第93話 (81)風待ち
「うー、寒い。」
「そりゃもう秋なんですから、半袖は寒いでしょうよ。」
「この前まで暑かったのにー。こんなに寒くなるんなら、天気予報士ももっと声を大にして宣言して欲しいもんだね。」
「天気予報士達も精一杯公共の電波に乗せて、ちゃんと周知してますよ。ハナさんがちゃんと確認しなかっただけでしょう。」
「相変わらず手厳しいね、そんなんじゃ未だにモテてないだろ。」
「んなっ!ハナさんだってモテてないでしょう!」
「私は毎日カメラ抱えた男に追いかけられてモテモテさー。ファンだっているんだぜ?」
ハナさんはそう話すと、遠くの方を見て笑っていた。前髪が風に吹かれて捲れ上がっていた。久しぶりに見た彼女の顔は共に過ごしたあの日々とちっとも変わっておらず、あの頃の様にくだらない話をするのに、そう時間は必要ではなかった。
「それにしても急に連絡をくれるから、びっくりしました。」
「…。心配…かけたかなって思ってさ。」
「心配なんて…、しましたよそりゃあ!」
「優しいね。気遣いできる女はモテるぞ。成長したな。」
「そういうハナさんは成長してませんね。」
「折角褒めてやったのに!生意気言いやがって!」
結局この空白の時間のことは聞けなかった。脳裏にRainのオーディションのことや『アレ』の映像が浮かぶ。しかし、いざ面と向かって話すとどうでも良く思えてくる。今はまだ聞かなくても良いかな。今こうやって話せたことが全てな気がした。
「まぁ、元気そうで良かったです。今度ゾンビナイトに遊びに行きますよ。」
「おー?ビビリの癖に!」
「ビビリじゃないですよ!」
「まぁ来るのなら、特別サービスで驚かしまくってやるよ。旧知の仲の出血大サービスだ。ちびるなよ?」
「ちびるのは、ハナさんでしょ。」
「なにっ!チビってなんかないわ!」
「いや、私は知ってます。ハナさんはチビりました。」
「っ!!出鱈目言うなーー!」
私とハナさんはぐるぐると追いかけ回っていた。ふと空を見上げると、月の光が私たちを包んでいた。風があの頃の匂いを纏った私たちを吹き上げる。あの日々はもう戻らない。私もハナさんもそれぞれの道を歩いているけれど、こうやってまた顔が見られたなら、またそれぞれ歩いて行ける。こんなセンチメンタルな気持ちになったのは、月の光に酔わされたせいかな。
「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!
ここまで読んで頂いて本当に嬉しいです。
このキャラのエピソードもっと読みたいなどあれば、コメントで教えて頂きたいです!
ぜひよろしくお願いします!