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「三上、一年の女子が呼んでるぞ。あの入り口のところにいる子」


 バスケ部の練習を終えて体育館の掃除をしていると、野川に声をかけられた。

 野川の視線の先には、見覚えのある女子がいる。話したことはないし名前も知らないが、たまにバスケ部の練習を覗いているのを見かけたことがある。

 何の用かと尋ねたら、二人きりで話したいことがあると言われた。

 そして、誰もいない体育館裏に移動すると、告白された。

 俺のことが好きだと言う彼女の声はかすかに震えている。きっと緊張しているのだろう。

 この子も、この間大河に告白していた子も、みんなすごい。

 俺にはまだ好きな人に好きだと言う勇気はない。


「悪いけど……」


 と、断ろうとした瞬間、背中にずしりと重みを感じた。


「ごめん! 流唯は誰とも付き合えないんだ!」


 重みの正体は大河だった。

 俺の首に腕を回して抱き着きながら、なぜか勝手に告白を断っている。

 突然現れた大河に驚いた女子は、逃げるように去って行ってしまった。


「流唯はやっぱモテるよなぁ。ちょっとでも目を離すと、すぐ告られんだから」


「おい、邪魔すんなよ。あんな断り方したらかわいそうだろ」


「流唯だって、勝手に告白断ってただろ? それに、流唯が誰とも付き合わないように、俺が守らなきゃと思って」


 ふと、大河の言葉に違和感を覚えた。


「何で?」


「えっ?」


「変なヤツから守るっていうならまだ分かるけど……誰かと付き合うのは、俺の勝手じゃないの?」


「確かに……何で、だろうな……」


 大河は俺の肩に鼻を埋めて、じっと考え込んでいる。


「そろそろ戻って、帰りの支度するぞ。つか、顔近いって」


 首を傾けて、肩にある大河の顔に視線を向けた。

 目が合うと、大河は慌てて俺からぱっと離れる。


「そ、そうだな……帰ろう!」


 急に大河の様子がぎごちなくなった。それに、ほのかに耳に赤みがさしている。

 最近の大河はいつもこうだ。

 過保護なのはあいかわらずだが、目が合うとそらされるし、前より会話が少なくなった。

 俺に触るのはきっと無意識なのだろう。

 いつもこうして抱き着いたり、頭を撫でたりしては、急に我に返ったように慌てて離れていく。

 教室でも以前は休み時間のたびに俺の席に来ていたのに、最近はなぜか自分の席からスマホにメッセージを送ってくるようになった。


「目の前にいるんだから、直接言えよ」


 と、文句を言えば、焦ったような顔で「ごめん」と謝られる。

 こんな風に距離を置かれているかと思えば、野川や他のクラスメイトが俺に話しかけてくるたびに会話を遮って、俺を独占しようとしてくる。

 そんな状態が続いたある日。

 ホームルームを終えて体育館に向かおうとしたら、大河がまだ席に座っていた。

 終わったことに気づいていないのか、頬杖をついて宙を見つめたままぼんやりしている。


「タイちゃん、練習行くぞ」


 と言って、肩に手を置くと、大河はいきなり「うわぁっ!」と叫んで、イスから立ち上がった。


「ご、ごめん! ぼーっとしてて……」


 大河はかすかに頬を赤らめて、目を泳がせている。


「驚きすぎだろ。そんなんで、日曜の三回戦大丈夫なのかよ」


 俺が何気なくつぶやいた言葉に、大河はハッとしたような表情をしてうつむいた。


「流唯、ごめん……すぐに行くから、先に体育館行ってて」


 いつもどこに行くのにも俺に付きまとっていた大河が、初めて別行動を提案した。

 それから俺たちの間に会話はなく、俺は一人で練習に向かった。

 翌日、ついに大河と登下校が別になった。

 理由は分からないが、試合が終わるまで一緒に行けないと連絡がきた。

 一緒にいる時間が減り、会話もなくなったが、スマホにメッセージだけは変わらず送られてくる。

 今何をしているのかとか、危ない目に遭っていないかとか、田んぼのそばに大きな石が落ちていたから気をつけろとか。

 全部、直接話せばいいのに。


「三上と竜ケ崎って、最近イチャついてないけど喧嘩してるの?」


 授業の合間の休み時間に、野川が俺たちに向かって言った。

 一瞬、大河と目が合ったが、あからさまにそらされる。


「べ、別にそういうんじゃねぇよ。俺、飲み物買ってくる」


 大河は不自然な様子で立ち上がると、教室から出て行った。


「はぁ……二人の仲が悪いと、なんか調子狂うんだよなぁ……」


 野川はため息を吐いている。

 喧嘩しているわけではないのだが、今まで俺たちは常に一緒にいたし、大河の俺に対する過保護はクラスで有名だったから、周りからはそう見えるのだろう。

 それに、大河に話しかけづらくなってしまったのは事実だ。

 頬杖をついて、窓の外に目を向けた。

 窓の外からウグイスの鳴き声が聞こえる。鳥には詳しくないが、ウグイスの声だけは分かる。


「ウグイスにはホーホケキョだけじゃなくて、他にもさえずりがあるんだって。じいちゃんが言ってたんだ」


 と、小学生の頃、大河が教えてくれたからだ。

 大河は友達をやめないと言ってくれたけど、やっぱり俺がゲイであることを気まずく思っているのかもしれない。

 正義感の強いヤツだから、俺と一緒にいるって約束を守るために、無理しているだけなのかもしれない。

 俺と一緒にいたくないのなら、嫌いになったのなら言ってほしい。

 もうこれ以上、俺を期待させて、苦しめないでほしい。

 俺も大河を苦しめてまで、そばにいてほしいとは思っていない。




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