第90話 (79)トドカナイカラ
「申し訳ありませーん。立ち止まらず、歩きながらゾンビを楽しむようにお願いいたしますー。」
「『アレ』はないんですよー。ごめんなさいー。このゾンビさんたちももう登場しなくて。はい。ごめんなさいー。他にも魅力的なゾンビさん達いっぱいいるので!」
『アレ』で混雑する囚人エリアでお客様の動線をテキパキと確保し、その合間で子どもたちの質問にも答えるあかねちゃん。あぁ、可愛い。素敵だ。僕があかねちゃんを見つめながら、ぼーっとしていると外国のお客様が話しかけてくる。
「Where are crown zombie ?」
「あっえっ?!クラウン?あっ、ピエロゾンビですか?それでしたら、こう真っ直ぐ行って右に曲がったところのエリアに。はい。日本語わからないですか?えー、ゴーストレート?ターンライト。クラウンぴえろー!どんどん、ぱふぱふー。」
「Oh thanks.Mr. Tateno.」
「えっ?どうしてタテノって。あぁ名札か!サンクス!グッドトリップ!」
何とか持てる全ての英語力で対応したぞ。伝わったようで何よりだ。『アレ』からというもの、このエリアもかなり忙しくなってしまい、仕事中はあかねちゃんと談笑する暇もなくなってしまった。それだけでなく、仕事が終わった後もあかねちゃんは疲れ切っていて、ずっとビッグボスみたいな顔をしている。ビッグボスはよりビッグボスの顔をするようになっている。仕事前もビッグボスと何やら改善案などを話し合っている。同じバイトだったのに、あかねちゃんだけどんどん仕事をこなしている感じがする。近頃はビッグボスの側近のようになってきている。リトルボスと呼ばれる日も近いのかもしれない。いやいや、こんな話はどうでも良い。問題は僕とあかねちゃんの関係についてである。
ーーまた、遊園地行こうって約束したんだよな。
『アレ』が起こったあの日、2人で遊園地に遊びに行って、僕たちの距離はグッと縮まった気がしていた。しかし、それ以降あかねちゃんと僕は特に何もなく、次のデートの予定も立てられないままである。僕から切り出した方がいいのか?しかし、デートの予定を立てると言うことはジェットコースターに乗る予定を立てると言うことである。ジェットコースターへの恐怖心のためか、中々話を切り出せずにいた。
〜〜〜
「はぁ〜。」
休憩室でため息をついて、机に突っ伏すあかねちゃん。いや、あかねちゃんだけではない。ゾンビナイトのストリートの仕事に当たっていたスタッフ達は皆疲れ切った顔をしている。僕、タテノを除いて。
ーーあれ?何で僕は疲れてないんだ?
僕も同じ時間働いて、同じだけお客様の対応をしているはずである。それなのに、休憩室に入ってため息をつくでもなく、机に突っ伏すでもなく、あかねちゃんが疲れた様子を見て、疲れているあかねちゃんも可愛いなぁと思える余裕がある。何でだろう。僕は特に体力があるわけでもない。身体的には平均的な凡庸な男である。
休憩室で疲れているスタッフ達に囲まれながら、少し考えた後にタテノくんは真理に辿り着いた。
ーーあっ、恋してるからだ。
恋のパワーが僕を突き動かしているに違いない。ラブパワーで疲れてないのだ。これは間違いない。だってそれしかないもん。あぁ、偉大なり。恋の力。
偉大なる恋の力に気付いたタテノくんは、その見えざる力に突き動かされ、あかねちゃんの元にずいっと寄った。
「あかねちゃん!話があるんだけど。」
「ん?何?タテノくん、改まってどうしたの?」
あかねちゃんは上半身を机から起こして、タテノくんに答える。何やら真剣な顔をして、こちらに向くタテノくんの顔を見て、あかねちゃんはあの日の遊園地デートを思い出してすこしドキッとしてしまっていた。
「今度遊園地のジェットコースター、リベンジしようよ!」
「あー私もしたいと思ってたんだけど、しばらくは無理そうなんだよね。」
「え?!何で??」
「私とタテノくんの休みの日が、今月いっぱいは被ってないんだよー。私も行きたいと思って、調べたんだけど。」
ーーわ、私も行きたいと思って調べた?!
タテノくんはじんわりとした暖かさを胸に感じていた。あかねちゃんからその言葉を聞けただけで十分である。
あかねちゃんは僕とデートに行こうと思って、シフトまで見てくれていたのだ。もうこれはカップル成立ですよね?フラグ立ってますよね?
「じゃあ、今月いっぱいはデートは無理か。はは。」
「デートじゃないから!この前のリベンジってだけ!」
「え?!」
デートではないのか。危なかった。この勢いのまま告白するところだった。そもそもこんな休憩室でみんなが見ている前で告白するのもおかしいか。色々と間違えていた。危ない。それにしても、今月いっぱいは無理ということは、ジェットコースターのリベンジは早くてもオールナイト以降になってしまうということか。
「はぁ〜。」
疲れた様子のあかねちゃんを再び見つめる。あかねちゃんも疲れているようだし、リフレッシュの意味でも連れ出したかったんだけど、それも難しいということか。うーん。何か良い方法がないものか。
「タテノくん!休憩終わりだよ!行くよ!」
「あっ!うん!待ってよー!」
遊園地が好きで遊園地で働いているのに、遊園地で遊べないなんて何だか皮肉な話だな、と思うタテノくんだった。
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