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星影が導く花明かり  作者: 天りあま
第二章 仲間との出会い

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8. こだわりが強いみたいです

「そんなんだから――。……おい、レオニクス。お前、そんな指輪持ってたか?」


 今にも殴り掛かりそうな勢いだった店主が、不意に自分の腕を掴むレオニクスの手に目を留めた。

 

「……え? ああ、これか? これはラキュスのだけど、……色々あって一時的に預かってんだ」

「……ちょっと見せてみろ」


 彼はラキュスから手を離し、レオニクスの手をガシッと掴んだ。そして、ラキュスが(しち)にと渡していた小指の指輪をじっと見つめる。

 一方、やっと解放されたラキュスは、少しごほごほと咳き込むと襟元を整えていた。

 

「ラキュス、痛いところはない?」

「ああ、大丈夫だ」

「良かった。ねえ、レオニクスには悪いけれど、ここは穏便に別のお店に行った方がいいと思うの」

「……そうだな」


 チェラシュカはこそこそとラキュスと話し合う。

 そのとき、少し慌てたようなレオニクスの声が耳に入った。


「ちょ、無理に外そうとするなって! ラキュスのなんだからな!」


 チェラシュカとラキュスがレオニクスたちの方を向くと、レオニクスの指から指輪を外そうとしている店主が目に入った。レオニクスは手を握りしめて抵抗しており、その手はやや赤くなっている。

 こちらの視線に気が付いたレオニクスが、眉尻を下げて困った表情を浮かべた。


「ごめんラキュス……」

「……見るだけなら大丈夫、です」

 

 そう聞いたレオニクスは、ラキュスと店主を交互に見てから仕方なさそうにそっと手を開いた。

 ラキュスは訝しげに店主を見ていたが、レオニクスの手から指輪が店主の手元に渡るのを止めはしなかった。

 手の平に柔らかそうな薄い布を置いた彼は、更にその上にラキュスの指輪を載せて、色々な角度から眺めている。そこから視線を外さずに、彼は口を開いた。


「……そこの妖精」

「……俺?」

「そう、お前だ。この指輪、いつから持ってる」

「卒業したときだから……二十五年前から、です」

「へえー。結構なげえな」


 レオニクスが感心したように、店主の手の平の上の指輪を見ている。

 チェラシュカの爪の幅ほどの太さのシルバーの指輪の裏側には、ラキュスが卒業した時のお祝いに、とセフェルが彼にあげた小さな宝石が埋め込まれている。

 そして、その両隣には魔法陣が刻まれており、彼が指輪を手に入れた時に見せてもらったことがある。

 効果は確か――。


「空気中の魔力の摂取量上昇と、紛失防止か」

「……はい」

「このサファイアを媒介にして魔力耐性を高め、最大限の効果を発揮するように調整しているのか……。お前、この魔法陣刻印はカスタムだろう。何故もう一つを紛失防止にした? 常に嵌める前提の指輪なら失くすこともないだろうし、魔法を使うにあたってもっと実用的なものを選べただろう」


 その問いかけは、表面上は責めているようにも聞こえるが、声色を聞けばただ不思議に思って尋ねただけのように思えた。


「失くしたくなかったから。……絶対に」

「そのために貴重な二枠の内の一つを埋めたのか?」

「当然……です」

「そっか、金属の指輪だと魔法陣三個以上入れると干渉するもんな。……ってかそんな大事なモン、オレに預けんなよ!?」


 頷きながら二人の会話を聞いていたレオニクスが、思いの(ほか)大事な指輪だと知って焦っている。


「他にちょうどいいものが無かったし、それに……レオニクスなら大丈夫だと思ったんだ」

「いやそもそも、(しち)がいらねえんだよ……」


 呆れた様子のレオニクスを余所に、店主はなるほどな……と呟いており、何か納得したようだった。


「ふー……わかった。お前は、魔道具を大切にする奴なんだな」

「……まあ、はい」

「ならば、よし! さっきのお前の言動は、水に流してやろう」


 ふっと笑顔を浮かべた店主は、片眼鏡を外してカウンターの上に置いた。

 そこでレオニクスが、納得がいかないことをありありと語気に滲ませ「水に流すってお前な、もっと他に言うことがあるんじゃねえのか?」と言う。


「他?」

「いい、俺は気にしてない。その人の言うこともわかるし」


 さっきまで激昂していたのが嘘のような態度を見せる店主に、チェラシュカとしても納得しきれない思いを抱く。

 ラキュスの服の裾をくいっと引っ張り、小声で「本当にいいの?」と聞くと、こちらを振り向いた彼が一瞬目を丸くする。かと思えば小さく微笑みを浮かべ、チェラシュカの頭を片手でするりと撫で下ろした。

 誤魔化されてしまったように思うものの、彼がいいと言うのなら自分が憤っても仕方ない。そう考えて、トゲトゲした気持ちにそっと蓋をする。


「ラキュスが良くてもオレが良くねえよ! 折角連れてきたのに、二人に嫌な思いさせちまってよ……イテリウスも、腕はいいのに客といつも喧嘩ばっかするしよ……」

「よせって、照れるだろ」

「褒めてねえよ!」

「あー、よし、わかった。わかったって。とりあえず先にこれ、返すぞ」


 店主は指輪を布できゅきゅっと拭き、手の平の上の布に置いてレオニクスに差し出した。気のせいだろうか、その指輪は先程より輝いて見える。

 レオニクスは、受け取った指輪をそのままラキュスに差し出した。それを受け取ったラキュスが「先に食事代を返しておく」と小銀貨を数枚渡していた。そういえば先程お金を崩したのだった。

 チェラシュカはラキュスの後ろから顔を出し、「レオニクス、ほんとにありがとね」と声をかけておいた。


「で、だ。効果の追加、するだろう? むしろしない理由がないよな。そのままだと魔獣に効果がないからな」


 カウンターに身を乗り出した店主は、目を輝かせてラキュスに尋ねている。最初よりもやや饒舌になった彼は、明らかに楽しそうに見える。

 色々あったものの、なんだかんだレオニクスが紹介してくれた人ではあるし、今後のことを考えればやってもらったほうがいいとは思う。ちら、とこちらに目を向けたラキュスに、チェラシュカは小さく頷いてから口を開いた。


「それはおいくらですか?」

「本来なら、元の魔法陣の読み取りと不干渉処理、魔法陣の刻印と定着代として三万エンは取っているところだが……」

「ぼったくりすぎじゃねえか?」

「馬鹿言うなよ。お前はむしろ取らなすぎだろ。知識や技術にはそれだけの価値があるってのは、レオニクスだってわかってんだろ?」

「そうだけどさ……」

「あとは、それなりにいい値段の方が客としても安心できんだろ? 高価っつうのはそれだけで説得力を生むのさ」


 彼の言い分に、レオニクスはそうかあ? と首を傾げている。

 一方で、チェラシュカは確かに彼の言うことも一理あると思った。高いものの性能が必ずしも良いとは限らないが、安いものは性能もそれなりなのかなと思ってしまうものだ。

 

「それに、……ラキュスっつったか? と、そこの……」


 こちらを向いた店主とぱちり、と目が合ったので「チェラシュカです」と名乗る。


「チェラシュカな。その二人は魔獣除けの魔法陣を知らないんだろ。妖精がどの程度魔法陣に精通してるかは知らないが、この国でだってそれを知っててかつ上手く付与できる奴はそういないんだから、希少性にだって価値はつく。俺の見立てで言えば、需要と供給の釣り合った値段が三万かそこらってとこよ」


 魔導具も物によって値段がピンキリである。魔獣除けの魔導具の相場はわからないが、ラキュスが用意してくれた坐する守護(プラエシディウム)が二万エンしないくらいだったはずなので、まあまあ高いな、程度の値段である。

 

「それをだな、今回はまあ……俺も言いすぎた部分もあったし、詫びと言ってはなんだが……、三千エンで引き受けてやろう」


 それを聞いたチェラシュカは、思わずラキュスと顔を見合わせた。

 そんな二人の気持ちを代弁するかのように、レオニクスが呆れたようにこう言った。


「お前さっき、価値あるものにはそれに見合う値段をって感じのことを言ってなかったか? 値引きが極端すぎんだろ」

 

 九割引きというのはあまりにも安すぎないだろうか。そう思ったチェラシュカは、レオニクスに同意を示すように小さくこくこくと頷いた。


「勘違いするなよ。どこぞのぼったくり店みたいに、元値をクソ高くして値引きでめちゃくちゃ得に見せてるわけじゃない。魔導具を大切に扱う奴に、俺の手が入ったものを使ってもらうことが、俺にとってそれだけの価値があるってこった」

「ふうん……? イテリウスなりの理由があるってのはわかったけどよ、逆にこういう場面って普通タダにするとかじゃねえのか?」

「そりゃお前、仕入れ分くらいはもらわにゃな。俺がマイナスになったら、ただのプレゼントになるだろ」

「……いや、うん。そうなんだけどさ。……まあいいか」


 レオニクスは小さく溜息をついており、彼の言い分を理解することを諦めたようだ。このお店は、彼の複雑なこだわりに則って運営されているということがよくわかる一幕だった。

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