モノサシ奏者の少女と異色演奏同好会 2話
第四章『二人の先輩』
「じゃあ一人こういうの好きそうなやつ知ってるんで、その子呼んできますよ」
「ほんとに!? ありがとう! 助かるよ」
「入ってくれるといいですけどね……」
私がそう言うとすかさず奏佑先輩が発した言葉に一瞬戸惑った。
「それじゃあ入ってくれるように素晴らしい演奏を見せてあげないとね」
……え? 私もやるの?
「私まだはじめて3日とかなんですけど……」
「これから練習するんだよ。これから」
「これからって何を……」
「最近流行りの曲とか? 好きな曲選んでいいよ!」
「は、はぁ……」
ぶっちゃけこの人の勢いにはついていける気はしない。でもそういうところのおかげで元気が出た気がした。
「じゃあ、まずは曲を決めていこうか。その琴音ちゃんって子はどういう曲聞くの?」
言われてみればあんまり曲を聴いているイメージはない。でもあいつオタクだから……。
「音ゲー曲とかじゃないですかね。あいつオタクなんで」
「音ゲー曲…… テンポ高いの多くない? 多分君にはまだ早いよ……」
なんで知ってるんだよそんなこと……。
意外とこの人もオタクなのかもしれない。
「じゃあアニソンとか?」
「そうだね。そっちのほうがいいかも」
音ゲーの曲ってテンポ高いんだ……。
――――
結局、奏佑先輩が選んだ最近一億回再生を突破してニュースにもなった曲を演奏することになった。
――部活の終了時刻も近くなってた頃、先輩に声を掛けられた。
「計子ちゃん」
「はい」
「崖キープ意識できてる?」
あ、完全に忘れてた。
「わかんないかもだから一応説明すると──」
「わかります! 鍋敷きのはじっこらへんで常に指をキープしておさえとくことですよね!?」
「あ、うん。その通り」
最悪。絶対引かれたぁ……。
「分かってるっぽいしあとは無意識にできるようにすることだね」
「あ、すみませんつい……」
「ううん。気にしてないよ! 計子ちゃん知識はあるからあとは練習がんばって!」
引くどころか応援をされた。
よかったぁ……。
「がんばります!」
先輩がクスクスと笑っていたのできょとんとした顔をしてしまった。
「じゃ、鍋敷きはあそこの棚でカエルトーンはそこだからあとよろしくね~ばいばーい」
(……? あっ)
こいつ私に片付けさせるつもりだな?
「ちょっと!? 待ってくださいよ先輩!」
これから階段を降りようとしている彼を追いかける。
「おお、まじで? あんな部活誰も入んないでつぶれると思ってたよ…… ごめんな」
「正直僕も奇跡だと思ってるよ」
先輩の友達かな?
邪魔しちゃ悪いな……。
「あ、計子ちゃん! ちょっと来て!」
「あ、はい!」
先輩が話し始める。
「この子がさっき入部してくれた秤計子ちゃん! 可愛い後輩だよ」
先輩の友達がすぐさまボケる。
「やっぱお前年下好きなのか……」
「誰がロリコンクソ眼鏡じゃい!」
そして奏佑先輩のツッコミ。
二人はかなり仲がいいようだ。
「秤 計子です…… えと、お世話になってます」
「あはは! そんな固くなんないでよ!」
そりゃ緊張するでしょ…… 先輩の友達と話すなんて。
「ごめんね、奏佑結構変なヤツだから相手にするの疲れるかもだけどまあ暖かく接してあげてね」
「大丈夫です」
「時間取っちゃったお詫びにジュースおごってあげるね」
やった!
そう思ってお礼を言う。
――――
あれから話しが盛り上がってしまい、二時間ほど過ごして先輩たちとの楽しい時間が終わった。
「それじゃ、奏佑と秤さんまたね」
「ありがとうございました~!」
「うい」
先輩二人の掛け合いを見てなんだか羨ましく感じた。
「それじゃ、計子ちゃんもまたね」
「はい! よろしくお願いします!」
「あ、結局ごはんまで奢って頂いてすみません。 ごちそうさまでした。」
「いいのいいの~」
「ありがとうございます」
「じゃ、暗くなるから気をつけてね」
「はい! また明日!」
そう言って奏佑先輩と別れて家に着く。
「ぬわぁ~ん。疲れたよぉ~」
部活が思ったよりキツくて今でもびっくりしている。
「お風呂入ってさっぱりするかぁ~」
第三章『部成立』
湯船に浸かって一日の疲れをすべて流しながら、今日のことを振り返った。
異色演奏同好会との出会い、奏佑先輩との出会い、新しい趣味との出会い。
これからまた部活に行って好きなことをできると考えると、明日への期待が止まない。
「あ、入部届出してないけど顧問の先生って誰なんだろう……?」
明日先輩に聞こうっと。
――――
風呂を上がって晩御飯を計太と食べる。 さっきおごってもらったけど時間が経ってさすがにお腹が空いた。
うちは両親共に夜勤でなかなかこの時間に帰ってくることはない。
この前母親が居たが、それも体調を崩してしまっていたからだ。
「「いただきます!」」
直後に計太が口を開いて続ける。
「そーいえば最近学校どうなの?」
「なんなのそのお母さんみたいな質問」
「今日も帰ってくるのちょっと遅かったじゃん」
「あー、部活の先輩とその友達と話してただけだよ」
「え! ねーちゃん部活はいったの!?」
「そりゃあ私も青春はしたいし……」
「あーね」
適当に言ったのに納得しやがった……。
「やっぱり中学の時みたいに吹奏楽部?」
「は!? あんな部活二度と入るもんか」
「おう…… なんかごめん……」
ちょっと言い過ぎたかも……?
「んで、何部?」
「異色演奏同好会」
「あー……昨日のあれ?」
「そうそう」
「あれに部活なんてあったんだ……」 と言わんばかりの顔でうなずく。
「正直私もびっくりしたかな、だってあんなのを真面目にやろうとする人なんて普通いないじゃん?」
「でもねーちゃんそこに入ったんでしょ?」
「そうだね。 仲間が私以外にもいたみたい。」
「その先輩とねーちゃん以外は?」
「いるわけないじゃん」
「あれま……」
「でも琴音を呼んでみようかなって思ってる」
「え、あの頭おかしいねーちゃんの幼馴染の?」
「頭おかしくはないでしょ」
「だってあいつ初対面の相手に後ろからいきなり声かけて脅かすんだぜ!?」
「あんたが私の弟だったからだよ。ほかの人にはしないから」
「ならいいけど……」
そんな話をしているうちに食事も済んでしまった。
「「ごちそうさまでした」」
「じゃ、私練習したいから部屋もどるね」
「俺もネッ友待たせてるから急がなきゃ。おやすみ」
「あいよ」
自室にて
「貯金が…… 1、2。 二千円と……」
「!? なにこれ……」
貯金箱を振る。
「カランカラン」
「はぁ…… ぜったいすくない……」
一応なかのお金を出してみる。
「うう…… 数えなくてもわかるよ……」
でてきたのは銀色の硬貨が五枚と茶色の硬貨が三枚だけ。
「233円……」
これじゃ今日のおかえしどころか鍋敷きすら買えないよぉ!
「諦めてモノサシやろっと……」
「べんべんっ」
ちょっと早い曲やってみようかな?
「BPM240……」
※BPM=一分間の拍数 曲のテンポ
「うおおお!」
「ベベベベベベベべ」
「うああああ!」
シンプルに指攣った。痛い。
「もうやだ…… ねる……」
ベッドに向かって小走りしたら泣き面に蜂と言わんばかりに机の角に小指をぶつけた。
「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!!」
うぅ…… このまま不幸が重なって私死ぬのかな…… ぐすん……。
全てが嫌になって床に倒れこんでしまった。
足音が聞こえる……。
誰? 死神?
「ねーちゃん何してんのさ……(笑)」
弟がこっちをゴミをみるような目で見下ろす。
「!?!? ああああ!!!!」
「うお……」
「見たな!? この私の醜態を!!!!」
「叫び声が二回も聞こえてきたから駆けつけてきたのに…… なんで俺がこんなに攻められないといけないのさ」
「うううう」
「何があったのさ……」
「つくえにぃ…… こゆびさんぶつけたの……」
「アホくさ」
「ああ!?」
「アホくさ」
「もういいから…… 出てって……」
「お大事に(笑)」
「うぅ……」
計太が帰った後、今度こそはとベッドに飛び込む。
「あ! 琴音!」
完全に勧誘するのわすれてた。 まだ起きているといいけど……
「プルルルル……」
「ピ!」
お、出た。
「ふぁい…… どうしたの~? けーちゃん」
「琴音部活探してたでしょ!?」
「おわぁ…… 急に大きな声出さないでよ~ びっくりしたなぁ」
「ごめんごめん。 で、まだ見つかってないよね?」
「それはけーちゃんもでしょ。 もしかして見つかったの!?」
「うん。 でもね、私含めて部員が二人しかいなくてね、三人集まんないとつぶれちゃうんだって」
「いや、入るよ! 私けーちゃんとおなじ部活がいいかも!」
「ほんとに!?」
「うん!」
「じゃあ明日放課後音楽室前集合ね」
「は~い! じゃ、用事はそれだけ?」
「うん。眠そうだったし切っていいよ。」
「おやすみけーちゃん」
「うん」
「ピ!」
こちらから切る間もなく、向こうが通話を終了した。
思ったより話が早くて助かった……。
翌日放課後
「やっほ~!! またせちゃてごめんね~」
「大丈夫だよ。今来たとこだから。 それに先輩もまだ来てないし」
噂をすれば影。 後ろから先輩がやってきた。
「お、この子が例の?」
「そ! 湊 琴音! 私の幼馴染!」
「湊 琴音です! よろしくお願いしま~す!」
「萬 奏佑です。よろしくね!」
「ところでこの部活って何部なんですか?」
「異色演奏同好会だよ」
「いしょく……?」
「『身の回りにあるものや楽器ではないものを使って曲を奏でること』だよ」
「まあつまり文房具とかで演奏することだね」
「わぁ! すっごい楽しそうかも!」
「「楽しいよ」」
「お、おお。ハモるくらいには楽しいんだ……」
「私はモノサシで演奏しててね~ 奏佑先輩はゴミドラムメインのいろいろだよ」
「すご~い! ゴミドラム…… うん! すごそう!」
なんて会話をしている間に奏佑先輩が部屋の鍵を開けた。
ドアを開けて続ける。
「ようこそ! ここが異色演奏同好会の部室だよ! ……散らかってるけど」
「おお! なんかいろいろある!」
「僕の家から持ってきたコレクションみたいなもんなんだよね。えへへ」
「そこのワイングラスは……?」
「あ、これ水入れないといけないんだ。 グラスハープって言ってとてもきれいな音が出るんだよ」
「へぇ~」
「水入れてくるから、計子ちゃん、ほかのもの紹介しといて!」
「え、私!?」
でた。奏佑先輩の無茶振り。
「まぁ…… はい」
「がんばれけーちゃん!」
「これがカエルトーンっていって、なんかオタマジャクシのしっぽみたいなとこ押しながらこうすると音が出るんだよね……」
「かわいい~!」
「これがね……」
そうこうしているうちにグラスにみずを注ぎ終わったみたいだ。
「おわったよ! 多分二人に演奏してるとこ見せるのは初めてかな?」
「ですね」
「私も初めて見た~」
「じゃあ演奏するね。」
そういって指先に水を付けて、ワイングラスの縁をこすると、グラスハープの名の通りハープのような透き通った擬音では表し難い神秘的な音が鳴った。
「……!?」
珍しくのんびりやさんの琴音が目をまん丸くして固まっている。
先輩の演奏が終わり、狭い教室にたった二人分の拍手が溢れる。
「これって私もできますか……?」
「ちょっとコツがいるけどできると思うよ」
「おお」
「こっちにおいで、やり方教えるから」
「……! はい!」
ここまで目を輝かせている琴音は初めて見たかもしれない。
先輩からやり方を教わっている琴音を見ると、何故かきのうのことなのに自分もこうだったな、と懐かしくなってしまう。
「そうそう!」
琴音がグラスハープで音を出す。 先輩ほどではないがとても綺麗な音だと思った。
「すげぇ……」
「やった! けーちゃんにすごいって言われちゃった!」
「すごいよ。君才能あるよ。」
「本当ですか~!? やった~」
「ほかの楽器によさげなのあった?」
「これがいいです! コップハープ!!」
「グラスハープね。君才能あるから頑張ってね」
「グラスハープ、すっごい綺麗だったよ。」
「うん!」
「じゃ、グラスいっぱいあるから頑張って音覚えてね」
「ひゃ!? ほんとだ! よく考えたらこれ全部覚えんの!?」
「頑張れー」
「がんばる……」
「大丈夫。たった2オクターブ分24こ覚えるだけだから」
「ひいいいい!!!!」
「あはは……」
無事に部も成立したのでかなり安心した。
個々で好きな曲をやって練習をしていたら終わりの時間になった。
「楽しかったねけーちゃん!」
「よかった」
「僕もちゃんと部が成立して安心してるよ。 ありがとうね」
「いえいえ~!」
「次の部活では文化祭で発表する曲探さないとね。」
「ですね……」
「まさか今日連れてくるとは思わなくて琴音ちゃんに見せる演奏の候補のリストつくっちゃったよ……」
「あ、完全に忘れてました。 すみません」
「正直断られるんじゃないかってちょっと不安だったよ……」
「私は琴音ちゃんがいるならどんな部活でも入るよ?」
「あはは……」
奏佑先輩困ってるって……。
「そういえば先輩」
「ん? どうしたの?」
「顧問の先生ってどなたなんですか?」
自分自身、この学校に入って間もないからだれがどんな先生かなど全く把握していない。
「あー……」
少し困っているように続ける。
「それがちょっと難しい先生でね……」
「どんな先生なんですか?」
「とりあえずご飯おごってあげるからファミレスいこっか……」
すいかばーです。三ヶ月も開いちゃってすみません。
今回は湊琴音が入部してきてハッピーだったけれど顧問がちょっと……? みたいな終わり方です
計子のキャラクター設定について少し話しましょうかね。
秤 計子 (モノサシははかるものだから計るとか秤を使った名前。単純!)
高校一年生
身長 154cm (作者の実の身長)
体重 秘密
誕生日 7月1日(最も演奏に使われていると思われるモノサシのメーカーであるシンワ測定の創業日)
趣味は一話初期では探している段階。 現在はモノサシ演奏
弟の計太を持っていて、仲間はどちらかというといい方です
三話もおたのしみに!