュスとレオニクスは同意しながらチェラシュカの隣に並んだ。

 

「きゅきゅい」

「それは難しいと思う」

「きゅう」

「ええー……」

 

 ストラメルとラクォラが何やら話していると思ったら、ストラメルが困った様子を見せていた。

 

「どうしたの?」

「それが……こいつがチェラシュカさんに乗ってほしいって聞かないんすよ」

「あら……」

「ここでまた動物に乗るとかいう話が出てくるのか……」

「この前も馬に乗ったばっかだもんな」

「きゅきゅ!」

「馬なんかよりも自分の方が、乗り心地がいいはずだって言ってるっすね……」

 

 チェラシュカとしては、乗れるのであれば乗ってみたい気持ちはあった。

 ただ、自分だけ楽をしてしまって良いのか、そしてラキュスとレオニクスが体を張って近付かないようにしてくれていたのにそれを自分から崩してしまうなんて、という思いもあり、なんと言うべきか迷ってしまう。

 そんなチェラシュカの顔を見たラキュスは、ふっと息を吐いてこう言った。

 

「チェリがしたいようにすればいい。乗ること自体には特に意味はないんだろう? ストラメル」

「そうっすね、騎獣なんで当然人を乗せて走ることもあるっす」

「じゃあ問題ねえのかな……?」

「……本当にいいの?」

 

 そうは言われても少し逡巡してしまうチェラシュカであったが、ラキュスはこちらに微笑みかけて一つ頷いて、レオニクスも「チェリちゃんは乗りたいんだろ? じゃあそうしなって」と言ってくれた。

 

「ありがとう、ラキュス、レオニクス。じゃあストラメル、ラクォラ、乗ってもいいかしら」

 すると、ラクォラが「きゅきゅーいい!」と大きく鳴いた。


「やる気まんまんっすね……。ラクォラ、くれぐれも急に走り出したりすんなよ」

「きゅい!」

「じゃ、乗せるんで失礼するっす」

「へ?」

 

 ストラメルはチェラシュカの胴体を掴むとひょいと持ち上げて、ラクォラの背の鞍の上に座らせた。以前馬に乗ったときと同じ横乗りである。

 

「ど、どこを掴めばいいの?」

 

 急に視界が高くなり、今回は前に誰かが座ることもなく一人のため、どうしたら良いのかわからず戸惑ってしまう。

 すると、ストラメルは右手でチェラシュカの胴を支えたまま、左手でラクォラに繋がっている綱を持ってきてチェラシュカに手渡した。

 

「この手綱を両手で持つっす。降りるときまで離しちゃダメっすよ」

「わかったわ。ラクォラ、しばらくの間よろしくね」

「きゅ!」

 

 手綱を右手に持ち変えたストラメルは、ラキュスたちに声をかけた。

 

「準備できたっすよ」

「……ああ」

「じゃあ行くか」

 

 こうして、太陽がてっぺんまで上ろうかというタイミングで、四人と一頭はメディオンへの道を進み始めたのだった。

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