第94話 (82)Ame(B)
「雨だー。」
「雨ですね。」
「雨だねー。」
「ゔぅ。」
僕たち4人は横に並んで、休憩室の窓から外の様子を眺めていた。ここしばらく大雨なんて降らなかったのに、今まで降らなかった分を取り戻す勢いの土砂降りが降り注いでいる。
『開催を予定していました、ストリートのゾンビナイトは悪天候のため開催を見合わせています。どうぞご了承下さい。』
雨音と共に場内に流れるアナウンスが、僕たちゾンビの控え室にも聞こえてくる。今日ゾンビナイトを楽しみに来てくれるお客様への申し訳ない気持ちでいっぱいになる。しかし、だからと言って僕に何かできることなどない。雨をやませる力があれば、とっくにやっているのだけど。ただの1人の人間の僕にそんな力などなかった。
「ゔぅ…。」
「ゾンビさんも折角メイクしたのに残念ですね。」
「ゔぅ…。」
僕は横でしょんぼりとしているゾンビさんを慰めていた。ゾンビさんもいつもより心なしか元気がない様に感じる。そうしていると、オラフさんがスマートフォンで天気予報を調べて、僕に話しかけてくる。
「やっぱり、今日はもう夜中まで天気は回復しないみたい。」
「そうかー。残念だにゃーー。」
「おぉ…。光あっての闇…。」
完全にゾンビへと変身している三人が話している。僕はリトルナイトベアーの着ぐるみを着るだけなので、メイクの手間を考えると三人より少し楽だ。ちなみに先程天候が回復しない限りナイトベアーショーも中止との連絡がミッキーさんから伝えられた。しかし、これだけ沢山の人がわざわざゾンビのメイクをして準備もしていたのに、結局中止なんてあんまりだ。お客様も楽しみにしてきているのに。人間の力など大自然の前では無力である。
「んー、何とか出るわけにはいかないんですかね?例えばゾンビが傘をさしてストリートに出るとか?」
「あはは!カッピー!傘をさして徘徊するゾンビがどこにいるって言うんだよー!なぁ?ゾンビさん!」
「ゔぅ…!!ゔぅわぁはっはっ!!」
僕の傘ゾンビの提案に大爆笑するハナさんとゾンビさん。そんなことを言うなら大爆笑するゾンビだっていないだろう。ゾンビさん、今の自分の姿を鏡で見てください。腹を抱えて大爆笑するゾンビがどこにいるって言うんですか。
「…。もういいです。僕ちょっとコーヒー買ってきます。」
「あっ、ちょっとおい!カッピー!ごめんって!拗ねるなよー!」
〜〜〜
コーヒーを買って休憩室に戻ると、そこには机の上に地図を広げて何やら会議をしている集団がいた。その中心にはビッグボスがおり、ゾンビだらけの休憩室でとても目立っていた。
「こことかどうですか?」
「うーん。去年そこでやった時、人が詰まってあんまりだったんだよねー。」
「ぼ、僕ずっとここでやるのがいいんじゃないかと思ってた。」
「オラフくん!そこいいじゃん!ビッグボス、そこにしてみようよ!」
「確かにいいわね。そこでする方向で指示してくるわ。」
コーヒーを持ってゾンビ集団とビッグボスの会議を遠巻きに眺めていると、急いだ様子でビッグボスが休憩室から出ていった。
「何やってんだ、カッピー!コーヒーなんか持って立ってる場合じゃないよ!」
「そうだよ。カッピー、早く準備しないと。」
「おぉ…。闇を…。」
「え?準備って何を?一体何の話してたんですか?」
「ミッキーさんも探してたよ!」
「え?!ミッキーさんも?ショーは中止だって聞きましたけど…。」
ここで僕は閃いた。このみんなの慌てよう、間違いない。
「まさか傘でストリートを徘徊することが決まったんですか?」
「何バカなこと言ってるんだ!ふざけてる場合じゃないよ!」
「ゔぅ…!!ゔぅぉあ!!」
何だ、違うのか。僕のさっきの傘ゾンビのアイデアが採用されたかと思ったのに。じゃあ一体何をするって言うんだ。僕らの様子を見かねて、オラフさんが優しく説明してくれる。
「2人ともカッピーに意地悪しちゃかわいそうだよ。これから“雨グリ”があるんだよ。」
オラフさんが優しく説明してくれたのはいいが、全く聞きなれない言葉があった。“あめぐり”がある?“あめぐり”って何ですか?栗?確かに今は秋で栗のシーズンだけど、考えても全くわからない。雨が降ると栗を食べる習慣がゾンビナイトではあるのか?
「そんなわけないだろ!おバカカッピー!」
「むかぁ!じゃあ何なんですか!」
「あ、雨グリっていうのは雨グリーティングの略だよ!」
ーー雨グリーティング??
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