第97話 (85)Ame(A)-1
「雨だー。」
「雨!ですね!!」
「雨で草。」
「これは忙しくなるぞー!」
私たち3人は横に並んで、庇の下で雨宿りをしていた。天然パーマの私は雨の日は基本的に好きじゃない。その理由は髪のうねりが制御不能状態になり、セットにも時間がかかるからである。それに気圧のせいか体調も良くないことが多い。それらのこともあって、雨の日は憂鬱なのだ。ただ秋は例外である。そうゾンビナイトの季節である秋だけは話が別である。
慎重に時計を確認する。時刻は午後5時を回ったところだ。ゾンビナイトの開始時間まであと一時間弱。隣でソワソワとしているSポテさんに話しかける。
「えー、Sポテさん!応答せよ、応答せよ!今後天候の回復はありそうですか?」
「えー、こちらSポテト、Sポテトです。天気アプリによると、本日中の天候の回復は厳しそうであります!」
「なるほど…!ではーー。」
「雨グリ確定で今これ。」
文子がひと昔に流行ったネットの流行画像の武将の真似をする。いつもなら、古いよ!と呆れ気味にツッコむところであるが、雨でテンションの上がってる私たちはそれを見て大笑いしていた。
「文子〜!面白すぎるよ〜。」
「2人とも!遊んでる場合じゃないよ!」
「はっ!そうだ!役割を決めないと…!」
雨グリは情報戦である。情報を手にした人から勝っていく。オタク達は、毎年の傾向から雨グリの行われる場所の当をつけるのだ。囚人エリアのゾンビはこの辺で、サイバーゾンビたちはこの辺で、と言った具合に概ね決まっているのだ。しかし、当日のオペレーションによって出てくる場所が変更になることも多々ある。それに対応するために情報がいるのである。私達は、雨グリの際パークに散り散りになり、どのエリアのゾンビがどこでグリーティングを行っているのかの情報共有を行う。
「…。じゃあ、私が囚人エリア。Sポテトさんがサイバーゾンビエリアで、文子がピエロゾンビエリアね!」
「他の漏れてるエリアのゾンビ達はどうしようか?各々タイミングを見て、確認しに行く?」
確かに他にも生贄エリアやトイエリア、吸血鬼エリアなどがある。その辺までカバーするには人手が足りない。
「デイちゃんが1人でやってくれるって言ってた話する?」
「流石デイちゃん!」
デイちゃんなら信頼できる。常人なら複数エリアの雨グリ情報を一気に把握するのは難しいが、デイちゃんは常人ではない。スーパーウーマンなのだ。その程度のことは、朝飯前である。彼女なら、どんなに難しい作業でもジェバンニの如く一晩でやってくれるに違いない。
〜〜〜
『サイバーゾンビ、エリアの、雨グリは、毎年、ショップ横で、行われている、ので今年も、ショップ横が、濃厚、です。オペレーションを、細かく、変更するのも、大変なので、変更することは、ないです。UPJも、人手不足で、大変なので。』
「くそ!!コツめ!嘘ばっかり言いやがって!全然ショップ横で雨グリやる気配ねぇじゃねぇか!」
テーマパークのコツというアカウントの言うことを鵜呑みにして、ショップ横でずっと待っていた男が怒り狂っていた。Sポテトさんは、そんな男を横目に見ながら、目的の場所へと向かっていた。
(僕はそこじゃなくて、こっちだと思うんだよねー。)
Sポテトさんが目的地に着くと、何やらスタッフさんが仕切りを作り、雨グリのスペースを形成していた。
ーービンゴだ!!
〜〜〜
ピロン!
『サイバーゾンビの雨グリは、いつものショップ横じゃなくて、シアターの方の庇みたい!』
『Sポテさん!ありがとう!』
Sポテさんからのメッセージに返信するもじゃ。彼女もまた別の場所にて、ゾンビの登場を待っていた。彼女も当たりを引いたようで、眼前には雨グリのための用意がスタッフによって行われていた。
ピロン!
『ピエロの雨グリはいつもの場所で開催してるけど、最前列の人が中々入れ替わらないから、良い場所で見られるかわからない…泣』
文子からメッセージが届く。最前列が入れ替わらないのは雨グリあるあるである。多くのグリーティングでは、最前列の人がずっと場所を独占することを防ぐために1分程度経つと、最前列の人を捌けさせて、2列目の人を前に移動させるということを行うのだ。しかし、ゾンビナイトの雨グリでは、オペレーションや場所的に難しい場合にそういったことが行われない場合がある。そうなってしまうと、最前列の人が自分から移動しない限り、後方で人混みの隙間を縫って撮影しなければならない。これが結構辛い。雨が降っており、傘がレンズに入り込んでしまうため、2列目以降で綺麗に撮影するのは至難の業である。
特にピエロエリア、吸血鬼エリア、囚人ゾンビエリアはオタク人気が高く、最前列をずっと譲らない人が多い。良識あるオタクは数分経つと後ろに譲ったりするが、我の強いオタクは自分が撮影することに夢中で全く譲ってくれない。
ーーこりゃ、ピエロエリアは後から行っても綺麗に撮影出来なさそうかな。
「ゔぅ…。」
「ゔぅあ!!ゔぉあ!!」
そうこうしていると、いつのまにか囚人ゾンビ達が雨グリにやってきていた。その囲みの人数もいつの間にか数十人ほどに増えており、辺りをオタク達の熱気が包んでいた。
ーーきたぁー!!
カシャカシャカシャ
もじゃや周りのオタク達は夢中でカメラのシャッターをきるのだった。なんせ今年初の雨グリである。今年初のお祭りにオタク達の目は燃えさかっていた。
〜〜〜
数分間シャッターを切り続け、動画も沢山撮影したもじゃは大満足の顔をして、囚人ゾンビの雨グリを後にしていた。
ーーいやぁ最高だったな。囚人ゾンビ同士のあのやりとり可愛くて笑っちゃったなぁ。特にあの巨大なゾンビさんが可愛かった。
歩きながら余韻に浸っていると、デイちゃんからのメッセージが送られてきていた。その文章を見て、もじゃは驚天動地の思いであった。
『緊急事態です!ナイトベアー達の雨グリがあってるみたいです!しかも、ナイトベアーダンサー達も出てきてます。場所はレストラン横。』
ーーなに?!
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