第98話 (86)Ame(A)-2
「おぉ…。闇よ…!」
「光ぃ…!」
「光は嫌だ…!闇をぉ…!」
「あはは!」
カシャカシャカシャ
Sポテトさんはサイバーゾンビの雨グリを満喫していた。サイバーエリアは他エリアとは違い、熱量のあるオタクが少なく、比較的平和な雨グリとなっていた。平和なスペースで思う存分写真を撮りまくる。オタク冥利につきる時間である。
「ゔぅ…。」
「闇を与えよう…!」
「おぉ!闇…!嬉しい…!」
「騙されたな…。それは光…。」
「おぉ…。光は嫌だ…。闇をくれぇ…。」
Sポテトさんは、包帯ゾンビと仮面ゾンビのどこかコミカルなやりとりを見て笑っていた。正直やり取りの意味は全くわからないが、何だかおかしくて笑ってしまう。それにしてもこの仮面ゾンビ、何か既視感がある。この独特の華のあるコミカルな動き、枠からグッと前に出てくる感じ。昔から良く見ていた気がーー。
ーーあ!!ハナさんだ!
Sポテトさんはキュピーンっと閃いた。なぜ今まで気付かなかったのだろう。ハナさんは『アレ』以降、囚人エリアで見かけなくなっていた。なるほど、サイバーゾンビエリアの仮面ゾンビに移動になっていたのか。このゾンビなら顔も隠せるし、注目を集めずに済む。僕くらいのガチオタクでないと、中身には気付かないであろう。ハナさんだと分かっても、やることは変わらない。
カシャカシャカシャ
仮面ゾンビの正体がハナであると気付いたSポテトさんは、先ほどまでよりも熱を込めてシャッターを切るのであった。そう、もじゃ達からの連絡が来ているのにも気付かない程に。
〜〜〜
ーー駄目だ。Sポテさん、全然連絡つかない。
デイちゃんからのメッセージを見た私は、ナイトベアーショーの雨グリが行われているというレストラン横へと急いでいた。文子も向かっているらしく、『エッホエッホ、ナイトベアーの雨グリ場所に向かわなきゃ。』とメッセージが来ていた。
ーーまさか、ナイトベアーの雨グリがあるなんて。
文子もその情報を見た時は横転の横転の大横転したことだろう。そのくらいありえないことが起こっているのだ。基本的にゾンビナイトの雨グリというのは、ストリートにいるゾンビが行うものだ。なので、ナイトベアーショーに出てくるナイトベアーやナイトベアーダンサー達は、ステージの上でしかみることができない。雨の日はショーが中止になるのみで、その代替はない。はずだった。
ナイトベアー達の雨グリがない理由については、UPJオタクの間でも諸説あった。ナイトベアーの着ぐるみが雨で汚れるのを避けるため、ナイトベアー達が人気すぎて人が集まりすぎてしまうため、様々な理由が考察されてきた。しかしそんな考察は無意味だったのだ。今日、その雨グリは行われることとなった。単にタイミングがなかっただけなのか。今まで行われなかったのが益々疑問となる。
〜〜〜
「ナイトベアーダンサーをこの距離で見られるのやばすきる。オタク達息してるか?」
カシャカシャカシャ
私がナイトベアーの雨グリ場所に到着すると、興奮した様子で独り言を呟きながらシャッターをきる文子が既にいた。そして、その視線の先にはナイトベアー一同が可愛くポーズをとっていた。
ーー本当に雨グリがあってる!
実際に目にするまでは、私も半信半疑であった。しかし、目にしてしまった以上信じるしかない。遂にナイトベアー達の雨グリが開催されたのだ。
『ナイトベアー様達の、雨グリは、残念ながら、ありません。彼らは、設定上、雨に、弱い設定、なので。』
テーマパークのコツが唯一発信した出鱈目ではない情報と言われていた、ナイトベアー雨グリ無し説は今日を持って棄却され、コツがやはり出鱈目しか言わないアカウントであることが証明されたのだった。
いや、コツなんかのことを考えている暇はない。グリが終わってしまう前に、私も写真を撮らなければ!
〜〜〜
「いや〜。豊作豊作!」
「2人で決めポーズしてるの可愛くて草。」
雨グリから帰っていくナイトベアー達をしっかりと見送った私たちは、2人とも大満足の顔で話していた。ナイトベアーダンサーのあのポーズがやばかっただの、ナイトベアーの可愛い仕草があざといだの、語る内容は尽きなかった。盛り上がったところで、文子が別のゾンビの撮影に向かうと言って走って行ってしまった。私も誘われたけど、少し疲れたし、お目当てのゾンビももういないので断った。
ーーカッピーさん、どこ行っちゃったんだろう。
『アレ』以降、カッピーさん演じる囚人ゾンビを見ることは無くなってしまった。注目を集めすぎたのだろうか。やっぱり、『アレ』はカッピーさん達が勝手にやったことで罰としてクビになってしまったのだろうか。私の推しはすぐに居なくなるんだなぁ。もじゃもじゃゾンビにカッピーさん。ただゾンビナイトを歩いているだけでも充分楽しいのだが、やはり推しゾンビがいてくれると気持ちの入り方が違う。ふとオールナイトでもじゃもじゃゾンビが復活するという噂を思い出す。もし本当にそうならーー。
「あれ?もじゃちゃん?もじゃちゃんだよね?」
「え?」
突然の声に驚きながら、声がした方へと視線をやるとそこには綺麗な黒髪ロングのストレートの女の子が立っていた。
「あ!カルーアさん!」
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