第96話 (84)雨傘-2
「じゃあ、タテノはリトルナイトベアーの方お願いね。」
「は、はい、ビッグボス!わかりました!」
「完璧には無理だと思うけど、出来るだけ濡れないようにしてあげてね。」
「は、はい!努力します!!」
大丈夫だろうか?心配である。ナイトベアー達を雨グリの場所まで傘をさして連れていくだけのことなのだが、タテノのことだ。何か失敗しないか、ちゃんと見張っておかなくてはならない。
「それにしてもこの傘大きいですね。」
「まぁ、着ぐるみが入るくらいの直径になってるからねー。」
「今回の雨グリのために、こんな傘まで用意してるんですねー。」
「…。そんなわけないでしょう?雨グリってのは、何もゾンビナイトだけの特別イベントじゃないのよ。」
「え?そうなんですか?!」
「そうよ。普段やってるキャラクターのグリーティングで雨の時も、似たようなことはするのよ。」
「そ、そうだったんですね。」
当たり前みたいに言ってしまったけど、タテノはこのゾンビナイトの期間から働き始めたバイトだということを思い出す。今年は雨も降らなかったし、雨グリは初体験だろうから、タテノが知らないのも当然のことだ。
「ビ、ビッグボス!グリーティングのスペースにシート設置したので、いつでも大丈夫です!」
「ありがとう、あかねちゃん!」
あかねちゃんが戻ってきて、私に雨グリスペースを確保したことを手早く伝える。あかねちゃんも雨グリは初体験のはずなのに、戸惑うでもなくテキパキと準備を行っている。あかねちゃんとタテノって同時期に働き始めたんだよな?どこでこんなに差がついたんだ。
「あかねちゃん、よくそんなにすぐ出来たわね?」
「他の先輩に雨グリのことを聞いて勉強してたので!ぶっつけ本番でしたけど、うまくできてよかったです!」
タテノ、聞いてたか?あかねちゃんはもうどこに出しても一級品の働きをするスキルを身につけているぞ。2人の時給が同じことに申し訳なさを感じる。あかねちゃんは今度何か美味しいものでも奢ってあげなければいけないな。
「よし!じゃあそろそろ行きましょう!ミッキーさん達大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。だが、もうここではナイトベアー様と呼べ。」
「…。はい、ナイトベアー様大丈夫でしょうか?」
ふりふり、ぐっ!
ミッキーさん改め、ナイトベアー様はOKのポーズをとっていた。後ろにいるカッピー改め、リトルナイトベアーもOKのポーズをとっている。
「じゃあ、ナイトベアー様は私の傘、リトルナイトベアー様はタテノの傘でグリーティングに向かいます。場所はレストラン横の庇です。段差に気をつけてくださいね。」
〜〜〜
「お疲れ、ブラザー!初めてにしては中々良かったぞ。」
「はい!ありがとうございます!」
「あと30分くらいしたら、またグリだから休んどけ。」
「わかりました!」
僕は始めての雨グリから帰ってきて、椅子に座りながら考えていた。雨グリ、思ったよりも楽しいかもしれない。ミッキーさんがリードしてくれたからということもあるが、楽しくポーズを取ったりしているうちに、いつのまにかグリーティングの時間が終わっていた。スタッフの方が「終了でーす」と言った際も、もう少しやりたいのにと少し残念であった。そんな中、ふと一つの思いが頭をよぎった。
ーーこれ、ゾンビだったらもっと楽しかったかもしれないな。
リトルナイトベアーとしてグリーティングをしながら、横ではナイトベアーダンサーズというダンサーの先輩方もグリーティングを行なっていた。ナイトベアーダンサーズとはナイトベアーショーに出演しているダンサー達のことで、設定上はナイトベアー様に従うゾンビ達である。彼らのグリーティングを横目に見ていると、ゾンビとして互いに絡み合いながら、ポーズを取ったり、時にはカメラを構えたお客様に話しかけたりしながら、比較的自由にグリーティングを楽しんでいた。もし自分が今も囚人ゾンビとしてーー。いや、仮定の話はやめよう。今はリトルナイトベアーとして頑張るしかない。
ーーそれにしても。
グリーティング場所までは、ビッグボスを始めとしたスタッフの方が傘をさして連れて行ってくれたのだが、その際先ほどゾンビが傘さすなんてありえないとハナさん達に爆笑されたことを思い出した。ゾンビが傘さすのも、スタッフの方に傘さしてもらうのも大差ないんじゃないか?僕の傘ゾンビ発言はそんなにおかしいことだったのか?あそこまで馬鹿にされなければいけないことだったのだろうか。
どうも腑に落ちない思いを抱えつつ、次のグリではどんな可愛いポーズをとろうかと考えているカッピーであった。
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