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星影が導く花明かり  作者: 天りあま
第二章 仲間との出会い

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11. レオニクスは意思を示した

 レオニクスがリビングへ移動すると、チェラシュカとラキュスがローテーブルを前にして並んで座っていた。

 どうぞ、と二人の前にグラスを置いたところで、二人が床に直接座っていることに気が付いた。

 

「あ! これ! 遠慮しねえで使って!」

 

 そう言って適当に積まれていたクッションを二つ取り、チェラシュカたちに手渡した。

 ありがとうと言って受け取る彼女たちを横目に、自分もその向かいにクッションを置いて腰を下ろす。

 そして、先程から考えていたことを二人に伝えようと思い、恐る恐る話しかけた。

 

「なあ、チェリちゃん、ラキュス……」

「なあに?」

 

 真っ直ぐに向けられた金色の目に思わずドキリとする。

 すう、はあ、と深呼吸をして息を整える。自分の心臓の音が二人にも聞こえそうだ。

 今までにない程の緊張をぐっと呑み込んで、レオニクスは口を開いた。

 

「…………オレも、二人と一緒に……旅、をしてえんだけど……」


 詰まりながらもそう告げると、二人は目を大きく見開いた。

 

「……本当?」


 真っ直ぐこちらを見つめた彼女にそう問いかけられた。

 その隣で「は?」と言ったラキュスの顔には、こいつ何言ってんだ……と書いてある。

 

「……チェリちゃんとラキュスと話して、オレも色んな世界を見てみてえと思ったんだ。それに、オレにも叶えてえ願いがある」

「そうなの? ……星を捕まえても、本当に叶うかどうかはわからないのよ?」

「そうだ」

 

 ラキュスが鋭い視線を向けてきたが、ここで引くと一生後悔するとわかっていた。

 今まではこういう場面では諦めることが多かったが、レオニクスは今日が自分にとって大きな転機になる予感がしていた。

 そんな自分の直感を信じ、懸命に思いを伝える。

 

「やっぱり、他の国の技術を色々と見て、オレの細工師としての腕ももっと磨きてえなって。それに、妖精は狙われることが多いって言ってたろ? ……用心棒? 的な感じでさ。一応警備隊に居たこともあるし、少しは役に立てると思うぜ」

「いらない」

「……ラキュス」


 即座にラキュスに却下されたが、彼女が(たしな)めるように声をかける。

 

「私はいいわよ。断る理由がないもの」

「っチェリ!」

 

 彼女の優しい声にほっとするものの、案の定ラキュスが反対している。ラキュスの視線を受けた彼女は、ふ、と微笑むだけだ。

 

「私はラキュスとレオニクスそれぞれの意見を尊重するわ。納得できるまで二人で話し合って」

 

 そう言われたのでラキュスの方を見ると、雑草でも無理やり食べさせられたかのような苦々しい顔をしている。

 そりゃああんな話したもんな……とさっきの自分の話題のチョイスを後悔する。

 どちらからも何も言わないレオニクスたちを見て、彼女がこう言った。

 

「二人でゆっくり話せるように、またお外を見てくるわね?」

 

 え、とレオニクスたちが視線を向けると、彼女は更にこう続けた。

 

「ラキュス、もうすぐ日が暮れちゃうけれど、私たちは今日どこに泊まるのかしら? レオニクスを連れて行かないなら、早くお(いとま)してメリスに宿を探しに行ったほうがいいし、一緒に行くなら、今日はここに泊めてもらうことになるのかしら」

 

 ……うちに彼女が泊まる? 一つ屋根の下で?

 

 思ってもみなかったことを耳にして、別の意味で緊張してしまう。

 

「泊めてもらうって言っても、部屋の隅で寝転がらせてもらえればと思ったんだけれど……ごめんなさい、こちらから言うのは図々しいわよね。決まらなければ野宿で……」

「野宿なんかさせられねえよ!」

「それは駄目だ!」

 

 反射的に出した大声がラキュスと被ったが、それを聞いた彼女の口は綺麗な弧を描いた。まるでそう答えられるのがわかっていたようである。

 

「日暮れまでには戻るわね」

 

 彼女は昼間と同じように、軽やかな足取りで外に出ていった。その背中を見送ってそのまま余韻に浸りたい気持ちもあったが、日暮れまでは後一時間もない。

 

「ちっ」


 音のした方を見ると、ラキュスがこの日一番のしかめっ面をしていた。

 

 ――まさか、舌打ちしたのかこいつ……!! めちゃくちゃ真面目そうな雰囲気を出しているくせに……。

 信じがたい気持ちでラキュスを見ていると、彼が身体ごとこちらを向いた。

 

「さっさと決めよう。チェリに旅立って早々野宿させるわけにはいかない」

「……それはそうだけど」

「レオニクス。改めて聞くが、本気で言っているのか? 下心とこの場の勢いで言ってるだけじゃないのか」

「しっ……たごころは…………なくもない、かもしれない……」

 

 正直なところ、そこに関しては全く否めなかったので、小声で曖昧な答えを返してしまった。

 

「ふん」

「で、でも、勢い任せで考えなしに言ってるわけじゃねえ! チェリちゃんもだけど……ラキュスも、他の人と違ってなんか話しやすくてほっとすんだよ」

「俺が、話しやすい……?」


 彼は不可解極まりないといった表情をしているが、レオニクスはここぞとばかりに正直な気持ちを告げる。

 

「オレ、家族や友達相手でも、思ってることが上手く言えなくて諦めちまうことが多いんだけど、二人は今日初めて会ったばっかなのに、オレの話をちゃんと聞いてくれるだろ?」

「……人の話を聞くのは当然だろう?」

「それがそうでもねえんだって! オレの気持ちを勝手に決めつけたり、自分の想像を押し付けたり、なんなら最初から聞く気がねえ奴だっていんだ」

 

 そう言いながら、最初からレオニクスの話を聞く気がない奴の筆頭である自身の妹たちを思い出す。

 

『レオンにい、今日は荷物持ちの日だよ』

『レオンにい、あれ買ってよ』

『お腹空いたなー、あ、そのアイスちょうだい』

『ブロッコリーいらないからあげる』

 

 一つ一つは可愛らしいお願いではあるし、頼られているのだと思えばはじめのうちは悪い気はしなかった。

 しかし、あるとき気が付いたのだ。

 彼女たちは何故かレオニクスにしかこのようなお願い事をせず、上の兄二人には何も頼まないことに。

 どうやらレオニクスが彼女たちのお願いを断れないとわかっているようで、有り体に言えば、めちゃくちゃ舐められているというわけである。


 また、肉食動物の筆頭として挙げられる獅子の獣人ということもあって、初対面の人からは強気で物怖じしない性格だと思われがちだ。

 レオニクス自身は、全くそのような獅子らしい性格ではないという自覚がある。

 しかし、周囲の人々からはそういうステレオタイプ通りの振る舞いを期待されやすく、本当はそうではないと訴えようにも上手く伝えられないまま流されてしまう。

 そういったことを掻い摘んで話すと、ラキュスから哀れみの目を向けられた。

 

「割と苦労してるんだな」


 そんなラキュスの言葉に力なく「ああ……」と相槌を打つ。

 そうやって思い遣るような言葉をかけてくれたかと思えば、「だが、それとこれとは別だ」と言い切られた。

 

「……そう言うと思ったぜ」


 やっぱりな、と思いながらそう返事をすると、それなりに間を空けてから彼が口を開いた。

 

「…………正直なところ、限りなく不可寄りではあるが」

 

 ここで百パーセント不可と言われなかったことで、意外と見込みがあるのかも、とレオニクスはちょっぴり期待してしまう。

 

「今日一日過ごして改めて思ったが、俺たちは旅をする上での知識が足りなすぎる。経験が不足しているのは当然だが、外の世界に慣れていないことが原因で、チェリを危険に晒したくはない」

 

 そこまで言うと、ラキュスはこちらにじとっとした視線を向けた。

 

「メリスではレオニクスに色々と助けられた。ありがとう」

「え? ああ、どういたしまして?」

「道中の守りを固めるという意味でも、レオニクスの身体能力の高さを必要とするときが来るかもしれない。多少乱暴でも魔獣を倒す力はあるわけだし、前職の経験もあるみたいだからな」

 

 ――なんかめっちゃいけそうな感じ出してくるな? ラキュスの説得はめちゃくちゃ難航すると思ってたんだけど……意外といけそう……?

 

「だが、チェリを不埒な目で見ている。これは駄目だ。つまり旅についてくるのは却下だ」

「……え、あ、ええええ!? 流れが急すぎねえか!?」

「急なものか。最初から不可と言っているだろう」

「寄りって言ったじゃねえか……」

「可ではないだろう」

「そりゃそうだけどさ……」


 ふと視線を窓の外に向けると、大分薄暗くなっていた。もう本当に時間がない。ここから巻き返す方法がないか必死に考える。

 

「も、もう見ねえから! チェリちゃんのことは!」

「そんなこと、できるわけがないだろう」

「ぐっ……」

 

 さすがにこれは出まかせすぎた。自分でも馬鹿すぎると感じる。

 

「えーっと、えーーっと……」

 

 他に何か良い手はないかと頭を絞って考える。

 必死に回転させている脳味噌の隅で、ふとこんな考えが浮かぶ。

 

 もう陽はほとんど沈みかけている。

 この時点で、ラキュスは彼女を追いかけて「話し合いの結果無しになった」と言ったって構わないはずだ。

 だが、そうはせずに時間ギリギリまで待っていてくれる。一方的に話を切り上げず、こちらの話を聞こうとしてくれる。

 そんな彼の態度は、レオニクスにとっては非常に得難いものだった。

 

 ――やっぱりラキュスはすげえいい奴だ。こうやって知り合って間もない相手でも、きちんと向き合える奴と仲良くなりたい。

 

 そんなことを考えていたら、いつの間にかその思いが口から零れていた。

 

「オレ、ラキュスと友達になりたい」

「…………は?」


 ぱか、と口を開けたラキュスを真っ直ぐに見つめたまま、レオニクスは出来るだけ真摯に思いを紡いだ。

 

「ここで二人と旅するのを諦めたら、後で絶対後悔する。チェリちゃんに対して下心がねえとか、不埒な目で見ねえとかは言わねえ。っつーか言えねえ。それはごめん。さっきのもマジでごめん。……けどそれでも、どうしても、今ラキュスと友達になれるチャンスを逃したくねえって思うんだ」

 

 目を見開いてこちらを凝視したラキュスは、驚きのあまり声も出ないようだった。

 レオニクスにとって彼が再び動くまでの時間は、非常に長かったようにも、瞬きの間しか経っていないようにも思えた。

 片手で頭を軽く押さえた彼は、はーっと長い息を吐いた。

 

「よくそんな小っ恥ずかしいことが堂々と言えるな……」

「えっ!? そ、そうか?」

「面と向かって友達になりたいなんて言われたのは初めてだ。まったく……」

 

 ……ぱっと見やれやれって顔をしてっけど、よく見ると少し照れてる?

 

「でもここで言わねえと伝わんねえし、一生モンの後悔をここで作るわけには、」

「わかったって」


 そう言った彼は、不愉快そうにどこか遠くを見つめている。固唾を飲んで次の言葉を待っていると――。

 

「………………いいか。くれぐれもチェリには必要以上に近づくなよ」

「……え、それって」

「認めてやる、レオニクス」

「ほ、本当か!?」

「ああ。……チェリに傷一つつけずに守れ。わかったな、用心棒」

「もちろんだ!! ラキュス、ありがとう!!」

「ふん」

 

 感激のあまりラキュスに抱きつきそうになったが、なけなしの理性でなんとか押しとどまった。やっと納得してくれたのに、ここで自分で台無しにするようなことはしたくない。


 丁度そのタイミングで彼女が帰ってきたようだ。リビングに入ってきた彼女はこちらを見て結果を悟ったらしい。

 軽い笑みを浮かべるとこう口にした。

 

「うふふ。レオニクスったら、ラキュスを口説き落とすのに成功したのね」

「……口説き落とされていない」

「ふふ」

「えっと……」

「じゃ、一応結果を聞かせてくれる? 二人とも」

 

 ちらっとラキュスの方を見たところ、彼もこちらに目を向けていたらしく、目が合った瞬間にさっと逸らされた。ちょっと悲しい。

 

「……チェリ、レオニクスを旅に連れて行く。用心棒としても力になってくれるだろうし、何より俺たちに対して正直すぎる。信頼できるだろう」

「えっ」

「まあ。ラキュスが言うなら間違いないわね。じゃあ改めてレオニクス、これからよろしくね」

「ああ、よろしく……」

 

 ラキュスの言った正直すぎるという言葉が引っかかり、思考がそちらに向かいかけた。が、彼女から差し出された手を反射的に握り返して我に返った。

 

 ――や、柔らかい! 小さい! ふにゃふにゃしてる!

 

 母や妹たちと違う……と幼い頃に手を繋いだときのことを思い出し衝撃を受けていると、ラキュスにじとりと睨まれていることに気付いた。

 どうやら彼女の手を握りすぎていたようだ。慌ててぱっと離すと、彼女はきょとんとしている。


 ◇◇◇


 その後、レオニクスは三人で夕食を食べてから出立の準備をした。夕食を作る際にも色々とあったのだが割愛する。

 

 三人で話し合った結果、明日の朝メリスへ向かって、そのまま中央に位置する国モディトゥムを目指すことになった。

 着替えなど魔法で小さくできるものはラキュスに小さくしてもらい、できるだけコンパクトにまとめる。

 こういうとき、魔法が使える便利さを実感する。

 獣人としての強さを買ってもらったものの、魔法が使える種族だったらと思わないこともない。

 

 必要そうなものを一通り揃えリビングへ戻ると、床に座り込んでいる彼女が目に入った。

 シャワー代わりに魔法で全身を綺麗にすると言っていたが、ついでに今日買ったばかりの寝間着に着替えたようだ。髪は両耳の下で緩く結ばれており、後ろでお団子にしていた時と比べて素朴で可愛らしい雰囲気になっている。

 

 そんな彼女は、何故かはわからないが床の上にトランプタワーを作っていた。

 さっき彼女がトランプがないかを聞いてきたのはこれを作るためだったようだ。なんと四段目に突入している。

 待たせすぎたかもしれない、と思いながら声をかける。

 

「チェリちゃん……?」

 

 レオニクスの声に反応した彼女はこちらを振り向いた。

 

「あ、終わったの? 早かったわね」

「できるだけ物を減らしたからな。それより、暇だったよな。ごめん」

「そんなことないわ。本当はレオニクスたちが戻ってくるまでにもっと積みたかったのだけれど」

 

 そう言った彼女は、えい、という掛け声とともにトランプタワーの一番下の段のカードを手で突いた。呆気なく崩れたカードを前に、彼女は満足そうな顔を浮かべる。

 

「ええ……?」

 

 レオニクスが困惑していることに気付いたようで、こちらを向いた彼女は口を開いた。

 

「こう、やってはいけないことってやってみたくなるでしょう?」

「えーと……まあ、うん」

「でも、他の誰かが関わることだと怒られてしまうでしょう? だから、たまにこうやって自分で作ったものを壊したりしてるの」

「へ、へえー、そうなんだ」

 

 悪戯っぽい表情でそう言った彼女だが、なんとなく闇深い気がするのは気のせいだろうか。

 

「こんな風に儚く無くなってしまうものに惹かれるのも、私が桜の木の妖精だからかもしれないわ」

「そう……なのかな」

 

 崩れたトランプを一つにまとめながらそう言う彼女に、なんと返事をしたら良いのかわからないなと思いつつ、なんとなく視線を横に向けた。

 すると、いつからそこにいたのかわからないが、ラキュスが壁にもたれてこちらを見ていた。

 

「チェリ」

「ラキュス!」

「遊びたいんだろ」

「ふふ。バレちゃった? 明日に備えて早く寝るべきかと思ったのだけれど」

「大丈夫だ。なあ、レオニクス?」


 急に話しかけられてたレオニクスは反応が遅れてしまった。

 

「え? ……ああ、大丈夫だぜ」

「本当? 実はね、森の外で友達ができたら夜遅くまで遊んでみたいなって思ってたの」

 

 彼女がそういうのを聞いて、小さく「友達……」と繰り返す。

 

「ええ。……もしかして、私のことはまだ友達と思えるほどの親しみはない?」

「え!? いやまさか! めちゃくちゃ親しんでるよ」

「めちゃくちゃ親しんでるってなんだよ」


 実のところ、ラキュスからはなんとか友達としては認められただろうなという希望的観測がまだできたものの、彼女に関してはどう思われているかがさっぱりわからなかった。

 

 彼女は明らかに、レオニクスに対して一線を引いている。

 

 最初に気軽に愛称で呼んでと言ったときもそうだし、旅についていきたいと言ったりラキュスと話し合うことになったときもそう。

 にこやかに接してくれてはいるものの、これ以上は踏み込みません、踏み込ませませんという明確な意思表示を、彼女からひしひしと感じていた。

 単に警戒心が強いだけかとも思ったが、どうもそれだけではないと野生の勘が告げている。

 なんにせよ、そんな彼女から友達だと言ってもらえたことが単純に嬉しいので、これ以上は深く考えずに今の距離感に甘んじることにした。


 三人で遊べるトランプゲームということで、思いつく限りのことをやったように思う。

 ババ抜き、七並べ、神経衰弱、大富豪……暮らす国や種族が違っていても、遊びは一緒という共通項が見つかったことが、単純に嬉しい。

 

 なお、彼女はポーカーフェイスが上手く運も良いものの、神経衰弱は苦手なようだった。

 ラキュスが割と顔に出るタイプで、でも神経衰弱は半分以上取るくらいだったから、ちょうど補い合える良いコンビなんだなと実感する。

 

 ちなみに、妖精の街では同世代の子は皆お行儀がよく、夜遅くまで遊ぶということがほとんどなかったらしい。マジかよ。

 

 そうして夜遅く(と言っても零時を回ったくらい)になると、彼女はうつらうつらとしてきていた。

 目がとろんとしており、明らかに眠そうである。

 ラキュスが彼女を自身のそばに呼ぶと、彼女は彼の肩にもたれかかった。

 

「きょ……はよふかしきねんび……」

 

 そう一言呟くと、完全に眠ってしまったようだ。その無防備さに思わずごくりと喉を鳴らしてしまう。

 

「やっと寝たか」

 

 ラキュスのその言葉の真意を測りかねていると、彼は更にこう続けた。

 

「わかっているとは思うが、チェリには触るなよ。信頼関係が崩れるのは一瞬だからな。あのトランプタワーみたいに」


 ――もしかして彼女は、頑張って積み上げた信用も一度の失敗で簡単に崩れるって伝えるためにトランプタワーを……? まさか、友情も儚く無くなってしまうものと思っていたり……?

 

 そこまで考えて怖くなってきたので、深く考えるのはやめた。不用意なことは絶対にしないと固く心に誓う。

 

 ラキュスがひょいと彼女を横抱きにして持ち上げたので、慌てて声をかける。

 

「寝かせるならベッドに……」

「ベッドって、レオニクスのベッドだよな」

「そりゃもちろん……あ」

「ちっ。仕方ない、床に寝かせるわけにはいかないからな」

「誓って何もしねえから、安心してくれ……」

「そもそもそういう発想が出てくるやつなのが悪い」

「なっ……!? それを言ったらラキュスだって」

「しっ。起きるだろ」

 

 そう言われてしまうとレオニクスは黙るしかなかった。ひとまず静かに自身の寝室に案内する。この家にはリビングとキッチンと寝室しかないので、先程まで荷造りをしていた部屋に戻ってきた形だ。

 ラキュスはレオニクスのベッドに彼女をそっと寝かせて布団をかけていた。そのまま彼女の髪を結んでいた髪ゴムを取り、自身の服のポケットにしまっている。

 なんだか手慣れているように見えるが、もしかして頻繁に寝落ちしているのだろうか。


 とりあえずたまたまあった予備の掛け布団を二つ出し、枕代わりにリビングから持ってきたクッションを床に置く。

 掛け布団を一つラキュスに渡すと、彼はベッドの横に腰を下ろした。そして、俺はここで寝る、と言って座ったまま布団に(くる)まってしまった。

 

「寝違えねえか?」

「そしたら治癒魔法で治すからいい」

 

 魔法が使えるやつは魔法ありきの生活になるんだな……なんて当たり前のことを改めて感じる。

 今まで魔法を使う人が周りにいなかったので、非常に新鮮な気持ちだ。

 

 レオニクスはふとラキュスの向こう側にいる彼女へ目を遣った。下ろされた(まぶた)は彼女の持つ輝く金色をその奥に隠し、先程まで可愛らしい声を紡いでいた唇が今は閉じられている。

 髪ゴムを外されたことでベッドの上で散らばる桜色に、なんだか見てはいけないものを見たような気持ちになる。

 

「早く寝ろ」

「っ、ああ」

「おやすみ」

「……おやすみ」

 

 ――一人暮らしを始めてから初めておやすみって言ったなあ……。

 そんな思いにしみじみと浸りながら、レオニクスは瞼を閉じるのであった。

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