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星影が導く花明かり  作者: 天りあま
第二章 仲間との出会い

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19. お見送りをします

 そうこうしているうちに、セルヴィエルたちが次の巡回先に行く時間が迫ってきたらしい。そう聞いたチェラシュカたちは、彼らを見送りに村の入り口付近まで来ていた。

 

 ラキュスもレオニクスも全く気乗りしない様子だったものの、後腐れなくすっぱり別れるためにも礼儀は大事にしたほうがいいと言うチェラシュカについてきてくれていた。

 セルヴィエルたちからやや距離を置いたところに立ったチェラシュカは、彼らに声をかけた。


「皆さん、短い間でしたがお世話になりました。お元気で」

「ヴェロル、ありがとう。……ネリダも」

「ラキュスちゃんならいつでも後ろに乗せてあげるわあ」

「ヴェロル、色々と助かったぜ。苦労しそうだけどこれからも頑張れよ」

「自分はもう慣れたっす。レオニクスこそ頑張って」


 ラキュスとレオニクスは、明らかにセルヴィエルを避けて見送りの言葉をかけている。だが、その避けられている当の本人は歯牙にもかけずこう言ってのけた。

 

「最後にこうして君たちに見送ってもらえるとはね。相手への好悪(こうお)に関わらず礼節を重んじられるその姿勢は、賞賛に値するとオレは思うね」


 二人への皮肉にしか思えないその言葉に、チェラシュカはきゅっと眉間に皺を寄せる。仕方がないな、とラキュスとレオニクスの名前を小声で呼んだ。

 ラキュスは小さく溜息をつき、レオニクスは顔をしかめていたが、二人ともきちんと見送る決心がついたのか彼の方へ身体ごと向けた。

 

「……セルヴィエルにも、世話になった。ありがとう」

「ああ、なんだかんだで助かった。ありがとうございました」


 そんな二人を見て笑みを深めるセルヴィエルに対し、チェラシュカはもう会うのが最後だからと思い、しばらく考えていたことを告げることにした。

 

「……セルヴィエルさん。一つだけ言っておくわ」


 彼の言動は概ね突っ込みだすとキリがないものではあるが、チェラシュカはずっと気になっていたことがあった。放置しても良かったものの、蹴ったことを謝らないと決めた以上、それ以外の部分での誤解を残しておきたくはなかった。

 

「うん? なにかな、お嬢さん」

「私、あなたのことは嫌いではないわ。身体がびっくりしてつい反射的にそう言いそうになるけれど、心が追いつかないから苦手なだけよ。変わった趣味以外は、ただ仕事ができる人だもの」

 

 そう。彼は人を揶揄ったり、かと思えば過剰に敬ったりするし、目的のために手段を選ばず嘘をつくことも厭わないし、話し方も胡散臭くなるし、不用意にベタベタと触れてくるし、隙あらば暴力を振るわせようとするし……。

 ……ではなくて、そういう良くない部分も多々あれど、妖精狩りの対応に困っていたチェラシュカたちを助けてくれたのは彼らなのだ。だから、職務を全うする治安維持隊としての彼らには感謝をしなければならない。

 ――あれ? 動いていたのは主に部下の二人で、彼自身は何もしていないような気がする……?

 

 と、そこまで考えたところで、ふと意識を目の前に戻した。

 すると、切れ長のグレーの目を限界まで大きく開き、大層素敵なものを目にしていると言わんばかりにキラキラと輝く表情をしたセルヴィエルが目に入った。しかも、満面の笑みでこちらに向かって走ってこようとしているではないか。

 

「………………女王様ぁ〜〜!!」

「ひっ!? も、もう一度蹴るわよ!?」

「お望みのままに!!」

「望んでないのよ!」


 ぞわりとしてじりじりと後退(あとずさ)りをすると、ラキュスが目の前に割って入った。

 

「それ以上チェリに近付くな!!」

「チェリちゃん、こっち!」


 レオニクスに手を引かれるがままに走り出したチェラシュカは、彼の速さについていくため風魔法で加速する。

 少し走ってからどうなっているかが気になり、ちらりと後ろを振り返った。

 

 ラキュスがセルヴィエルを必死に食い止めている。だが、ただでさえ肉体的に強靭な獣人で、しかも部隊長が相手だ。恐らく身体を鍛えているであろう彼にラキュスが腕力で敵う筈もなく、あっさりと押し負けそうになっていた。

 そこにヴェロルとネリダが加勢して、セルヴィエルを連れ戻そうとぐいぐい引っ張っている。

 

 そんな様子を見たチェラシュカは、なんだかおかしくなってしまって、走りながらついあはは、と笑い声を上げた。 

 チェラシュカの笑い声に気が付いたのか、レオニクスが足を止めて振り返った。それに合わせてチェラシュカも足を止める。

 こんな風に笑うのは幼い頃のようだなと思っていると、何故か彼はこちらを見たままぽかんと口を開けていた。


「あはは、なんだかおかしくなっちゃったわ。見て、ラキュスがあんなにもみくちゃになっているの」


 そこそこ離れてしまったラキュスたちを空いている方の手で示すと、レオニクスもそちらを見て頷いてくれた。

 

「あ、ああ、さすがに治安維持隊に力勝負は無理があるぜ」

「ふふ。レオニクス、一緒に逃げてくれてありがとう。でも、あなたが居てくれるならきっと大丈夫だから、戻りましょう?」

「……おう」


 チェラシュカは繋がれたままの手にきゅっと力を込めると、今度は自分がその手を引いてラキュスたちのいる方へ歩き始めた。

 そこで、繋いだ手がやや汗ばんできたことに気付く。離そうかと手を緩めようとしたが、逆にレオニクスは握る力を強めてきた。

 不思議に思って彼の方を見上げると、こちらを見ていた彼とばっちりと目が合った。が、すぐにふいっと逸らされてしまった。


「手に汗をかいちゃったみたい。気持ち悪くないかしら」

「大丈夫、多分オレのだし……いや! その、えーっと……」

 

 口籠りながらも握る力を緩めない彼に、今度は彼自身が手を引かれたい気分なのかもと考える。

 

「レオニクスが気にしないのならいいの。行きましょうか」

「……おう!」


 彼がにかっと笑って返事をしたのを見た後、再び前を向いて歩いた。

 目を凝らして元居た場所を見てみると、セルヴィエルは既に馬に乗っており、その前にヴェロルとネリダが立ってラキュスに向けて何か話しているようだ。距離が近付いてきたことで、徐々に彼らの声が聞こえるようになった。

 

「ラキュスちゃんがうちにくればいいわあ」

「は? 行くわけないだろう。それより見送りはもう済んだんだから、さっさと行けばいい」

「自分はノーコメントで」

「……お嬢さんたちが戻ってきたようだ。君の相方は抜け駆けをしているようだが」

「そうねえ、あんな子たちほっといて行きましょお」

「だから俺は行かないと……抜け駆け?」

 

 彼らの会話は入り混じっており、誰が誰に返事をしているのかがわかりにくい状態であった。

 だがチェラシュカは、ネリダがラキュスにうちにくればいいと言うのが聞こえた時点でやや早歩きになり、チェラシュカたちを放っていこうと言うのが聞こえたあたりで駆け足になった。

 レオニクスの手から自身の手がするりと抜けるのも構わず、ラキュスの元へ駆け寄る。そこで、丁度こちらを振り返った彼と目が合った。そのままどこにも行かないようにと彼の手を両手で掴む。


「ラキュス! ……行ってはダメよ」

「ああ。チェリのいないところには行かない」

「良かった」


 彼がチェラシュカを置いて行くわけがないというのは分かっていたが、言葉にしてもらうことで安心できることがあるというのもまた事実である。


「あーあ、戻ってきちゃったわあ」

「もういいすよね、さっさと行くすよ」

「仕方ない……チェラシュカ様、どうか息災でお過ごしください。騎士(ナイト)たちはよくお守りするように」

「当然だ」

「言われなくてもそうするつもりだぜ」

「……ええ。セルヴィエルさん、さようなら」


 ――守られるだけじゃないって言っているのに。


 そう不満に思いつつも、面倒なので突っ込まないでおくことにする。

 セルヴィエルは最後まで中途半端に胡散臭い話し方だったなと思いながら、チェラシュカは彼らが去っていく背中を見送るのだった。

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