モノサシ奏者の少女と異色演奏同好会 1話
第一章『趣味』
『もし、明日学校や仕事がなかったらあなたは何をする?
もし、明日時間が余っているのならあなたは何をする?
明日、世界が終わるという予言があったら、何をする?
私は答えられない。
でも、『答えられない』ということには意味があると思う』
「……っあー! これもだめだ!」
机の前にひとり。ディスプレイと睨めっこをしている私。
趣味探しで小説を書いてみようと思っているが、気に入るものが一切できず導入だけで詰まっている。
「なんでこうも気に入るものが書けないんだ……? 私才能ないのかなぁ……」
まあはっきり言うと文才なんてものは微塵もないし、そこまで本気にはなれてない。
「……にゃー」
窓の外の猫が鳴く。こっちを見ているわけではなさそう……?
あっ、窓半開きだ。だから猫の声なんてきこえたのか……
「キミ、どこみてるの?」
猫の視線の先を見る。
「やっべ……もう4時だ。明日学校なのに……」
「教えてくれたの? ありがとね!」
まだせいぜい遅くて9時くらいだとおもってたのにな……。
急いでベッドに飛び込む。机の上のパソコンは開いたままだ。
「おやすみなさい……誰もいないけど」
翌朝……
「いっけなーい遅刻遅刻ー!」
「……ってやってたらイケメンがぶつかってくれたりしないかな」
まあそんなこともあるわけないんですけどね。
無事に間に合ったけど朝ごはん抜いてきたから倒れそう……。
「お…… おはよう…… ございます……」
「大丈夫か? 二日酔いのおっさんが無理したみたいな顔して……」
「あ、はい……」
先生だ。なぜか生徒からの人気がある。
ぴちぴちのJKに二日酔いのおっさんとか言うようなやつなのに。
(はぁ……疲れてそんまま寝ちゃいそう……)
「……い」
ん……?
「……ちゃん!」
聞き間違えか?
「けーちゃん!!!!」
「はっ!!!!」
「うわぁ! びっくりした……」
「ごめんごめん…… 私寝てた?」
「うん。朝二日酔いのおっさんが無理したみたいな顔して席ついてすぐに寝ちゃってたよ」
お前も二日酔いのおっさんみたいとかいってくんのかよ……。
「……今! 今、何時間目!?」
「これから2時間目だよ。ここ男子の着替え場所だからみんな計子ちゃんが起きるの待ってたんだよ……」
「うわ!みんなごめんなさい! 今出てくから!」
……体操着家に忘れたな。
「トホホ…… みんなに迷惑かけた挙句見学か…… 掲示板でもみてよう……」
剣道部にバスケットボール部…… ここにいるやつら嫌なんだよな……。
文芸部? ……なんか某ゲーム連想しちゃって嫌だな……。
部活も入んないでいっかぁ…… 中学のとき吹奏楽部入って楽器が重くて大変だったしやめとこう。
……趣味かぁ。
ボーっとしてたらいつの間にか授業が終わっていた。その後も特に何もなく帰宅した。
第二章『出会い』
「はぁ…… やることないな……」
シクシク動画でもみよっと
「なにこれ?」
画面に映ってきた『【モノサシ演奏】』
という文字を思わず二度見した。
だってこんなの見せられたら気になっちゃうじゃん?
みてみるか……。
その動画では最近流行りのアニソンを定規で演奏していた。
「小学生とかがふざけてやってるのは見たことあるし私もやったことはあるけど……」
その動画は格がちがった。まるでそれが本物の"楽器"であるように正確な音程で、ただの文房具だとは思えなかった。
「指はっや…… なんでこんな早く動かして音正確なんだよ……」
「そもそもどうやって音が変わってるんだろ……?」
もう何本かその人の演奏を見てみるうちに、気づけば1時間が経過していた。
「ちょっとやってみようかな……?」
「ぺんっ」
「……?」
「ぺんっぺんっ」
音が…… なんというかアホっぽい。
「なんで……? 動画と何が違うの……?」
「ぺんっ」
「あっ…… 抑え方……」
私は手のひらを開くようにして定規を抑えていたけれど、その人は親指以外の四本の指で抑えていた」
「ぺーんっ」
「おっ! ちょっと良くなった!」
「でもなんか違うんだよな…… 鋭くないって言うか」
私が使っているのはプラスチックのへなへなな定規だ。
でもこの人の定規は金属?っぽい光沢がある。
「これ素材で音変わんのかよ……」
たまたまうちの親父は大工だ。たぶん金属の定規の一本や二本はその辺に転がっているだろう
「……あった」
「べんっ!!」
あれ…… あの動画に近いのはわかるんだけど音が全然伸びないな
まあこれでいっか……
「なんか練習してみよっと」
「君が代とか……」
「これどこでどの音が鳴るのかわかんないし動かすのくっそむずいわ……」
「ご飯だよ。ねーちゃん」
「ひっ!!!」
私の弟、計太が後ろに忍び寄って声をかけてきた
「いきなり声かけてくんなって言ってるでしょ!?」
「あぁ…… ごめんごめん」
「ってかそれなにしてんの?」
「演奏。」
「は?」
「演奏。」
「演奏……?」
「うん、演奏。」
「とうとうウチの姉御も狂ったか……」
「姉御って言うな! ってか狂ってないわ!」
「いいから早く来てよ。お母さんカンカンだよ」
「やっべ」
ウチの母はキレたら誰の手にも負えなくなるタイプだから急がないと殺されることを覚悟しておいたほうがいい。
(ってかこれなんで音変わるの?……)
「明日学校ないし色々調べよっと」
今日は土曜日。学校もないし予定もない!
昨日の『モノサシスト』についていろいろ調べるぞ……
まずは音出しから……。
「べんっ」
「あ、ねーちゃんまたへんなのやってるの?」
いきなり話しかけてくんなっつーの
「そうだね。へんなのやってる」
「なんかいつもと違うね……」
「なにが?」
「いつもだったら『変なのとかいうな!』とか言ってキレるのに」
「いやぁ…… 私も変なのだって思うもん」
「じゃあなんでそんなのを……」
「わかんない」
確かになんでこんなのをやってるんだろう?やっても意味があるわけじゃないのに。
「まあ趣味ってそんなもんか」
「?」
「あぁ、ごめん独り言」
「ふーん……?」
「まあ頑張って。ねーちゃん」
そういって計太は私の部屋をあとにした。
色々調べて分かったことがある。
まず、ガラス製の鍋敷きを敷くと音が伸びやすいということ。(動画でもよく見たら鍋敷きを敷いてた)
次に、抑える側の手の、指を机や鍋敷きのはじっこに常にキープしないと割れたような音が鳴ってしまうこと。
最後に、奏法にもいろいろあるということ。
身体に対して定規を垂直にに抑える『縦弾き』
身体に対して水平に抑える『横弾き』
横弾きの中でも、人差し指だけでなく、親指も使って抑える『すいか奏法』
例として3つ挙げたけれど、まだまだあるみたい。
いろいろやってみて、私は力がないから体重をかけやすい『すいか奏法』に落ち着いた。
えーっと…… だいたい5cmくらいがドかな……?
ってかこれ見ながらやってるわけないか。
感覚で覚えないとだめだなんてむずすぎるよこれ。
「計子ー?」
「はーい!」
「さっきから何の音なの?これ」
「定規だけど……?」
「へぇ…… 面白いわね。どこで知ったの?」
「シクシク動画。」
「今の時代にシクシク動画って……時代遅れすぎない?」
「私はこっちが好きなの。もういい?」
「あ、ご飯何にするの?」
「なんでもいい。」
そういって私は部屋のドアを閉めた。今日は客が多いな……(ゆうて二人だけど)
「あの子があんなに熱心になるなんて……」
モノサシをやる上で大切なことを書き出してみた。
・崖キープ(指をはじっこにキープすること)
・中抑え(いきなり低音になるときに中指に切り替えて早く音を変えること)
・手首ブースト(手首を回転させるようにして速く弾くやりかた)
それと界隈では定規ではなくモノサシと呼ぶこと。
「基礎はこんなとこかなぁ……?」
「今日は疲れたし寝よっと。明日は課題しないとなぁ」
翌日
「っしゃー! 数学おわったからあとは理科の調べ学習だけ!」
「テーマは『音が発生する原理』か……」
数時間かけていろいろ調べてまとめた。
「これを作文風に書くの……? めんどくさぁ」
『音は、空気の振動によって波が発生し、それを鼓膜で聞き取ることによって音を感じることができる。その空気の波の振れ幅を振幅といい、
これが大きくなると音は大きくなり、小さくなると、音も小さくなる。次に、音の高さは振動数と関係していて。この数が多くなると音は高くなり、少なくなると音は低くなる』
……あれ? これって……。
「べんっ」
台から出てる長さが長いと低い…… 確かに長い方が上下に振れ幅ができて空気を揺らせる範囲も大きい……。
「ベンッ!」
短くしたら高くなる…… 短いと張るから振動数もふえるもんな……。
そういうことだったんだ…… メモに追加しておこう。
その後無事に課題を書き終え、ぐったりと眠ってしまった。
教室の前の掲示板に目が向いて、思わず二度見してしまった。
「『異色演奏同好会の部員を募集』?」
「えーと……『異色演奏者あつまれ! 異色演奏同好会部長予定の萬 奏佑です。僕は、この学校で異色演奏を真面目にやって、もっと広めたいと思ってこの部活を立てようと思いました。そもそも異色演奏とは何か、と思う方も多いと思います。異色演奏とは、身の回りにあるものや楽器ではないものを使って曲を奏でることで、ガチャガチャのカプセルやおもちゃの楽器、文房具など様々なものを楽器として使います。部活を立てるのには最低3人の部員が必要なので、もし興味がある方は、どうぞよろしくお願いいたします』」
「『異色演奏』…… 私がやってるのも異色演奏だよね……?」
「ここに行けばもっと深められるのかな……」
午前中の授業は『異色演奏同好会』のことで頭がいっぱいでまともに話を聞けていなかった。
つまらない時間が過ぎ……
「やっとおわった。よし、帰ろう」
「あ、異色演奏同好会…… 活動場所は…… 音楽室のとなりの空き部屋か」
第三章『異色演奏同好会』
(ガラガラ)
空き部屋に入ると眼鏡をかけた男子が顔のついた八分音符のような形の派手な色のものを拭きながら座っていた
「!? 君! 入部希望!?」
「っ……! はい……」
「やった!!」
どうやら彼が部長の萬奏佑らしい。
……教室内にはわけわからんものがいっぱいある。
ワイングラスに水を入れたようなものとか。
電卓も何故か三台あるしお菓子のゴミが散らかってるとこになぜかドラムスティックが転がってる。
「あ、それただのゴミじゃなくてゴミドラムっていうやつだから。」
「は、はぁ……」
私にはゴミにしか見えないが、彼の演奏をきいたらまあ納得できる気がした。
「そういえば君なんかやってるの?」
「あ、数日前からモノサシを一応……」
「お、いいね! そこに一式あるからちょっとやってみてよ」
指を指されたさきには鍋敷きとモノサシがあった。
「大理石はちょっと学校に持ってくるのは難しかったんだよねぇ」
(大理石……?)
机の上に置かれたモノサシを弾いてみる。
「ベイーンッ」
これが鍋敷きを使った音…… 机とはまるで違う……。
「!? それすいか奏法?」
先輩は気づいてるみたいだ。さすがガチ勢……。
「あ、はい」
「その奏法僕が知ってる限りだと開発者とその知り合いですいか奏法の亜種を生み出した人だけなんだよね。」
「自然とやっちゃってたならまだしも、どこでその名前覚えたの? 君初心者でしょ?」
「どこでってネットで……」
スマホで奏法をまとめたサイトを見せる。
「あの人今こんなサイト作ってたんだ」
「そうなんですね」
だれ……? 有名人?
「ところでさ、君なんでモノサシストになろうと思ったの?」
なんでだろう…… とくに意味もないんだよな……。
「なんとなく…… 暇だったから?」
「いいね」
「いいんだ」
「うん」
なんか変な人……。
「あ、自己紹介してなかったね」
「僕は2-Cの萬 奏佑だよ。よろしくね」
「あ…… 1-Eの秤 計子です。……よろしくお願いします」
「うん! よろしく!」
明るい所はけっこう好印象かも。まあ、変な人であることには変わりないけど。
「やっと一人来てくれたけどこれじゃまだ成り立たないんだよな……あと一人連れてこないと」
それなら一人変なことが好きそうな人を知っている。
この前起こしてくれた湊 琴音だ。
「じゃあ一人こういうの好きそうなやつ知ってるんで、その子呼んできますよ」
「ほんとに!? ありがとう! 助かるよ」
「入ってくれるといいですけどね……」
「それじゃあ入ってくれるように素晴らしい演奏を見せてあげないとね」
……え? 私もやるの?
「私まだはじめて3日とかなんですけど……」
「これから練習するんだよ。これから」
「これからって何を……」
「最近流行りの曲とか? 好きな曲選んでいいよ!」
「は、はぁ……」
(これ私やっていけるのかな……)
こうして私の「異色演奏者」への道は幕を開けた。
作者のすいかばーです。
「モノサシ奏者の少女と異色演奏同好会」どうでしたか?
小説は初めて書く全くの初心者ですが、自分の趣味の「異色演奏」
をテーマにした小説なら書きやすいんじゃないか? と思い勢いで書いてみてます。
多分異色演奏をテーマの小説なんてほとんどないと思います。異色演奏者の皆さんほんとにすごいので是非聞いてみてください。
会話が多くて地の文が少ない所は自覚しているので、次からは意識して改善したいなぁと思ったりしています
もし気に入っていただけたのなら二話も期待していてください!